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第418話 農民、状況を確認する/精霊のおはなし

 そこからの先は、俺にとって拒否するという選択肢はない問題だった。


 ルーガが生きているとか、そうじゃないとか。

 ゲーム世界のキャラクターだとか、違うとか。

 そういう風に片付けられることでは、もう既になくなっていたのだ。


 少なくとも、エヌさんの言葉を信じれば、俺が頑張れば、ルーガを助けることができるはずだ。

 事実、『あっちの世界(ツギハギ)』へと一時的に行ったことで、ルーガを取り巻いていた大きな問題のうち、ほとんどが解決しつつあった。

 ルーガ自身、『千年樹(レーゼ)』さんからの指導のおかげで、『狂化』の能力についても、ある程度は操作(コントロール)できるようになっていたし、その後のいきさつから、『PUO(こっち)』の世界での『危険生物指定』について、カミュから解除してもらえるように取引ができたわけだし。


 だから、後は、何者かにさらわれたルーガを助ければ、本当にまずい部分に関しては脱したことになる。

 ここがたとえ『ゲーム』の世界だったとしても、やっぱり、そういう意味でハッピーエンドを目指すのは当然のことだったし、俺にとっては、初めてルーガと出会った時から――――。


 ――――うん。


 だからこそ、どうしても助けなければいけない。


 そもそも、エコさんの跡をたどったのも、ルーガについての状況が知りたかったからであって、まさか、ビリーさんたちの『隠れ家』に近づいたことで、不審者扱いされて攻撃されるなんて思ってもいなかったし、その後の話の流れについては猶更だ。


 ビリーさんたちが信用できるかどうか、というのは正直わからない。

 まだ色々と隠していることもあるだろうし、俺にとって、それが知ってはまずいことになるのであれば、あえて教えないことも優しさなのかも知れないし。


 ただ、対価の代わりとして、ビリーさんたちの目的に協力することについては、そこまで抵抗がなかったのも事実だ。


 だって。


 俺自身も、そのことについては興味があったから。


 ――――この『PUO(ゲーム)』がなぜ作られたのか。


 その目的が本当の意味で存在しているのであれば、ここまで色々なことに巻き込まれた以上は、少なくとも、知る権利ぐらいはあるのではないか、って。

 もう、ゲームを始めた当初のような、テスターを頑張って、ゲーム会社に就職したいという願望はすっかり薄れていた。

 何せ、ゲーム開発をしていると思しき会社の後ろには、何かやばそうな機関があって、おまけにゲームを作っているのは『異世界』の存在が持つ『能力(スキル)』による、なんて話になってしまったら、そんなのは自分の手に余ることだろう。


 案外、あっさりと親父殿が保護者として同意してくれたのも、結局のところ、形はどうあれ、そういう風に落ち着くだろうと信じていたからなのかもしれない。


 ……まあ、その辺は今はいいや。


 今、大事なのはルーガの存在だ。


「状況の確認です。エコさん、ルーガはあの『城』の中にいるので間違いないですね?」

「はい。私の能力でたどりました。入り口の扉で気配が切られていましたので、そこから中に入ったのは間違いないと思います」

「えっ……扉?」


 いや、ちょっと待ってほしい。

 あの入り口の扉って、誰も開くことができなかったって聞いてるけど?

 そもそも、あそこの入り口付近って、四六時中、コッコさんたちがたむろしているから、もし、扉を使ったとすれば、誰かが気付きそうなものなんだけど……。


「本当に扉から入った、と?」

「ええ」


 もう一度、強い視線のまま、こちらに頷き返すエコさん。

 ならば、と別の視点からの情報を確認する。


「ちなみにエコさん、そのルーガをさらった存在については見ましたか?」

「人型でした。私がこちらで意識を取り戻したのと同時にナイフのようなもので攻撃を受けました。私もその武器については得手でしたので、何とか対応することができました」

「嬢ちゃんは得意武器が短刀だからな」


 言いながら、エコさんに向かってナイフを投げるのが覆面男改めドロさん。

 その飛んで来るナイフを、刃の方から指で挟むようにして、簡単に受けるエコさん。


 ――――すごいな。


 ちょっとしたサーカスとかの曲芸みたいだ。

 というか、投げナイフを白刃取りの要領で受ける人なんて初めて見た。

 見た目と違って、エコさんも強かったんだな?


 とはいえ。


「人型、ということの他にはわからなかったのですか?」

「残念ながら、かなりの数のナイフが飛んできましたので。そちらに対応するのが精一杯でした。何せ、セージュさんたちの身体も狙われていましたから」


 あっ!? そっか!

 リディアさんもそんなことを言ってたものな。

 エコさんがその手の攻撃を防いでくれたから、『死に戻』らずに済んだってことか。


「膂力がすごかったと思います。人ひとりを抱えて、あっという間に転々と飛んで行ってしまいましたから」

「なるほど……ナイフ使いで、膂力がすごい人型の存在、と……うん?」


 ……あれ?


「どうかしましたか、セージュさん?」

「いえ……ちょっと気になることがあったような」


 頭の中がもやもやする感覚。

 漠然とした不安を感じて、周囲を振り返ると、ビーナスもどこか微妙な表情を浮かべていた。


「ビーナスもか?」

「ええ……気のせい、じゃないわよね?」

「いや、ちょっと待て、ちょっと待て? まだ情報が足りてないぞ? エコさん、ビリーさん、いくつか確認してもらいたいことがあるんですが」

「何だい?」

「確認したいこととは?」


 そのことについて、俺たちはビリーさんたちに確認を取るのだった。



◆◆◆◆◆◆


 ――――一方、その頃。


「おかあさーん、あー、良かったー、見つかったよー」

「ウルル? あなた、今までどこに行っていたの? ……それにセージュ君は? 一緒にいるのはリディアさんだけ?」

「そうだよー」

「ん、ちょっと別行動」


 セージュやビーナスたちがビリーたちと話を進めている裏で、ウルルとリディアは途中から、役割分担を頼まれて、別行動を取っていた。


 今、ふたりがいるのは『迷いの森』の一角だ。

 ウルルの感覚を頼りに、ふたりは『森』にいる精霊を探していた。

 その目的は色々あるのだが――――。


 小一時間ほど、森の中をさまよった後、どうにかフローラと合流することができて。

 ようやく、あの『お城』に関する話を進めることが可能となった。

 これも、『精霊体』のウルルの速度にリディアが難なくついて行けたからであろう。

 本気のクリシュナには及ばないまでも、ふたりとも『森』の中をかなりの速度で駆け回ったのだから。


 さておき。

 

 ウルルが早速本題に入る。


「ねえねえ、おかあさーん、この『森』のみんな(精霊種)とは会えたー?」

「ええ。クリシュナさんの許可のおかげね。私の方も目的を果たすことができたわ」


 そう言って微笑むフローラに対して。


「それはいいんだけど、おかあさん、ほらー、セージュが持ってた『手順表(スクロール)』があったじゃない?」

「ええ。そういえば、あれ、発動条件を満たしたみたいね? 遠くからでも『精霊術』の発動が確認できたもの」

「うんー、それでね、セージュから『あれを作った人は誰かわかるか?』って。もしかしたら、おかあさんが、ここのみんな(精霊種)から教えてもらったんじゃないかなー、って」

「ああ、そのことね。ええ、それは聞いたわ」

「そうなのー? 誰ー?」

「ルートヴィッヒの作ですって」

「……だれ?」

「ウルルは知らないでしょうね。私の古い知り合いのひとりよ。土精霊(ノーム)のルートヴィッヒ」


 フローラの言葉に、ウルルが不思議そうに首を捻って。


「ふーん? じゃあ、セージュが言ってたのは関係ないのかな?」

「……? どういうこと?」

「ん、あの『城』の所有権が『手順表(スクロール)』の作り手にあるかどうか、その確認」

「それでねー、もしかしたら、その作り手がウルルたちも知ってる人なんじゃないかー、って」

「そうね……確かに権限という意味では上位権限があるかもしれないけど……でも、ルートヴィッヒたちはずっとあそこに隠れていたって言っていたわ。せめて、あの建物へ直接行かないと、権限移譲は難しいとは思うわ」

「そっかー」


 残念ー、とがっかりするウルル。

 少し思惑が外れる形になってしまった、と。


 ――――だが。


「ちょっと待って」

「……え?」


 そんなウルルの表情を見ながら。

 何かに気付いたように、思索にふけるフローラなのだった。

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