第413話 農民、戻ってくる
「行きますよ――――『緑の手』!」
強い思いを込めて、『千年樹』さんの根に触れる。
残念ながら、スキル共有を持っていたルーガはいないので、『千年樹』さんと意識をつなげることはできない。
それでも、俺が『緑の手』の能力を発動させるのと同時に、目の前の『千年樹』さんが喜んでいるように感じた。
やはり、この能力、こと植物に関しては活性化させる力があるようだ。
「ふうん、マスターの手って、やっぱりそんな感じだったの」
「きゅい――――♪」
「ぽよっ♪」
『少しでも、『千年樹』さまが元気になってくれるとうれしいっす!』
ビーナスたちが興味深く、俺の『緑の手』の発動を見ている。
一方で、クリシュナさんが無言で感謝してくれているのも感じた。
うん。
やっぱり、やるしかないよな。
今もまだルーガのことは気掛かりだけど、少なくとも頼りにされている分は責任を持ってこなす必要があるだろう。
それに、こっちを放置して助けに言っても、ルーガが喜ばないかもしれない。
カミュから『狂化』の副作用の話を聞いた以上は、放置してしまうと責任の一端がルーガの方にも行っちゃうし。
「セージュ、もっと強く想わないと」
「あ、そうですね、すみません」
リディアさんから突っ込みが入ってしまった。
余計なことを考えてはダメだよな。
反省反省。
そのまま、ただ一心不乱にレーゼさんが元気になってくれるように『想い』を注ぎ込んでいくイメージで。
そうこうしているうちに、大分時間が経過した。
『セージュ、ありがとうございました。あまり無理をしないでください』
「え? でも、『千年樹』さんはまだ……?」
『いえ、ひとまずは十分です』
そう言って、止めてくるクリシュナさん。
でも、と俺が振り返ると――――。
――――あっ!?
「レーゼさん……?」
「はい、ありがとうございました、セージュちゃん」
『レーゼが分体を作れるようになりました。これでしたら、です』
「……さっきより若くなってません?」
「ふふ、セージュちゃんのおかげですよ」
まだ、その姿はお婆ちゃんだけど、それでもさっき意識の中で会った時みたいなミイラほどではなく、健康的なお婆ちゃんになっていた。
「ひとまず、『狂化』も解除しました。ルーガちゃんのつながりが切れてしまいましたので、自然と弱まっていましたしね」
――――ルーガとのつながりも切れてるのか。
俺の焦る気持ちをレーゼさんも感じ取ってくれたようで。
「ええ。ですから、セージュちゃんの力をお借りするのはここまでで十分です。ルーガちゃんを助けに行ってあげてください」
『もういいの? 本当に? それなら、おねえさんがセージュちゃんたちを送っちゃうけど』
「充分ですよ、シプトンちゃん。そもそも、身から出た錆ですからね。本来、このぐらいの余力があれば、時間をかけてでも自力で何とかします」
『少なくとも、今のレーゼなら、すぐに森が崩壊することはないでしょう』
だから大丈夫、とレーゼさんもクリシュナさんも頷く。
これ以上、負担をかけられない、とも。
『了解ー。ここにいるのはみんな向こうに戻る子たちだよねー?』
「はい、そうです」
「ここと向こうの違いはわからないけどね」
「きゅい――――!」
「ぽよっ!」
「あ、そうだ。シプトンさん、今度はまとまった場所にしてくださいね?」
『ふふっ、大丈夫大丈夫ー。元の身体に戻るだけだからねー。今度はずらしようがないんだよ』
じゃあ、行くよー、というシプトンさんの声に対して。
クリシュナさんたちが待ったをかけて。
『セージュ、報酬はどうしますか?』
「何か、希望がありますか?」
希望? 希望ね……ぶっちゃけ、今はどうでもいいんだけど……あ、そうだ。
「それでしたら、『千年樹』さんの素材を分けてもらえませんか? 向こうのクエストで必要なんですよ」
一応、俺が言い出しっぺだからなあ。
完全に『土木系』の家を建てるクエストが放置になってたから、少しは頑張ってるところも見せないとなあ。
そんなつもりで、ダメ元で言ってみると。
「ふふ、ちょうど今でしたら、廃材がいっぱいありますからね。わかりました」
『では、セージュたちへの報酬はそれで』
「お願いします」
よし、これで話はまとまったな!
急いで戻るぞ!
『うんうんー、じゃあ、おねえさんに身体を預けてねー』
いや、『水晶玉』の向こうにどうやって預けるんだ? と心の中で突っ込んでいる間にも、ふわふわとした感覚に襲われて。
そのまま、意識が遠のいていくのを感じた。
◆◆◆◆◆◆
「…………戻ってきた?」
「あ、マスター、ようやく起きたのね?」
「きゅい――――♪」
「ぽよっ♪」
「ん、おはよう、セージュ」
「あ、はい。おはようございます」
どうやら、無事、『PUO』の世界へと戻ってこれたみたいだな。
場所も『千年樹』の根元の近くだな。
やっぱり、こっちの樹は立派なままだなあ。
そんなこんなで、身体を起こしながら、辺りを見渡すと――――。
「――――あれっ!?」
とある方向の遠くに、何か大きな建造物のようなものが見えた。
……あんなもの、この辺にあったっけ?
「……なんだろう、あれ?」
「セージュ、『けいじばん』」
「あ、はい……そっか、もうこっちだと『けいじばん』が見れるんですね」
リディアさんに促されて、『けいじばん』に目を通す俺なのだった。




