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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第10章 グリーンリーフ編
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第402話 農民、それと遭遇する

「着いた……?」


 そこは地面の中にぽっかりと空いた空間だった。

 ビギンの親方さんが穴を掘るまでもなく、すでに地下の水脈が流れ、溶けたような鍾乳石が上から下からそれぞれ、つららのようになっている場所。

 床部分から天井まで、数十メートルはあるだろうか。

 そういえば、途中から、掘られた穴が下へ下へと進んでいったことには気づいたのだが、ここって、地上からどのぐらいの深さなのだろうか?


 『土の民』の種族特性でも、その探知範囲が地上に届かないところを見ると、相当深くまで下りてきているのは間違いない。

 と同時に、この川が流れる洞穴にもしっかりと『千年樹』さんが根を下ろしているのがよくわかる。

 鍾乳石のあるところから、水路の中に至るまで、あらゆる場所に太い幹のような根っこが張り巡らされているのだ。

 ビギンの親方さんは、最初からこの辺りを目指していたんだろうな。

 掘り終わったあとで、鼻息をふんと発して、俺たちの方を振り返った。

 『これで、仕事は終わった』と言わんばかりの仕草。


 さっきから、カウベルさんのよくわからない能力が発動しているおかげで、ここまで一切襲撃がなく済んでいるし、後は俺が、この根っこに触れながら『緑の手』を発動すればいいってことか?


『――――っ!? セージュー、ちょっと待ってー!?』

「えっ?」


 そこまで考えて、クリシュナさんたちに確認しようとした俺に対し、突如、ウルルちゃんからの警告が飛ぶ。


『何かいるよっ!? 木の根っこに擬態してるのがー!』

「擬態……?」

「――――これはっ!? まさか!?」


 耳に響いたのは、クリシュナさんの鬼気迫る声。

 そこまでクリシュナさんが焦っているのは初めてな気がするが。


 それで、今、かなりまずい事態が進行していることに気付く。

 俺だけでなく、カミュたちも同じように感じたらしく。


「おい――――クリシュナ?」

「なぜ、ここに――――!? 『毒竜(ピー)』の本体が!? 残滓……? あるいは『裏切りの竜(イクス)』が滅んだために……?」


 まずいです! とクリシュナさんが息を飲むと同時に。

 樹の根っこのように見えていたもの(・・)が変質していく。


 それは――――。


「巨大な蛇の頭……?」


 大型バスと同じかそれ以上の大きさのビギンの親方さん、それを丸呑みにできるぐらいの大きさの蛇の顔だ。

 その目の部分は暗く窪んでいて、生気をほとんど感じさせない――――が。


 その顔が俺たちの方へと向きを変えて――――。


「くっ――――!?」

「おいっ! 散らすぞっ――――!?」

「ん、押し返す。『しーるど』」


 不意に放たれたのは巨大な水弾。

 それに気付いたオサムさんとリディアさんがすでに動いていて。

 巨大蛇の口から放たれた攻撃を切り刻んで霧散、そのまま、『見えない壁』の力で蛇に向かって押し返す。


「『毒竜(ピー)』――――! 聞こえますか!? わたしです! クリシュナ(エム)です――――! くっ……!? ダメですか――――!?」

「おい、クリシュナ……まさか、あいつ……」

「ええ。間違いありません……『原初の竜』が一牙、『毒竜(ピー)』です」

「本物だな?」

「はい。ですが信じられません……『毒竜(ピー)』の能力は『裏切りの竜(イクス)』が持っていましたので、もうすでに『喰われた』とばかり思っていたのですが……」


 カミュからの問いに、戸惑いながらも答えるクリシュナさん。

 その表情は蒼白になっている。


「『毒竜』ってことは、こいつが『森』を汚染した張本人ってことか?」

「能力としてはそうですが……オサム、それは少し認識が違います。『毒竜(ピー)』の力はあくまで利用されただけです。犯人は別にいます。そして、その犯人もすでにこの世にいません」

「本当か?」

「ええ。間違いなく。最期の『鱗』の消滅を確認しました」


 そう言って、クリシュナさんが頷いて。


「そうですね……だからこそ、『毒竜(ピー)』の残滓がここにいるのかもしれません。あるいは、そのことに気付いたレーゼが何かした可能性もあります」

「なら、その『毒竜』について、詳しく教えてくれ」


 こいつなんだろ? と『水刃刀』を巨大蛇に向けて指し示すオサムさん。


「わかりました……『毒竜(ピー)』は『原初の竜』の一牙です。『P』の座。今の得意属性はその名の通り『毒』です。敵対者に対して、それに特化した毒を生み出すことが可能なはずです」


 言いながら、クリシュナさんが自分の身体をなでる。


「わたしの身体を蝕んでいるのも、『毒竜(ピー)』の毒です。『実体』と『魔法体』との力のやりとりを強制的に阻害する毒……わたしたちのような存在にとっては天敵のような毒です。自力で回復するのにかなりの時間を要します」

「あんた、毒に侵されていたのか?」

「ええ。弱体化しているのもそれが原因です」


 そうだったのか。

 クリシュナさんが弱っているのも、目の前の『毒竜』のせいなのか。

 いや、厳密には違うのかも知れないけど。


「まじか……ってことは、あたしら、残滓とはいえ、『原初の竜』を相手にしないといけないのかよ」

「すみません……わたしに力が残っていれば良かったのですが」


 カミュのぞっとしない感じの口調に対し、申し訳なさそうにするクリシュナさん。

 その言葉に対し、カミュも苦笑を浮かべて。


「ま、仕方ないな。カウベルの力が効いてない以上、そういうやつってことだしな」

「ある意味、良かったですね。これで『原初の竜』の動向がひとつ確認できましたし」

「いや、カウベルさん、そういうのんきなこと言ってる場合じゃないですよ」


 のほほんとした口調のカウベルさんと、どこか嘆息しそうな感じでそれをとがめるマックスさん。

 ただ、『教会組』は愚痴ってはいても、あまり絶望はしていないようだ。

 何となく、慣れのようなものを感じる。


「リディア、腹の空き具合はどうだ?」

「ん、今のところは大丈夫?」

「何で疑問形なんだよ。まあ、余裕があるってことでいいか」


 まあいい、とこの場の方針をカミュがまとめて。


「何にせよ、『千年樹』と接触するためには、こいつを放置できない。生きてるんだか死んでるんだか知らないが、これ以上『毒』をまき散らかされても面倒だからな」


 だから――――、とカミュが全員に向き直って。


「――――さっさと倒すぞ」


 そのまま、巨大蛇(『原初の竜』)との戦闘に突入した。

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