第426話 農民、お城へと足を踏み入れる
「それじゃあ、試してみるわね」
「うん、アルルちゃん、お願い」
明くる日の朝。
早速、『PUO』の世界へと戻ってきた俺はアルルちゃんたちと一緒に、例の『お城』の前までやってきた。
まだ早い時間にもかかわらず、俺たちの他にもたくさんの迷い人さんたちや、この町の住人さんたちが集まってくれていた。
もちろん、ここを『家』として活用するコッコさんたちも。
事前に『けいじばん』などで話をしておいたこともあり、うまく行くかどうかはさておき、興味本位で集まってくれた人も多いようだ。
「これで扉が開くと良いよな」
「そうですね、テツロウさん」
「コケッ――――♪」
「てっきり、セージュ君が『巻物』の発動者かと思ってたけど、そうじゃなかったのね?」
「ええ、まあ……その辺は事情がありまして」
メイアさんの指摘に、素直に頭を下げる俺。
よくよく考えれば、アルルちゃんが『お城』を建てる『手順表』を発動させたことって、俺たちが伏せていたんだものな。
そのせいもあって、俺たちがあっちに行っている間に、アルルちゃんに相談してみるって発想は誰からも出てこなかったそうだ。
いや、そりゃ、そうだろうけど。
そもそも、アルルちゃんたちが『精霊種』だってことは、まだ秘密のままだし。
その辺の情報を共有するタイミングが難しいんだよな。
とは言え。
俺たちにしたところで、本当にアルルちゃんが扉を開けられるかは確証がないのだ。
『管理者権限』を持ってるかも、ってだけだし、そもそも、どういう権限なのかもよくわからない。
当のアルルちゃんにしたところで、権限を得たって自覚がないらしいし。
「わたしが扉に近づけばいいの?」
「とりあえず、扉に触れてみなさいな、アルル」
「うん、わかった」
フローラさんの促しで、アルルちゃんが自分の背丈の倍以上はある扉へと触れた。
その途端――――。
ふっという感じで、ほとんど音もなく扉そのものが消えてしまった。
そして、辺りに響くのは歓声やどよめきだ。
「おー! 凄ぇ! 何となく魔法っぽいな!」
「いや、まさか扉が消えるとは思いませんでしたよ」
「これ、扉、空きっぱなし?」
「意外とあっさり入れそうね」
「コケッ――――♪」
「油断するなよ? 事実、ヴェルフェンさんは消息を絶ったままなんだからな」
「中の調査は必要でしょうね。さて、商業ギルドとしてもクエストの依頼を検討してみましょうか」
色々な意見のある中で、テツロウさんが俺の方を見ながら。
「とりあえず、入ってみようぜ。せっかく、みんな集まったんだしな」
「そうですよね。中がどうなっているか興味もありますし」
頷きながら、扉の奥へと進もうとしつつも。
脳裏によぎるのは、昨日、涼風さんから聞いた話の内容だ。
――――『魔王城』、か。
今はほのぼのとした雰囲気が漂っているけど、そういう意味では決して油断できない場所、と言えるだろう。
そんなことを考えつつも、一応、このクエストを進めている代表として、俺は管理者であるアルルちゃんと歩調を合わせつつ、ゆっくりと慎重に扉をくぐった。
すると――――。
「いらっしゃいませ」
『はいはーい。初めての挑戦者の皆さんのために、簡単に受付で説明するよー』
入り口から一歩足を踏み入れると、暗がりだったはずの空間にパッと明かりが点いて、気が付けば、エントランスのような場所へと繋がっていた。
そして、そこで俺たちを待ち受けていたのはふたりの受付嬢さんだった。
ふたり――――いや、ひとりと一羽か?
タキシードのような服を着た女の人と、これまたタキシードのような服を着たピンク色のコッコさん。
……うん?
いや、コッコさんの方はコッコさんで、ケイゾウさんたちの色違いが服を着た感じなので、ちょっと驚きもしたんだけど、女の人の方も何かおかしくないか?
肌の色が真っ白で、まるで血が通っていないかのような……何者だ? ふたりとも。
というか。
今、このふたり、何て言った?
「何だこりゃあ?」
「セージュ君、あっち。あそこに宿屋って書いてあるよ?」
「ここが、塔の一階部分……か?」
「……コケッ?」
うん。
さすがに続いて入ってきたみんなも戸惑いを隠せないようだ。
と、写る楽さんが何かに気付いたようにつぶやいた。
「……もしかして、これって、チュートリアル?」
『おっ、半分正解だよー』
その言葉に、ピンク色のコッコさんが意を得たりという風に笑って。
横にいた男装をした女の人も頷く。
「はい。厳密には少し違いますが、状況が状況ですので、わたくしたちふたりがこちらに配置されることとなりました。自己紹介が遅くなりましたが、わたくし、『ナビ』の奈々でございます。できましたら、愛称をもちまして、『奈々ちゃん』とお呼びくださいませ」
『同じく、うちがコッコ種の『ナビ』のユアハトだよー』
そうか、ナビさんということは。
「エヌさんの『眷属』で、運営サイドの?」
『うん、そういうことだよ、セージュちゃん。役割分担としては、うちがコッコの『家』と宿屋を含めた施設の担当で、奈々ちゃんがお城ダンジョンの担当だねー』
「そうなります。諸事情によりまして、今回のテストプレイでは『東大陸』に関する部分を大幅に縮小することが決まりまして。そのため、わたくし共々、こちらへと部署を異動することとなった次第です」
なるほど。
いや、なるほどじゃないな。
どういう人たちなのかは何となくわかったけど、話の流れがよくわからないぞ?
どうやら、それは俺だけではなかったらしく。
リクオウさんも右手をあげて。
「奈々さん、ひとつ――――」
「『奈々ちゃん』でございます」
「失礼、奈々ちゃん、ひとつ質問があるのだが」
「はい、どうぞ、リクオウ様」
「つまりは、この城はどういう位置づけになるのだ?」
「そうですね、簡単に言いますと――――」
そう言って、『ナビ』の奈々ちゃんがにっこりと微笑んで。
その事実を俺たちへと突き付けた。
「このβテストにおける――――ラストダンジョンでございます」




