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第431話 農民、巡礼シスターと再会する

 『魔王城』の1階――――『コッコのお宿』の入り口へと戻ってきた。

 最初に足を踏み入れた時と比べると、今は多くのコッコさんたちがいそがしそうに走り回っているのが印象的だな。

 『お宿』というだけあって、『宿屋』区画もあって、そちらの開店準備などにてんてこ舞いといったところだろうか。

 ただ、そのコッコさんもやる気十分で楽しそうにしているので、至って場の雰囲気は明るい。


 そんな光景を微笑ましく見ながらも。


「ふぅー、ようやく戻ってきたねー」

「ひとまず、小休止だな」


 俺は、ウルルちゃんの言葉に頷きつつも、もう一度ダンジョンの入り口へと目を向ける。

 10階まで到達したから、また明日――――というつもりは毛頭ない。

 少し休んで準備を整えたら、そのまま、上の階へと挑むつもりでいた。


 ――――ここからが本番だ。


 『魔王城』の最上階を目指す。

 今までのがチュートリアル風のお試しダンジョンだとすれば、ここから先が手加減なしの場所になる、ということだろう。

 今までのようには行かないことも十分承知の上だ。


 それでも。


 あまり悠長に時間をかけたくはなかった。

 今、ルーガがどういう待遇を受けているのか、まったくわからないから。

 と、同時に、別の想定もある。

 もし、ノーヴェルさんが俺たちの前に立ちふさがったのなら……。


「……うん?」


 あれ……?

 真剣に色々なことへと考えを巡らせていたせいか、気付くのが遅れたが。

 受付のところでユアハトさんと話をしているのって――――。


「カミュ……?」

「ああ」


 俺のつぶやきに、ニヤリと笑みを返すのは金髪の不良シスターだ。


「もうこっちに来れたのか?」

「いや、来たのはもう少し前だ。少しばかりやることがあったんでな」

「やること?」

「ルーガの件を伝えて、ラルに筋を通したりとかな。そうしないと、あたしがこの町に入れなかったからな」


 あー、そっか。

 カミュって、あの時以来、こっちの『グリーンリーフ』に出入り禁止にされてたっけ。

 先の俺との取引で、ルーガの『危険生物指定』を解除してくれたから、それでようやく大手を振って、『オレストの町』を歩けるようになったらしい。


「今、この『城』に関する事情を聞いていたところだ」


 そこにたまたまセージュたちが戻ってきたってわけだな、とカミュが笑う。

 あ、そうだ。


「ところで、カミュもルーガの救出を手伝ってくれるんだよな?」


 そういう約束だったろ? と俺が確認すると、金髪シスターもシニカルな笑みを返してきた。


「ああ。ただ、同行はちょっと待ってくれ。明日にも助っ人が来てくれるようになってるんだ。だから、あたしがあんたたちを手伝うのは明日から、だ」

「助っ人?」


 そんな人がいるのか?

 何となく、カミュが言うと頼りになりそうな感じだけど。


「ああ。エヌには悪いが、こっちも少し本気を出す。てか、あの馬鹿、カウベルからの連絡を『ちょっと待って』ですべて止めやがったからな。少しばかり、あたしも怒ってる」

『まあまあ、そう目くじらを立てないで、ね? エヌさまって、いつもそんな感じだよ? うちたちも連絡しても放置されることなんてざらだし』

「ユアハト、あんたらも少し怒っていいと思うぞ?」

『いや、まあ、そこはそこ。何だかんだ言って、可愛がってくれるからー』

「……相変わらず、眷属に対しては甘いんだよな、あいつ。まあいい、そういうわけだから、セージュたちも今日は適当に動いててくれ」

「わかったけど、カミュはどうするんだ?」

「あたしは明日までに10階まで到達しておくよ。どうやら、アルルが干渉したおかげで『裏道』のひとつが使えなくなったみたいだしな」

「『裏道』?」

「ちょっと待って、わたしのせいなの?」


 カミュの言葉に驚く俺たち。

 カミュとユアハトさんによると、どうやら、アルルちゃんが権限を振りかざしたことで、バルコニーに外から入ることができなくなったそうだ。

 要はカミュが言う『裏道』ってのは、ヴェルフェンさんが入り込んだ方法を指すらしい。

 カミュ自身、同じようにその方法を試してみて、侵入不可になっていることに気付いたらしい。


「もちろん、アルルが悪いって言っているわけじゃない。ちょっとだけ、楽ができたのに残念だってとこだ」


 そう言いながらも、カミュが苦笑して。


「まあ、悪い話ばかりじゃない。こうやって、エヌのお遊び(システム)も一部解放されたしな。『コッコのお宿』についてはあたしも手続きを踏んで協力しておいた。後で、タウラスたちもやってくるから、ここの教会で『死に戻り』が可能になる」

「へえ、そうなのか?」


 カミュの言葉に驚いていると、例のぽーんという音が頭の中に響いた。



『◆◆系クエスト【コッコのお宿を大きくしよう』】が進展しました』

『教会設備が使えるようになりました』

『担当のコッコが洗礼を受けました』

『神父はタウラスが兼務となります』

『ダンジョン内での死亡に限り、『死に戻り』までの時間が短縮されます』



 へえ! 『死に戻り』の時間短縮か。

 確かにそれは便利かも知れないな。

 今までの場合、一度死ぬと翌日まで再ログインできなかったものな。


 あ! あっちに修道服を着たコッコさんが現れたぞ?

 おそらく、ケイゾウさんの部下の(ひと)だろうけど。


「実は『コッコのお宿』を大きくするのって重要か?」

「だろうな。これもコッコの『家』なら、成長させれば、外からコッコを召喚する(よぶ)こともできるはずだ」

『今のところは、この場にいるコッコさんだけが協力してくれるかなー?』


 ユアハトさんによれば、パーティー枠の不足分について、ここにいるコッコさんで手が空いている子が協力してくれるそうだ。

 必要なら、空欄をコッコさんで埋められる、と。

 見た目以上に、コッコさんたちもダンジョンでは頼りになるのだとか。


「コケッ♪」

『カミュちゃんもこれからダンジョンに入るなら、どう?』

「あたしはいいよ……あ、別にあんたらがいらないって言ってるんじゃないぞ?」


 そう言いながら、少ししょんぼりしているコッコさんたちの頭をなでるカミュ。


「ただな、環境変化が激しいってなら、あたしの場合、単独行動の方が都合がいいのさ」


 そういうものか。

 まあ、『毒竜』を相手にしていたカミュを思い出せば、足手まといが少ない方がいいのかもしれない。


『じゃあ、ソロで頑張ってねー』


 そのまま、カミュがユアハトさんによってダンジョンに送られるのを見届けて。


「よし。じゃあ、俺たちも挑戦してみるか」


 小休止を終えて、再びダンジョンへと戻る俺たちなのだった。

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