第438話 元魔王の力
「――――もう一度! 『岩礫』っ!」
『いっくよー! 『水槍群』っ!』
「『火の絶叫』――――っ」
俺たちの一斉攻撃によって。
複数の属性魔法が目の前の爺さんに目掛けて飛んでいく。
岩の塊の弾丸が。
ベニマルくんがあっちで炎の羽槍としてやっていたのを真似た、ウルルちゃんによる無数の水槍による同時攻撃が。
ビーナスが放った炎を纏った音速の衝撃波が。
目の前の一個の生命体へと吸い込まれるようにして直撃する――――。
――――だが。
「先程よりは威力があがっているようじゃな。だが――――甘いのぅ」
「――――っ!?」
また、先程と同じように無効化された――――。
いや、見た目には確実に魔法を喰らったようなエフェクトがあるのだ。
にも関わらず、直後には『土魔法』の岩も『水魔法』の槍も。
燃え盛る衝撃波までもが。
目の前のブリアンの身体を貫いたにもかかわらず、まったくの効果を与えることなく、次の瞬間には消え失せてしまう。
クリシュナさんの『回避』とも違う。
喰らっているのは間違いないにもかかわらず、まったく効いていない。
――――これが『魔王』の力!?
「ちっ……厄介だな――――『聖術』!」
横でカミュが放った『光魔法』のようなレーザー光線にも似た攻撃もまた――――。
「お主には見えておるのであろう? 無駄じゃよ」
「ったく……むかつく爺さんだな」
カミュがそう言って舌打ちするのも無理はない。
間違いなく貫通したはずの攻撃がまったく効果を発揮していないのだ。
あの『毒の竜』相手でも、それなりに余力を持って戦えていたカミュの攻撃でもダメか。
いや……。
似たような敵とは遭遇したことがあるよな?
『コッコダンシング』のクエストで遭遇した、『ブリリアントコッコ』のグレア。あのコッコさんも似たような攻撃無効化を行なっていた。
あの時は確か――――。
「……もしかして、この爺さんもグレアと同じような?」
目の前にいるのは幻影体とかってオチか?
だが――――俺の疑問に対して、横にいるカミュが否定する。
「違うぞ、セージュ。だからこそ、この爺さん、むかつくんだが」
「えっ――――?」
「幻影とか、偽物の身体の遠隔操作とか、そういう小細工なカラクリじゃない。だからこそ、質が悪いんだが」
『セージュー、あの時のコッコさんとはちょっと違うよー。だってー』
「あの時にはあった『小精霊』の流れがないわ。どっちかというと――――」
『うんうんー、ウルルたちの本体に近いかもー』
「えっ!?」
俺に『憑依』しているウルルちゃんも、横にいるアルルちゃんも同様の結論らしい。
…………それって。
「『精霊種』の本体ってことは――――『物理無効』!?」
「ああ……ったく、『無効系』や『吸収系』のオンパレードかよ……忌々しい爺さんだな」
かなり渋い顔をしながら、カミュが続ける。
「『土属性無効』『水属性無効』『火属性無効』『光属性無効』……加えて、それぞれに『吸収』の類もある……な。ビーナスの『苔弾』の『麻痺』攻撃も無効化してたし、そのほとんどが、ことごとく『効かない』レベルだ」
「当然だの」
カミュの言葉に、当の元魔王さまがさもありなんと頷く。
「代々の『魔王』とはそういうものじゃ。無論、個人差はあるがの。『魔王』の力は強大な攻撃能力だけに向けられたものではないぞ?」
「――――!?」
「……だろうな。ルーガの能力を知ってから嫌な予感はしてたんだよなあ……他人の能力を流用できるってことは――――まあ、極めていけばそうなるわな」
だからこそ、『教会』も複製や強奪系の能力に関しては最大限の警戒をしている、とカミュが肩をすくめる。
もっとも、とカミュが続けて。
「本当に恐ろしいのはあんたじゃないがな」
「ほぅ?」
どういうことだ?
俺が疑問の表情をカミュに対して向けると。
「あたしが想像してた以上に洒落にならん存在だってことさ。まあ、完全な敵対状態じゃないのが救いか? ったく………………」
「……?」
「何のことじゃ?」
うん?
ブリアンの爺さんも意味がわからないように眉根を寄せているぞ?
相変わらず、カミュってたまによくわからないことをぼやいてるよな。
と、カミュがいつものシニカルな笑みを浮かべて。
「なに、本当に怖いのは、今の爺さんを維持できてるやつってことさ。まあ、それはいい――――おい、セージュ」
真剣な眼差しをこちらに向けてくるカミュ。
そのまま、無言で。何かを言いたそうな表情のまま黙るのを見て――――。
……『どうする?』って?
目の前にいる障害でもある爺さんは、ほぼすべての攻撃が無効の敵だ。
だから。
カミュの視線は、一度、この場から引くかどうかを俺に問うているように感じた。
……そうだな。
一瞬だけ、俺も考えて。
――――本当に何も効かないのか?
前に、カミュも言っていたはずだ。
『完璧な能力は存在しない』、と。
一見すると、どれほど完璧に見える能力であろうとも、必ず、隙はある、と。
だから。
ひとまず、逃げるにしても、やることはやっておかないとな――――!
だから。
俺はなっちゃんとアルルちゃんに、サインを出して――――。
「きゅい――――!」
「大きめでいいのね? ――――『土壁』」
「……ほぅ?」
生み出されたのは複数の『土魔法』の壁。
その壁を目隠しに、爺さんとの距離を詰める。
そして――――。
「む――――!?」
「――――!」
直後。
音もなく放たれた『弾丸』が爺さんの身体を貫いた――――。




