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第416話 農民、森の奥で襲撃される

「あっ!? セージュー、あっちに何か変なところがあるよー?」

「変なところ?」


 茂みをかき分けながら、道なき道を奥へと進んでいく。

 小一時間ほど進んで、もうすでにリディアさんが匂いをたどるのを頼る以外には、進んでいる方向すらも怪しくなってきた頃、ウルルちゃんが何かに気付いた。


 ただ、その示された先を見ても、おかしな部分は見当たらない。


 ――――どう見ても、ただの木々が鬱蒼とした斜面にしか見えないのだが。


 だが――――。


 不意に少し前を進んでいたリディアさんに緊張が走るのを感じて。


「――――っ!?」

「ちょっ!?」

「なに、なにーっ!?」


 間髪を入れず、俺たちが戦闘態勢を取るのと同時、それは起こった。

 いきなり現れたのは、木の上の人影。

 覆面をした男?

 直前までまったく気配すら感じさせなかった、その存在は――――。


 目にも止まらぬ速さで何かを飛ばしてきた。


 だが――――。


「『しょっと』」

「――――!?」



 すでに、リディアさんも同様に、不可視の弾丸を撃ち放って、それらを迎撃。

 そのことに、覆面の相手も驚いたようにその場から飛びのく。

 俺は俺で、ウルルちゃんを促す形で、再び『憑依』状態へと移ろうとしたのだが。


「あぶなっ!? 何これー!? 魔法ーっ!?」


 俺の身体に『憑依』しようとウルルちゃんが近づくのと同時に、ウルルちゃんの身体が弾けるようにして地面へと押しのけられて。

 何が起こったのか気付く。


 ウルルちゃんが精霊の『本体』に戻るのとほぼ同時に、覆面の男が飛ばしてきた攻撃が彼女の身体を貫いたのだ。

 間一髪、ウルルちゃんが『精霊化』を済ませていたおかげで、身体に空いた穴もすぐにふさがって、そのまま、『憑依』することができたのだが。


 ――――何だ、今の!?


 最初に覆面の男が飛ばしてきた攻撃とは段違いで着弾が早かったぞ!?

 さっきのリディアさんへの攻撃は辛うじて、視認できた。

 だが、今のウルルちゃんを狙ったものは、『身体強化』をした俺の眼でも、どういう攻撃なのかがまったく認識できなかった。

 にもかかわらず、ウルルちゃんを貫通させたまま、地面へと突き刺さるように穴を開ける攻撃に、思わず背筋が凍る。


 ――――目の前にいるのはやばい敵だ!


 ウルルちゃんが動揺するのもよくわかる。

 今までの魔法による攻撃よりもずっとずっと速いのだ。


 ――――今のは魔法なのか?


 ゆっくり考えている余裕もなく、即座に『精霊眼』を発動させる。

 この『敵』の動きと『敵』による攻撃を見破るためにだ。


「『しょっと』!」

「――――ちっ!?」


 そうこうしている間にも、リディアさんと覆面の男によるお互いの迎撃戦が続いている。


 ――――間違いない。


 覆面の男は何らかの飛び道具を使って攻撃してきている。

 なぜなら――――。


「『周辺魔素』に変化がない、ってことは!」

『うんー! あれ、魔法じゃないねー!』

「っ!? ビーナス、危ないっ!?」

「――――マスター!?」


 リディアさんによって弾かれた流れ弾がビーナスに向かって飛んできたのを確認。

 ギリギリのところで抱き寄せるようにして回避。


 ――――あっぶな!?


 『精霊眼』がなかったら、対応できなかったぞ!? 今のは。

 もうすでに、なっちゃんをかばうようにみかんが護りを固めているし、リディアさんはリディアさんで、覆面の男の攻撃に対応できるようになったようで、男による高速攻撃が放たれるのに合わせて、『しょっと』を放っているようだ。


 高速の弾丸同士が打ち消し合って……いや、違う!?

 リディアさんの攻撃の方が威力が強いようだ。

 すでに、覆面の男の攻撃をはじき返しながら、相手の身体へも着弾しているのが見える。


 着弾というか、貫通してるか――――?


 そう気付いた時には、すでに相対している男の動きが鈍くなって、樹の上から地面へと下りてくるのが見えた。

 いや、正確には落下だよな。

 辛うじて、地面に足から着地こそしたものの、すでに黒い覆面の口の部分が赤く染まっているのが見えた。


 ――――と。


「…………いや、参った。降参だ」


 口元を拭うようにして、顔半分の覆面を外しながら。

 男がどこかニヤリと笑いながら、こちらに向けて両手をあげた。

 身体の数か所がリディアさんの攻撃で貫通されているにも関わらず、それほど痛みを感じていないのか、あるいは致命傷ではなかったのか、どこか飄々としている男。


 男が何者なのか、正体を探っていると――――。


「ちょっ!? 何やってるんですか!? セージュさんたちじゃないですか!?」


 ――――へっ!?


 奥の何もないはずのところからいきなり現れたのはエコさん!?

 ……ということは、目の前の男の人って、もしかして……?


「おいおい……隠れ家に近づく怪しい奴等がいたら、お帰り頂くのが当然だろ? なあ、嬢ちゃんよぅ」

「あーもぅ……! そういえば、あなた、そういう人でしたよね!?」

「それとも何か? 同じ迷い人(プレイヤー)なら、誰でも無条件で受け入れろってのか? そいつはちと平和ボケが過ぎるぜ?」

「そうではありませんがね!」

「はは、まあいいさ。俺は別にどうでもいいからな。あんたの上官がどう思うかは知らないが。てかよ、嬢ちゃん――――手前、つけられた自覚はあるか、おい? 専門家(プロ)だったらきっちり痕跡ぐらい消せ」


 途中まで、穏やかな口調で喋っていた男の態度が急変した。

 どちらかと言えば、エコさんを叱りつけるような口調で。


「相手が誰であれ、気ぃ抜いてんじゃねえ。手前の判断ミスで部隊が壊れることもある。作戦行動中に隙を見せるな、阿呆」

「……申し訳ありません」

「――――はは、ま、あんまりこういうのは俺ぁ苦手なんだ。あんまり、厳しくさせるなや、嬢ちゃん。つうか――――」


 男がにやりと口元に笑みを浮かべながらも。

 そのまま、片方の膝をついて。


「――――ドロさん!?」

「――――あんまり、やべぇ奴らを呼び込むなよ。ったく、何だ、今のはよ? 対戦車ライフルも防げるはずの装備を貫通しやがったぜ?」


 ドロさん、ってのは、その覆面の男の人の名前か?

 一見、無事なようでもかなり身体の方はダメージを受けているように見える。

 そして、今の言葉って……。

 思わず、リディアさんの方を見ると。


「ん、少し驚いた。ミスリルより硬い。だから途中から力を入れた」


 だから、貫通させた、と淡々と語るリディアさんに。


「いやあ、怖ぇな。ほんとに怖ぇ。おい、嬢ちゃん、本当にこいつら味方なんだろうな? 今の俺でもまったく歯が立たなかったぜ?」

「…………大丈夫です」


 そう言いながらも、どこか緊張した面持ちでこちらを見つめるエコさんたちなのだった。

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