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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第10章 グリーンリーフ編
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第409話 農民、狩人少女と特訓を続ける

「そうです。『そこ』から力を吸い出して、その場に留めた後、循環させるようにします」

「うわ!? 難しいよっ!?」

「……かなり、魔力の消耗が激しいですね」


 レーゼさんの指導の下、早急に『狂化』の能力を使いこなすべく、特訓を続けているルーガ。そして、なぜか俺も。


「なぜか、ではありませんよ。セージュちゃんもルーガちゃんの(しもべ)である以上、パスが通じていますから。ですから、ルーガちゃんの補助(フォロー)ができるのですよ」


 ということらしい。

 どうやら、『魔王』の力ってのは、単独で使うことを前提とされていないようなのだ。

 部下がいっぱいいることで、その強大すぎる能力を操作(コントロール)できるようになるらしい。

 独力でも強いからこそ、『魔王』じゃないかな? と思ったんだけど、それは俺の中のイメージに過ぎないようだ。


「もちろん、ひとりで使いこなせるに越したことはありませんよ? ですが、ルーガちゃんの場合、そのためには明らかに経験が不足しています。少なくとも、短期間で一足飛びに熟達するのは難しいでしょう」


 そう言いながら、レーゼさんが苦笑する。

 必死の形相で己の能力と格闘しているルーガを温かく見守っている、というか。

 今もレーゼさんのサポートがあるからこそ、こんな力の奔流の真っただ中にあって、辛うじて、ルーガも俺も力を暴走させずに済んでいるのだ。


 レーゼさんに言われた方法は、簡単に言うと、『A地点』にある『力の泉』から力を吸い上げて、『B地点』へと送り、その『B地点』で量と質をコントロールしつつ、一定量を蓄えたのちに、ゴールである『C地点』に向けて、安定して流していく――――という感じのものだ。

 イメージとしては、複雑な迷路の中にある正しい道のりに沿って、バランスよく力を流して回路を作る、という感じだろうか。

 慣れてくれば、自分で自在に迷路を作って、力の移動ができるようになってくるらしいけど、今は自然にあるものを利用するしかない、と。


 俺とルーガが悪戦苦闘しているのも、力の操作に慣れていない点だ。


「ええ。本来でしたら、引っ張り合いで消費する分の魔力も『そこ』から補うことができるはずです。ですから、今はまだ無駄が多すぎるということですね」

「うー……あっ!? ごめん、セージュ!? 吸い過ぎちゃった!?」

「あー、了解。これを細く、細く――――だな?」


 どうやら、大本の『力の泉』が膨大なところらしく、ルーガもなるべく、少なく力を吸い上げたいのに、ちょっとした加減で流れ過ぎてしまうのだとか。

 あんまり、力が強すぎると、迷路を流す時にその迷路そのものを壊してしまうので、そうならないように、俺のところで水道の蛇口をひねる感じで、水量を細く細くしていく。

 というか。

 知らないうちに、自分でも自然と魔力の操作(コントロール)の仕方がわかってきていることに驚きだ。もちろん、今はレーゼさんの補助があるということも知っているが、今まで『土魔法』を使って、色々とやってきたのは無駄じゃなかったんだな。


「ええ。セージュちゃんの方が筋はいいですよ? 『人間種』の方でしたら、ここまで魔法を操れるということは誇ってもいいと思います。どこかで使い方を習いましたか? それとも、セージュちゃんがいた世界は、魔法に精通している『人間種』が多かったのでしょうか?」

「いや……どうでしょう?」


 感心しているレーゼさんに問われたものの、俺自身の実感としては、使い方を教わったという感覚は薄いのだ。

 そもそも、あっちの世界には表向きは魔法なんて存在しないし。

 いや、クレハさんたちの話を聞いたあとだと、ひっそりと魔法使いが存在してもおかしくないかも、とは思ったけど。


「そうなのですか? この作業中に、わたしと話をしながら集中もきれていない、というのは実はすごいことなのですけど」

「そうですか? でも、俺……エヌさんの世界で補助付きのスキルをもらっただけですから……あ、もしかして、それが原因かも?」

「つまり……慣らしの世界、という位置づけでしょうか?」


 言いながら、レーゼさんが黙考する。


 ふむ。

 俺も何となく、だけど、今のレーゼさんの言葉が正しい気がする。

 未だに『PUO』をゲームと称して開発した人たちの意図ははっきりしていないけど、何となく、今、レーゼさんが言った通り、魔法とか、スキルとか、こっちの世界の事柄について、慣れるというか、身体に馴染ませる意味があったんじゃないか、って。


 それに。


 こっちで出会ったオサムさんからも似たような話を聞いた。

 例の『涼風さん』はこっちの世界に人材を送り込むことを画策している節がある、って。


 だとすれば、俺が自然状態で魔法を使えるようになりつつあるのも、『計算通り』の可能性もある。


 まあ、その辺の思惑はどうあれ、今の俺にとっては、ルーガが能力をコントロールする手助けができるので、十分役に立っているという認識だ。


 あとは、ルーガが『狂化』の能力をある程度コントロールできるようになったら、次のステップに移ることができる。

 今のままだと、どう影響を及ぼすかわからないとレーゼさんにも言われて、棚上げになっているが、ルーガが『狂化』を己の支配下へと置けるようになったら――――。


 ――――ルーガを介して、『緑の手』をレーゼさんと共有する。


 元々、クリシュナさんが狙っていたのは、これだ。

 俺が『千年樹(レーゼ)』さんに能力を使うのも手段のひとつではあったけど、元々の力……魔力を含めた諸々の能力値では、レーゼさんの方が遥かに強大なので、そっちのやり方の方が無駄が少ないだろう、という話になったのだ。


 幸いというか、そのためにも打ってつけな能力をルーガが持っていたしな。


 ――――だから。


「ルーガ、もうちょっとゆっくり」

「うん! 同じ量を同じだけ、だね!」


 今は針の穴に糸を通すような、繊細な力の操作(コントロール)を身に着けるのが先決だ。

 俺も、ルーガも。


 そうすることで。


「この迷路の『循環』を進めることで、『毒竜』にも影響があるんですよね?」

「ええ。おふたりにお願いしているのは、そのための作業でもありますから」


 レーゼさんの力を末端まで届けることで、『毒竜(ピー)』の存在を昇華させるのだ。

 あの『毒竜』は、レーゼさんによると『力の泉』に残った残滓のような存在らしい。

 そのため、生きていた頃の意志などもなく、ただ、現世(こちら)へやってきた場合、意思なきモンスターと化す、のだと。

 たぶん、俺たちが前に遭遇した『鎧』と同じような感じなのだろう。

 宿った残滓を『小精霊』が具現化して、現出させた存在。


 結局、あの『毒竜』も気の毒な存在なのだろう。


 だからこそ。


「さっさと成仏させるのが優しさってことですか」

「そうなりますね」


 亡霊退治。

 そのためにも、つながったままの状態で、この作業を続ける俺たちなのだった。

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