第432話 農民、ひとまず攻略を中断する
――――『魔王城』、12階層。
ここまで比較的にあっさりと進むことができていたせいで、多少、心に油断があったのかも知れない。
今まで通過してきた区画のような広大さはない。
雰囲気としては朽ち果てた洋館の中にいる、というイメージだろうか。
ゴシックホラー的な家の中というか、ホーンテッドマンションの中をさまよっているというか。
「いや、そもそも、お城の中に館があるのがおかしいんだけどな……」
一応、ここは『12階』という風になっているのに、この階の中で階層の上下移動が存在するのだ。
通常のダンジョンが平面だとすれば、ここはひとつの階の中に立体迷路が仕組まれている、とでも表現できるだろうか。
いや、明らかに階層の表現としてはおかしいとは思うけど、そういう風になっているのだから仕方ないのだろうけど。
とはいえ。
この12階。
今までの区画と比べて、難易度が跳ね上がっているのは間違いない。
結構な時間をかけて歩き回っているにも関わらず、次の階層へと進むための扉が見つからないのだ。
もっとも、今までが簡単すぎたのかもしれないけど。
「さすがに一部屋一部屋が狭いと『精霊眼』でもどうしようもないものな……」
「壁の向こう側までは見えないからねー」
ウルルちゃんの言葉の通り。
むしろ、広大な場所の中で扉を探す方がまだ簡単だったんだよな。
ここのような閉鎖的なダンジョンの場合、地道に進んでいくしかないのだけど、部屋の造り自体は立体になっているせいで、だ。
はしごを登ったり、階段を下りたり。
正直なところ、現在位置がものすごくわかりにくくなるのだ。
なっちゃんが『土魔法』を使って立体的にマッピングみたいなことをしてくれているから、漠然とどういう風に進んできたのかがわかるけど。
……というか、なっちゃんの『土魔法』の操作も堂に入ってきたよな。これも『土人形操作』の応用だろうけど、空中に立体図を浮かび上がらせてくれているのはとっても助かる。
これがなかったら、本気でマッピングに苦慮していたはずだ。
「マスター、また来たわよ」
「……またか」
そして、この階層の敵というのが――――。
名前:呪われのスティーブ
年齢:◆
種族:人形種
職業:元・御守り型
レベル:◆◆
スキル:『槍技』『盾技』『念動力』
名前:呪われのパルパル
年齢:◆
種族:人形種
職業:元・奉仕型
レベル:◆◆
スキル:『手当』『料理』『裁縫』『針技』『念動力』
名前:呪われのシロ
年齢:◆
種族:人形種
職業:元・愛玩犬型
レベル:◆◆
スキル:『体当たり』『牙技』『咆哮』『念動力』
「――――何で、呪いの人形ばっかりなんだよ!?」
本当に趣味が悪いにも程がある。
というか、大きさが小さい上に結構硬いので逃げられたりもするのだが、それぞれの人形に名前がついているあたり、かなり作り手からの悪意が感じられるぞ?
しかも、見た目と違って、きちんと戦術的に攻撃を仕掛けてくるようなので、質が悪いのだ。
普通にヒットアンドアウェイを繰り返して、撤退したり、こちらの攻撃で深手を負わせた人形を介抱するかのようにして、別の人形が運んで行ったりとか。
決して、攻撃力が強いわけではないけど、どの人形も『念動力』の能力を備えているようで、素晴らしくやりにくい相手なのだ。
もちろん、この人形たちも倒せば、『◆◆◆◆の核』となるので、あくまでもこのダンジョンで生み出された系のモンスターなのだろうけど、それにしても、今までとは毛色が違うので、困惑させられるというか。
おかげで探索が思うように進まないわけで。
ひとまず、この部屋で襲ってきた三体の人形たちを退けた後。
改めて、ステータス画面の時計をチェック。
時刻が深夜に及んでいることを確認した上で。
「……仕方ない。一度戻ろう」
他のみんなにそう提案して。
俺たちはそのまま、『1だけサイコロ』を使って、『コッコのお宿』へと戻ることにした。
◆◆◆◆◆◆
『コッコのお宿』に戻ると、他の迷い人さんたちの姿もあった。
俺たちのことに気付いて、何人かが近づいてきたので、そのまま情報交換をすることにした。
「おーい、どうだった、セージュ? どこまで進んだ?」
「12階です、テツロウさん」
「早いな!? 12階ってことは……もう、チュートリアルの部分は越えたってことだよな?」
「はい。ですが、そこから先が厄介ですね」
ひとまず、自分たちが通過してきた『区画』とその特徴について、ひとつひとつ簡単に伝えていく。
「へえ、やっぱり、すべての区画には複数の扉があるのか」
「基本、一方通行だから、ひとつひとつ検証するのが大変そうね」
「うちのパーティで、行ったり来たりして試してみたけど、扉の出現個所は毎回変化するようだね。一緒なのは『場の属性』だけのようだよ」
「げっ!? 黒さん、それ本気!?」
「…………挑戦するたびに、内容が変化するタイプのダンジョンかぁ」
「『知識チート実験室』……? 何それ?」
「1階が『コッコのお宿』で、2階が『拡張エリア』。で、普通なら3階からダンジョンになるんだよね?」
「隠し扉?」
「確証はないけど、みんなから集めた情報を集約すると、そういう感じの『部屋』がいくつか存在するようだね。ええと……? その『知識チート実験室』に、『料理研究室』、あと『モンスタールーム』か」
「ええ。『料理研究室』は僕らが5階で通過しました。いくつか、その部屋にある食材を使って料理をして、それをボスモンスターさんに食べてもらって、という感じでしたね」
「生産職向けの『部屋』もあるってこと……?」
「何だか、まだまだ謎が多そうなダンジョンだなあ」
うん。
色々な情報が集まってきたんだけど。
そのせいで、余計、この『魔王城』の異様さが浮かび上がってきたような気がしたぞ?
ちょっと面倒なのは、このダンジョンに関する情報は『けいじばん』を使うことができない点だな。
基本、吹き込みNGの内容が多いのだ。
そのせいで、他のみんなもこんな夜遅くまで『コッコのお宿』に残って、話し合いを続けていたらしい。
「ちなみに『死に戻った』人っています?」
「まだいないようだね」
「最初に、離脱用のアイテムを渡されたからな」
「まだ、ここに戻ってきていない人たちもいるから、全員がそうかはわからないけどね」
「あっ、セージュー、やっぱり、おか……じゃなかった、お姉ちゃんやシモーヌたちも帰ってきてないみたいだよー」
なるほど。
ウルルちゃんの言う通り、フローラさんたちの姿が見えないな。
でも、もしかして、もうサティ婆さんに家に戻ってたりしないか?
案外、そっちで待ってるような気もするけど。
「そうだね。情報共有の手段は必要だね。だから、さっき『コッコのお宿』の宿帳の横に一冊の『白本』を置かせてもらえるように交渉したよ。共有しても問題ない情報については、各々そこに書き込んでもらってもいいかな?」
「へえ、さすが黒さん。まあ、『けいじばん』が使えないんだもんな」
「『白本』ってあれね? あの本もアイテムの一種なの?」
「ああ。こちらの独自文字を覚えることで、進行するクエストの報酬だったよ。本当は『魔導書』とか『巻物』を作ったりするのに使えるらしいけどね」
「えっ!? 貴重品じゃないの!?」
「まあ、テスター期間もあと少しだし、取っておいても仕方ないからね。希少消耗品は使う派だよ、俺はね」
「あー」
「そうそう、もったいなくて、最後までインベントリに残ってる残ってる」
「はは、貧乏性なのが多いよな。もちろん、俺もだけど」
「ありがとう、クラウドさん♪」
へえー。
迷い人でも『巻物』を生み出せるアイテムも存在してたんだな?
その手の情報は知らなかったよ。
ともあれ。
今日のところは、それぞれの情報をその『白本』に書き出していって。
今後の情報共有も含めて、方針を簡単にまとめた後で。
夜も遅くなったので、そのまま解散となったのだった。
◆◆◆◆◆◆
サティ婆さんの家にて。
「フローラさんたち、まだ戻ってきてなかったのか」
「うーん……まだ、ダンジョンにいるのかなー?」
「まあ、おかあさんのことだから心配はいらないと思うけど」
結局、残っているみんなが心配だったので、今日のところはログアウトはせずに、そのままサティ婆さんの家で一夜を明かすことになった――――。




