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第414話 農民、状況を確認する

「……ちょっと待って…………あれ、お城!?」

「ん、そうみたい」


 俺の言葉にリディアさんが頷いているけど。

 いや、今、俺たちがいる現在位置が『グリーンリーフ』の真ん中にある『千年樹』の根元のあたりだろ?

 そこから、『森』の向こうに頭ひとつ飛び出して見えるって、どのぐらいの高さなんだよ? あのお城は。


 というか、少し落ち着け、俺。

 目を覚まして間もないせいか、記憶がぐちゃぐちゃになっている気がする。


 そもそも、ルーガはどうなった?

 そして、先に戻っているエコさんはどこに行ったんだ?


「マスター、ちょっと落ち着いて。はい、これ」


 気つけ薬だから食べなさい、とビーナスが『苔玉』を渡してきた。

 なので、半信半疑のまま、素直に食べる。


 ――――まずっ!?


 あー、でも、意識ははっきりとしてきたな。

 じゃあ、ひとつひとつ疑問点を整理していこう。


「ここは――――シプトンさんに眠らされた地点で良いんですよね?」

「そう。変わっていない」

「その、俺たちの身体を護ってくれているはずのシプトンさんの『偽体』は?」

「たぶん、破壊された」


 そう言って、俺たちの身体を指さすリディアさん。


「その証拠に、私が来た時には、セージュたちの『空間魔法』が解かれていた」

「『空間魔法』……あ、その場から動かせなくなる、ってやつでしたっけ?」

「ん。時間停止による『現象固定』。だから、術師が狙われた」

「それで、シプトンさんが……」


 なるほど。

 ルーガをさらったらしき犯人は、だからシプトンさんも一緒に狙ったんだな?

 いや、その辺は何となく納得できるけど……。


 もっと大きな疑問があるぞ?


「リディアさん、なぜ、俺たちの身体は無事なんです?」


 俺が犯人だったら、邪魔されないように俺たちも一緒にどうにかしておくと思うんだが。


「それは、エコの判断が早かったから。それに、私も手を打ったから」

「そうなんですか?」

「ん、一応、護衛だったから。でも、護衛失格」


 少しだけ、本当にほんの少しだけ、しょんぼりした表情を浮かべるリディアさん。

 油断していたつもりはなかったけど、『外』からの攻撃はすぐ対処できなかった、と反省の言葉を伝えてくれた。


 いや、リディアさんのせいじゃないよな。

 そもそも、世界を跨いで向こう側の攻撃なんて、どうやって防げばいいんだよ?

 現状、最悪の事態には至っていないということで、謝罪は不要と返す。


「それよりも、ではエコさんはどこに?」

「ん、セージュが起きた。だから、今からそれをたどってみる」

「そんなことができるんですか?」

「ん、匂いをたどるだけ」


 へえー、リディアさん、そういうこともできるのか。

 エコさんの匂いなんて、そもそもわからないしなあ。

 何となく、警察犬みたいな特技だよな。


「ふぅー、やっとセージュの身体から出られたよー」

「あ、ウルルちゃん」


 すぽっという感じで『憑依』を解いて、ウルルちゃんが自分の身体で表に抜け出してきた。


 おおぅ。

 その途端に襲われる疲労感。

 あー、やっぱり、『憑依』状態を維持し続けるとかなり身体に負担をかけるなあ。

 一緒にいる時はウルルちゃんも疲労した分をカバーできるみたいだけど、その補助がなくなると、ドッと疲れが襲い掛かってくるというか。


「セージュー、大丈夫ー?」

「うーん……何とか」


 とは言え、あんまり休んでいる場合でもないし。

 ルーガの現状が不明である以上は、悠長なことをしてもいられないし。

 そう考えながら、『けいじばん』の過去スレッドをたどりつつ、今の迷い人(プレイヤー)の状況について把握していく。


 どうやら、俺たちが飛ばされた後、そのせいで行方不明騒ぎが発生したらしい。

 いや、まあ、当然のことなんだが。

 時間軸はずれてない……か?

 誤差はあるのかもしれないけど、一週間とか、そういうずれはなさそうだな。


 ええと……飛ばされたのって何曜日だったっけ?

 ほぼ毎日ゲームに没頭しているせいか、曜日感覚が狂ってるな。

 たぶん、日数的には向こうの世界のそれとリアルタイムでつながっていたように感じるけど。


 そして、クエストの進展としては、例の『土木系』のクエスト。

 今も巨大建造物が遠くに見えることからもわかる通り、どうやらお城を建てることで達成はされたようだ。


 ――――あ。こっちのステータス画面から、ちょっと前に達成に関するメッセージが流れているのも確認できたぞ?

 やっぱり、クエスト達成で間違いないのか。


 ただ、『けいじばん』を見る限りだと、建てたはいいけど、中に入れなくて、みんなが困っているようなのはわかった。


「ウルルちゃん」

「うんー? なあにー?」

「あの、『手順表(スクロール)』って、発動すれば、建物が自動生成されるんだったよね?」

「うんー、詳しくはアルルとかお母さんに聞いた方がいいと思うけどねー」

「細かい部分はさておき、ある程度はこっちのイメージを反映されることができるんじゃなかったっけ?」

「どうだろー? お母さんも術式が複雑だって言ってたから、実際に発動したところは見たことがないんじゃないかなあ? だから、ウルルもわからないよー」


 俺の質問に答えつつ、早くアルルたちと合流しようよー、とウルルちゃん。

 うん、確かにその通りだよな。


 ――――と。


「ねえ、リディアー、クリシュナはー?」


 ウルルちゃんが周囲をきょろきょろと見ながら、そうリディアさんに尋ねる。

 あ、確かに。

 そのことに気付くことが遅れた。

 どうやら、まだ、俺の頭はしっかりと回っていないようだ。


「ん、たぶん、向こうに集中してる」

「あ、そうか、クリシュナさんって……」

「そう。能力的に再現(コピー)困難。本人が来ないと無理なはず」


 うん、たぶん、そんな気がした。

 というか、リディアさんも似たようなことを前にジェムニーさんから言われてたよな?

 あの時点で気付くのはさすがに無理だったと思うけど、リディアさんも異世界から、その身体のまま、やってきているんだよな。


 さておき。


「リディアさん、エコさんの匂いって、どっちに向かってます?」

「あっち」


 リディアさんが指さしたのは、ちょうどお城が建っている方角だな。

 うん、それならちょうどいいか。


「そのまま、たどってもらってもいいですか? どちらにせよ、『オレストの町』までは戻らないといけないですし」

「ん、じゃあ、ついて来て」

「わかりました」


 そのまま、リディアさんに先導してもらいつつ。

 俺は俺で、その移動中に『けいじばん』やら、いつの間にか溜まっていたメールやらに返事などを出しながら。

 巨大な塔のようなお城が建っている『オレストの町』へと向かうのだった。

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