第427話 農民、お城の中で戸惑う
「無論、何をもって最後とするかは、迷い人様、おひとりごとで異なりますので、わたくしどもとしましても、複数のラストダンジョンをご用意しております」
ですから、『お城』だけというわけではございません、と奈々ちゃんが説明してくれた。
なるほど。
あくまでも複数ある『ラストダンジョン』のうちのひとつ、ということか。
「つまりは、この『城』のてっぺんを目指すのが目的ってことか」
『うん、そういうことだよ、テツロウちゃん』
「でも、ここって、ダンジョンなの? 見た感じ、宿屋さんとかお店っぽい部屋が並んでるみたいなんだけど……」
「メイア様の疑問ももっともですね。ですが、その辺りは仕様であるとお考えくださいませ。皆様のクエスト達成などにより、評価が加味された結果、少々難易度が下がっているとご理解ください」
『本来の『魔王城』だと、『コッコのお宿』が併設されたりしないもんねー。おかげで、うちたちも配属できたからね♪』
どうやら、『コッコさんたちの家造り』のクエストも無駄ではなかったようだ。
ふたりのナビさんからの説明によると、このお城は大きく分けると、ふたつの施設が組み合わさってできているらしい。
『10階までは『家』が主体だねー。一応、ダンジョン部分もあるけど、そっちは本格的なダンジョンの予行練習レベルかな? 10階から上が『ラストダンジョン』にふさわしい複雑さになってるよー』
「この『町』から近場で到達可能な本格的なダンジョンとなりますと、『戦闘狂の墓場』か『死の砂漠』の地下遺跡などでしょうか。皆様のレベルですと、少し攻略は難しいかと存じます」
「あれ? 『迷いの森』は違うの?」
「『グリーンリーフ』は条件次第でモンスターの襲来が激減しますので」
『完全に『森』を敵に回した状態で突っ切ろうとすれば、さっき奈々ちゃんが挙げたのと同等レベルのダンジョンになるかな? でも、うちが見た感じ、ここにいる人たちって、きちんと手順を踏んでる人ばっかりだから』
「ですから、皆様にとりまして、初めての体験になることでしょう。そのためにわたくしたちがここにいるわけでございます」
そう言いながら、ぺこりと一礼する奈々ちゃん。
「では、改めまして、ご説明申し上げます。まず、下層階についてのお話です」
『さっきも言ったけど、そっちはうちの担当だねー。まず、『コッコのお宿』についてだね。えーと……今、ここにいるコッコちゃんたちが協力者ってことでいいのかな?』
「コケッ!」
『へぇへぇ、もっと増えるんだ? すごいねえ。ま、とにかく、うちの方からコッコちゃんたちには何をすべきか色々と説明しておいてあげるね。それで準備が整ったら、その分の施設の解放がされるから』
わかる? とユアハトさんが両手――羽を広げて。
『簡単に言うと、下層階は『お宿』を立派にしていこうってクエストになってるのね。たとえば、銭湯設備を解放したければ、こんな感じの条件になるの』
ユアハトさんの羽の動きに合わせて。
頭の中で、ぽーんという音が響いて。
『◆◆系クエスト【コッコのお宿を大きくしよう】が発生しました』
『一部、条件を公開します』
『例:【銭湯設備の解放】――――現在、ペルーラに発注している『魔道具』を購入すること。『魔道具』を『お宿』に持ち込むことで設備が解放されます』
『例:【温泉設備の解放】――――【銭湯設備の解放】を行なっていること。その上で、温泉を沸かすための『アイテム』を持ち込むことで設備が解放されます。『オレストの町』周辺の場合、難易度高め』
あー、なるほど。
この『お城』のクエストって、ルーガを助けるってだけじゃないのか。
どうやら、複数のクエスト要素が混じり合った感じの場所になっているようだ。
この場合は、宿を育てるシミュレーションゲームというか。
まあ、そうだよな。
『ルーガを助ける』だけじゃ、他の迷い人さんたちには意味がわからないもんな。
少なくとも、みんなが楽しめるような造りになっているようだ。
この『魔王城』は。
というか。
「ちょっと待って!? 『温泉』もつけられるの!?」
『もちろん! とあるアイテムがあればねー。後は、隠し条件として、アイテムじゃなくて、『存在』でも構わないけど』
「『存在』?」
「どういうことだ?」
『コケッ♪ 慌てずにじっくりと考えてねー。まずはコッコちゃんたちに説明説明ー。『お宿』の機能を解放しないといけないからねー』
そう言って、含み笑いをするユアハトさん。
見た目はコッコさんだけど、他のコッコさんたちと比べると感情表現が豊かな感じだよな。
そもそも、普通に人の言葉をしゃべってるし。
一方の奈々ちゃんの方も。
「下層階の予行練習ダンジョンについてのご説明です。このダンジョンに限り、パーティー単位での挑戦となります」
「パーティー単位での?」
「はい。1パーティーあたり6名以内です。テイムモンスターも条件枠の一員として数えられますので、ご注意ください」
なるほど。
一度に挑戦するパーティーの人数制限か。
上限は6名。
もちろん、ソロで潜る分には問題なし、か。
「7名以上の参加は無理ってこと?」
「そうなります」
「もし、人数をオーバーしたまま、挑戦した場合はどうなるのでしょうか?」
「ランダムでふたつのパーティーに振り分けられます」
「途中で合流とかは?」
「できません。並行型の別のダンジョンへと飛ばされますゆえ」
あー、なるほど。
今の言葉でどういうシステムになっているのか気付いた人も多いようだ。
これ、チュートリアルでやっていた、他の迷い人さんと出会えない仕組みと同じような感じになるってことだ。
「うん? ってことは、逆に言えば、前のパーティーを待たなくてもチャレンジできるってこと?」
「はい。せっかくですし、お試しになられますか?」
「「「えっ!?」」」
その場にいるほぼ全員が、聞き返すのとほぼ同時に。
間髪を入れぬタイミングで、部屋全体が光ったかと思うと――――。
「初回ですので、帰還用の道具をおひとつサービス致します。そちらをお使いになれば、ここまで戻ってこられます――――それでは、いってらっしゃいませ」
◆◆◆◆◆◆
「……ちょっと待て。ここ、どこだ?」
気が付くと、見知らぬ廊下に立っていた。
どうやら、さっきの説明の途中でダンジョンへと飛ばされたらしい。
……あの、奈々ちゃんって名前の『ナビ』さん、口調は丁寧だけど、やることは結構強引な感じなのな。
戸惑いながらも、周囲を見渡すと。
「また、変なところに飛ばされたわね、マスター」
「きゅい――――!」
「ぽよっ!」
「あれれー!? シモーヌとおかあさんがいないよー!?」
「確か6人まで、って言ってたわよね? だから、セージュ、ビーナス、なっちゃん、みかん、ウルルとわたしで6人ってことよね」
指折り数えるアルルちゃんの言葉に、俺も頷く。
なるほど。
どうやら、元から大人数でパーティーを組んでいたとしても、その中でばらされてしまうってことか。
「――――お? これは?」
【特殊アイテム:帰還珠】『ふりだしに戻る』
六つの面すべてが『1』になっているサイコロ。
これを特殊ダンジョンの中で振ると『1』が出て、スタート地点へと戻ることができる。
いつの間にか、新しいアイテムが増えていた。
これがさっき奈々ちゃんが言っていた、帰還用のアイテムか。
というか、赤の1しかないサイコロって、何となく変な感じだぞ?
まあ、いいや。
これを使えば、さっきのところまで戻れるんだろ?
だったら――――。
「ひとまず、行けるところまで進んでみるか」
ゲームっぽいダンジョンって感じだし、何となく迷路っぽい部分もあるが。
さっさと攻略して、ルーガがいる場所までたどり着くぞ。
そう意気込んで。
俺たちはダンジョンの奥へと進んでいくのだった。




