第434話 農民、城の頂きを目指す?
「結構、夜通しで挑戦している人も多いみたいだな?」
「うーん、結局、おか……お姉ちゃんたち、帰ってこなかったね?」
「ほんと、どこに行ってるのかしら?」
夜が明けて、朝ごはんも済ませたので、今日もそのまま『お城』までやってきた俺たち。
その1階でもある、コッコさんたちの『お宿』ではもうすでに数多くのコッコさんたちがせわしなく動いていて、その周りには迷い人さんたちの姿もちらほら見かける。
何人かに話を聞いたところ、『死に戻り』からの復活も早まったので、それを利用して、何度もチャレンジしている人もいたらしい。
……大丈夫かな?
一応、隠しのステータスで『浸食率』ってのがあるんだけど。
たぶん、気付かずに死にまくってる人も多い気がする。
とは言え、さすがにこの情報を『けいじばん』に吹き込んでいいかどうか、かなり悩ましいし。
削除されるだけならいいけど、何となく嫌な予感がするんだよな。
さておき。
今日も当然、『魔王城』の攻略を目指すのだが、今日に関しては、一応、策があるというか、昨日のカミュとの話で、一緒に上を目指すってことになったので、それを待っている状態だ。
ちなみに、人数制限については、11階からは解除されている。
それについては、他の到達した迷い人さんが確認済みだ。
その場合は、中で合流する必要があるみたいだけどな。
一応、11階のスタート地点からなら、合流も容易いので、それで問題ないようだ。
――――というわけで、しばらく待っていると。
「悪い、遅くなったな」
そう言いながら、こちらに近づいてくるカミュの姿が見えた。
お?
そして、カミュの横にいたのは――――。
「お人形さん? いや……小人さん?」
カミュと一緒にやってきたのは、スーツを着た小さな男の人だった。
まるで人形が動いているみたいだと思ったのは、昨日の12階での攻防のせいだろう。
一瞬、反射的に敵かと思ってしまったぐらいだし。
その小人さん、ちょっと目を引くのが、額に埋め込まれた緑色の輝く石だろう。
光が反射して、宝石のように輝いている。
「ああ。昨日も言ったろ? こいつが助っ人の――――」
「ルドルフと申す」
凛とした態度でのお辞儀。
そして、見た目の可愛さとは異なり、随分と渋い声だったことに驚かされる。
声だけなら、初老のダンディな俳優さんのようだ。
「此度はうちのカミュがご迷惑をおかけし――――」
「おい、ちょっと待て、ルド。あんた、何、変なことを口走ってんだよ?」
「当然、謝罪だ」
「いや、だから、何であたしが悪いことになってるんだよ?」
「違うのか?」
「違うに決まってんだろ」
「ふむ……では、初めからわかった上で、こうなるように誘導した意図はないと?」
「当たり前だろ。あたしは神様かよ?」
「『蒐集家』殿がカミュのことをどう見ているか、その予測についてはルビーナから警告があったはずだが……君、自覚はあったのか?」
「警告だと? いや、そんなものは――――」
「……やはりか。そこが君の魅力だと評価する者もいるがね。君は少し、短絡的に動きすぎるきらいがある。少しは自分の立場というものを考えたまえよ」
「知るか! その話はルビーナと百万回はやったぞ。大体、あたしが嫌なら、さっさと元のとこに戻せよな」
……えーと?
その、ルドルフさんの自己紹介の途中で、いきなり、カミュとルドルフさんの言い争いみたいな感じになってしまったんだが。
どちらかと言えば、カミュが感情的に怒って、ルドルフさんが冷ややかな感じで対応しているというか。
いや、何にせよ、いきなり、揉め事は勘弁だぞ?
「すみません、俺たちには事情がさっぱりなのですが……」
「失礼。内輪の話で盛り上がってしまったようで。カミュ、この続きはまた今度だ」
「――――だから、あんたらと会うのは嫌なんだよなあ。ルド、あんたもルビーナとは別の意味でタチが悪いぞ。このくそ真面目が」
「真面目なのは美徳だが?」
おーい。
このままだと、いつまで経っても話が進まないぞ?
「そうだそうだ! 今、こんなことやってる場合じゃないっての! さっさとこんなクエスト終わらせるぞ! まったく……10階まで終わらせるのに、あたしがどれだけ苦労したと思ってるんだ!」
「そういえば、カミュ、あの後、ひとりで登ったのか?」
「まあな。はは、結果的にひどいめにあったぞ? あの野郎、今度会ったら……いや、今回のエヌのやつのせいか? せめて、一発殴らせろってんだ!」
「カミュ……君ね、そういう態度は慎むようにすべきだろう?」
「知るか」
示しがつかないだろう? と呆れるルドルフさんに対して、ばっさりと斬って捨てるのがカミュだ。
うん。
よくはわからないが、色々と面倒な関係のようだ。
少なくとも、ルドルフさんが教会関係者なのはわかるけど。
「とにかく、だ。この面倒なクエストをさっさと終わらせるためには、本当に忌々しいが、このルドルフの能力が打ってつけなんだよ。だから、仕方なく、本当に仕方なく、あたしが頭を下げて、助っ人として来てもらったんだよ」
「…………いい加減、帰ってもいいかね?」
「ふざけんな、代わりに条件も飲むと言っただろうが。今帰るなら、そっちもなしだからな」
「……わかっている」
「えーと……その、ルドルフさんが一緒だと、ダンジョンを突破できるのか?」
「ダンジョンを突破するというか……まあ、見てもらった方が早いと思うぞ」
「少なくとも、ここが『魔王城』に類する造りであるのなら、問題はない」
俺の問いに、それぞれ頷くカミュとルドルフさん。
まあ、俺としては、細かい事情よりもルーガのいる場所まで進めれば、それでいいわけだし。
そのまま、俺たちはカミュとルドルフさんに先導されて、再び『お城』の中へと突入した。
◆◆◆◆◆◆
「へっ!? これって、どういうことだ!?」
11階の入り口から入って、そのまま、最短距離で12階まで駆け抜けようとした俺たちに対して、ルドルフさんが待ったをかけて。
そのまま、何やら、地面に手を触れて調べていたかと思うと。
次の瞬間には、俺たちは全員で、まったく別の場所へと移っていた。
いや、何を言っているかわからないだろうと思うが、俺もわかっていない。
瞬間移動? 転移?
そういう感じのような、そうでないような。
何とも訳の分からない不思議な感覚に陥ってしまったぞ?
「単純だ。ここが『魔王城』であるのなら、当然、あるべきものがある」
淡々と、そう言ってくるのはルドルフさんだ。
「あるべきもの、ですか?」
「この『城』の住人がわざわざ丁寧に階層をひとつずつ経由して、移動を行なうか? 答えは否。あくまでもダンジョンは仕掛けに過ぎない」
「まあ、それは普通のダンジョンでも同じだけどな。こいつ……ルドの特殊能力だ。『謎の看破』。そこに仕掛けがある限り、その仕掛けをたどって、カラクリの全容を見抜けるんだ。まあ、早い話が――――」
そう言って、今、俺たちがいる空中庭園のような場所から、カミュが一歩外へと道を踏み外す――――と。
次の瞬間、再び、視界が変わって、別の場所へと移動された。
今度は普通のお城のような場所だ。
「――――こうなる。『裏道』というか、『近道』だな。異なる空間同士を無理やりひとつのダンジョンにまとめてしまうと、どうしてもこういう道ができてしまうんだとさ。あたしは『空間魔法』の適性がないから、比較しにくいんだが、ルドが一緒なら、こういう歪みを使って、転移し放題ってわけさ」
「本来は住人の避難経路などに使われることもあるな」
――――凄いな。ということはルドルフさんにとっては、どんなダンジョンであってもあっさりと攻略が可能ってことか。
「無論、不可能な場所もある。周囲のはぐれモンスターが強力すぎる場合、この能力だけでは突破は難しい」
「『無限迷宮』なんかはそっち系だな」
言いながら、突然襲い掛かってきたモンスターを一撃で倒すカミュ。
その間、ルドルフさんはカミュの影に隠れるようにして。
なるほど。
戦闘能力はそれほど高いわけじゃないってことか。
「ちなみに、ここって、どの辺なんだ?」
大分ショートカットできたのはわかったけど、現在位置はどの辺なんだろうか?
そう、俺が尋ねると。
にこりともせずにルドルフさんが答えて。
その後に、カミュが苦笑しながら補足してきた。
「玉座の間のすぐ側だ」
「たぶん、もう少しでゴールだと思うぞ?」




