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第429話 『ゼラ』

「……やっぱり、ダメかあ」


 ステータス画面から『けいじばん』を開こうとしたのだが、やっぱり失敗してしまった。

 まあ、仮にダンジョン内で開けるのなら、ヴェルフェンさんの吹き込みとかもあっただろうから、それも仕方ないか。


 ……というか、ルーガはどこだ?


 一応、涼風さんからも情報は得られたとはいえ、心配なのには変わりはない。

 にも関わらず、目の前に広がっているのは一癖も二癖もあるダンジョンという。


 海辺のダンジョン部屋を色々と歩き回った結果、何とか、別の部屋に通じていそうな扉を見つけることができた。

 岩場の陰に、ぽつんと扉だけが立っている光景には驚かされたけど。

 これ、扉の形をしてるけど、空間と空間を繋ぐような働きをしているようだ。

 どこぞのひみつ道具っぽいし。


 今度の扉は緑色をしていた。

 なので、さっきの青色の扉とは別ってことになるはずだ。

 そこで、少しでも情報が欲しくて、『けいじばん』で他の迷い人(プレイヤー)さんの動向が知りたかったのだが、さすがにそう都合のいい話はなかったようだ。

 そもそも、『フレンド通信』も当然ながら、使用不可能だし。


 ちなみに、うろうろと海辺を調べまわっているうちに、例の『核石』は50個以上集めることができた。

 鳥型だろうと、貝型だろうと、魚型だろうと、どのモンスターを倒しても『◆◆◆◆の核石』がひとつ手に入るのだ。

 裏を返せば、それ以外の素材の類は一切入手できていないけど。

 一応、モンスターの死体が消えてしまう前に『解体』スキルを使ってみたのだが、それでも得られたのは『核石』だけだった。

 ただ、ひとつ大きめの『核石』があって、そっちの説明文では『2ゼラ』となっていたので、もしかすると『ゼラ』っていうのは何かの単位かもしれない、とは思った。


 まあ、ここのモンスターはあまり強くなくて助かってはいるよな。

 これなら、みかんと最初に遭遇した時の方が厳しかったし。

 よくよく考えると、レベル三桁のアルルちゃんウルルちゃん双子精霊コンビが一緒だし、ビーナスの『苔弾』も『麻痺』に更に磨きがかかってるし、でこっちの戦力もそれなりだからなのだろう。

 少なくとも、あっち(・・・)で連戦したモンスターたちの方がずっと強かった。

 何事も慣れが肝心ということだろう。


 とはいえ。


 いつまでも、扉の前で悩んでいるわけにもいかないので、結局開けるしかないんだが。

 いや、いざとなったら、例の帰還用アイテムを使ってもいいだろうし。


 ひとまず、お試しでダンジョンに送り込まれたわけだが、あそこに戻れば、ナビさんたちが答えられる質問には答えてくれるはずだ。

 ジェムニーさんとかもそうだったし。

 今考えると、ジェムニーさんって、その手の言動はゆるゆるだったな。


 ……うん?


 あ、そうだ。ちょっと待てよ?

 たぶん、ステータス系統のぽーんをやってるのって『ナビ』さんの誰かだよな?

 ということは、『けいじばん』とかは封じられているけど、完全に遮断されてるわけでもない気がする。


「何かないか?」


 そうつぶやきながら、ステータスの画面を探っていくと――――。


「あ、あった、追加項目」


 ステータスの中でもわかりにくい場所に追加された項目。


 ――――『ゼラ交換』について。


 先程から謎のままだった『ゼラ』。

 それについての注意書きと、『ゼラ交換』に関する説明が触れられていた。なになに――――?



「――――要は、この『ゼラ』っていうのは、このダンジョン限定の特殊通貨ってことのようだな」

「これもお金なの、マスター?」

「ああ、そうみたいだ」


 ビーナスの問いに頷きつつも、その『交換』内容に目を通して。


「ただ、どっちかと言えば、物を売ったり買ったりするというより、ダンジョン攻略のための便利システムと交換という感じらしい」


 例えば。

 『1ゼラ』で『現在位置の確認』。

 『5ゼラ』で例の帰還用アイテム――――『1だけサイコロ』と交換。

 『10ゼラ』で『隣の区画へとランダム移動』というのもある。


 そして――――。


「あ、これは使えそうだな」


 せっかくなので、早速手持ちのゼラのうち『20ゼラ』を使ってみた。


『はいはーい。こちら、ユアハトだよー。よくこの機能に気付いたね、セージュちゃん』

「いや、こういうのは最初に説明するべきでは?」

『うん、うちもそう思うけど、そういうのはエヌさまの遊び心だからしょうがないねー』


 そうケラケラと笑う声がステータスから響く。


 ――――『20ゼラ』で『小一時間チュートリアルサポート』。


 これと交換してみた。

 今回は、ユアハトさんと繋がったようだ。


『でもね、ほとんどの人が気付けていないんだよ? だから、うちたちも暇だったんだー。まだ誰も戻ってきてないし』


 へえ、どうやら、まだみんなダンジョン内で頑張っているようだな。

 そういう情報もサポートに含まれるのか。


『それじゃあ、セージュちゃんたちが聞きたいことってなぁにかなー?』

「俺たちがいるのは『お城』のどの辺なんですか?」

『セージュちゃんがいるのは3階だねー、って、そういうのは『1ゼラ』払って確認してね? まあ、そのぐらいはサービスするけど』


 サービスしてくれるんだ?

 ダメ元で聞いてみたら、ユアハトさんてば、あっさりと答えてくれたな。

 まあ、それも『20ゼラ』に含まれるってことで。


「すでに3階ということは、この『お城』は階段などを使って、上に登っていく造りではない、ってことですね?」

『そういうこと。もちろん、階段であがるところもあるけど。単純に物理的な空間だけじゃないってのは覚えてた方がいいかもね』

「この海辺も『お城』の中なんですか?」

『うん、そう。だって、『魔王城』だもん』

「本来の『魔王城』もこういう造りなんですか?」

『そうそう。もうちょっと広いけどね。でも、広さなんて、色々なやり方で弄れるし。確か、()の『魔王城』の場合、名高い迷宮作成師の作じゃなかったかなー?』


 そういう職業の人もいるのか、あっち(・・・)の世界。

 それはそれで驚きだけど、今は迷宮作成師の話は置いておいて。


「ここに現れるモンスターって、『ゼラ』以外は落とさないんですか?」

『うん、そういう仕様だね。何せ、どんどん増える『はぐれ』ちゃんは――――あ、ごめん、削除が入ったみたい。この情報はここまでだねー』


 ……うん?

 モンスターに関する質問はNGってことか?

 『けいじばん』と似たような措置が取られたようだ。

 少なくとも、この中で『解体』しても無意味だってことは間違いない、か。


「ここのモンスターが弱いのもチュートリアルだからですか?」

『うーん……いや、他の迷い人(プレイヤー)ちゃんたちは、結構苦戦してるよ? だから、この機能に気付くのが遅れてるんだし』

「えっ? そうなんですか?」

『曲がりなりにも、レベル二桁後半の『はぐれ』ちゃんが弱いわけないじゃない。その辺のフィールドマップでの平均より全然高いんだよ?』


 そうだったのか?

 というか、あれで二桁後半だったのか……。

 結局、『拳銃』を使うまでもなく、戦闘が終わってしまうんだけどな。


『まあ、しょうがないよねー、エヌさまと同格の相手でも一矢報いるのが可能なぐらいだし。だから、ちょっと今――――あー、またダメかー。ごめんねー、あんまりサポートになってないよね』


 というか、セージュちゃんたち伏せ情報多すぎ、と愚痴るユアハトさん。

 いや、それこそ、俺たちに言われても困るんだが。


「それで、10階まではチュートリアルなんですね?」

『うんー、さっきもうちたちが言ったけど、そういうことだよー。あ、ちなみに『ゼラ交換』のシステム自体は10階より上に行っても使えるからねー』

「へえ、それは便利ですね」

『ふふ、本来(・・)の『魔王城』じゃ無理だけどね』


 その辺は一応、エヌさんの管理する世界だから、ってところか。

 実のところ、『250ゼラ』で『安全地帯(セーフティゾーン)形成』という項目もあって、それは中々だと考えていたのだ。

 使えるものは何でも使って、早くルーガを迎えに行く。

 そのためにも、この『サポート』の重要性。

 それを強く感じた。

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