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第428話 農民、お城の迷宮に挑む

「……それにしても、長い廊下だな」


 最初に送られたスタート地点は廊下……というか、回廊の途中だった。

 単純に、前に進むか、後ろに進むかの二択。

 それがまっすぐずっと続いていた。

 だから、俺たちはとりあえず、前の方へと進んでみたのだけど。


「特に何もなさそうよね、マスター?」

「ああ……ダンジョンって聞いたから、てっきりモンスターぐらいは出くわすと思っていたんだが」

「ねーねー、ウルル、ダンジョンって初めてなんだけど、みんなこんな感じなのー?」

「……どうだろうな?」


 確かに、ゲームでいうお約束のダンジョンではあるよな。

 迷路上になっている、少し狭い感じの通路を歩いていくのって。

 壁の色は、外から見ていた時の『お城』の壁に似ているから、同じような素材なのだろう。一応、触ってみたけど、押し返す感じの弾力性は外壁のそれと一緒だった。

 にも関わらず、わずかなぐらつきもない。

 本当に不思議素材って感じだよな。

 確か、『千年樹』さんの素材って話だったと思うけど。


 ただ、『鑑定眼』で壁を見ても特に何も反応しない。

 やっぱり、元が植物だったとしても加工されてしまえば別のものになってしまうんだろうな。


 さておき。


 ウルルちゃんの言葉に、俺も疑問を抱く。

 確かに、ゲーム的な迷宮ダンジョンとしては、こういう風に延々と通路が続いていく感じでもいいのかも知れないけど、ここって、一応、『お城』なんだろ?

 しかも、『魔王城』だって。


 だとすれば、この通路を挟んでいるスペースが何らかの部屋なり、空間なりとして活用していないと変じゃないか?

 まさか、『魔王城』が蟻の巣みたいな造りになってるとも思えないし、そもそも外観が高い塔のような感じだったし。


 ――――と。


 しばらく進んだ先に、少し変わった場所が見えた。


「あれ? もしかして、行き止まり?」

「いいえ、扉みたいなのがふたつあるわよ」


 俺の眼だとまだまだ遠くに見えるけど、アルルちゃんたちにはもう見えているようだ。

 少し歩くとたどり着いたそこは、通路よりも少し空間が広くなっていて、そこに扉がふたつある場所だった。

 片方の扉は赤い色をして、もう片方が青い扉だな。


「……とりあえず、入ってみろってことかな?」

「マスター、どっちに入るの?」

「そうだなあ……」


 たぶん、両方の扉の向こうを調べる必要はあるだろうけど、強いて言えば――――。


「青い扉から行ってみるか」

「青ね?」

「ああ。もしかすると、これ、属性を示している可能性もあるしな」


 今、ここにいるメンバーを考えると。

 俺、ビーナス、なっちゃん、みかん、ウルルちゃんにアルルちゃん。

 『火』が苦手なメンバーが多いしな。

 一応、ビーナスが少し火に強くなったみたいだけど、それでも『苔』などを使うとなると少し厳しいって言ってたし。


 とりあえず、他のみんなから異論はないようなので、青い扉を開けようとすると――――。


「――――へっ!?」


 俺が扉を引いた途端、そのまま、景色が流れるようになって。

 気が付くと、一緒にいた全員が扉をいつの間にか潜った状態になっていた。


「何これ!?」

「ふえー、不思議ー!」

「きゅい――――!?」

「ちょっと待て……扉が!?」


 慌てて後ろを振り返ると、開いた状態になっていた青い扉が、そのまま空間に溶けるように消えてしまった。

 そして、周囲の状況も一変していることに気付く。


「ここ……浜辺、か?」

「大きな川だねー」

「違うわよ、ウルル。これは海って言うのよ。前におかあさんに教わったじゃないの」


 そう。

 海と砂浜が広がっている場所だ。


 いや……本当にちょっと待て。

 ここって、『魔王城』の中じゃなかったのか?


 俺がそんな疑問を抱いていると、頭の中にぽーんという音が響いて。



『基本、こちらのダンジョンの中では、扉は一方通行となっております』

『元の部屋に戻るためには、そこに通じる扉を探す必要があります』



 そう、扉に関する注意が流れてきた。

 なるほど。


「さっきの道に戻るための扉もどこかにあるってことか?」

「マスターが扉に触れた途端にわたしたちも飛ばされたわよね?」

「たぶん、パーティー単位で移動させられるってところだろうな」


 開けてみて、『やっぱりやーめた』ってのはできない仕様になっているようだ。

 そして、移動した後は別の場所にある扉を探さないと元に戻れない、と。


 ……これ、思った以上に厄介なダンジョンだな。


「あっ!? セージュっ!? みんなもっ!」


 ――――と。


 アルルちゃんから牽制するような声が飛んだ。

 それによって、今の状況を理解する。



名前:グランシェル

年齢:◆

種族:魔貝種

職業:

レベル:◆◆

スキル:『体当たり』『毒の舌』



名前:水兵(セーラー)カモメ

年齢:◆

種族:魔鳥種

職業:

レベル:◆◆

スキル:『飛行』『絶叫』『風魔法』



「ここにはモンスターがいるのか!?」

「数は多いけど、種類は少ないみたいね、マスター!」


 現れたのは、ぴょんぴょんと飛び跳ねている大きな貝のモンスターと、帽子をかぶった鳥モンスターたちだ。

 どうやら、ゆっくりと状況を確認している場合ではなさそうだ。


 すかさず、臨戦態勢を取って。


「みんな、油断するなよ!」

「ひとまず、牽制するわね!」

「きゅい――――!」

「ぽよっ――――!」

「セージュー、『憑依』するー?」

「数が多いから、ひとまず、各個撃破でいこう」

「わかったわ」


 ビーナスがまず『苔弾』による牽制を放って。

 そのまま、俺たちは向かってくるモンスターたちへの迎撃を始めた――――。



◆◆◆◆◆◆



 ――――数分後。


「えーと……随分と弱くないか?」

「うんうんー。だって、ビーナスの『苔弾』でほとんど『麻痺』状態になっちゃったもんねー」

「わたしがびっくりしたわよ。ちょっと前の毒亜竜(ヒュドラ)と比べたら、全然だもの」


 数十はいたはずのモンスターの群れは呆気なく全滅していた。

 というか、ビーナスの牽制の時点で、ほとんどの敵は身動きとれなくなったり、バタバタと地面に落ちてきたから、後は個別にとどめを刺すだけだったんだけど。

 曲がりなりにもラストダンジョンって触れ込みだったので、かなり気合を入れたつもりが肩透かしを食らった気がする。


 まあ、たぶん、ここが最初の区画だからだろうな、うん。

 一応、チュートリアルだって言ってたし。


 それはそれとして。

 倒したモンスターから素材が得られるかと思ったら、少し予想外なものが手に入った。



【ゼラアイテム:核石】◆◆◆◆の核。

 この特殊ダンジョンの限定アイテム。1ゼラ。

 お城から持ち出すと、空間に溶けてしまうので注意。



「……核石?」


 すべてのモンスターがこの『◆◆◆◆の核』というアイテムを残して消えてしまったのだ。

 見た目は半透明な宝石のようにも見えるな。

 サイズはほとんどの核が同じで、指輪サイズという感じだろうか。


 …………というか、ゼラアイテムって何だよ? 1ゼラ?


「見たことがない石だねー?」

「何なのかしら、1ゼラって?」


 モンスターがいなくなって、少しだけ落ち着いた空間の中で。

 この石を前に戸惑う俺たちなのだった。

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