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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第10章 グリーンリーフ編
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第401話 『千年樹』へと続く道

『はいー、というわけで、おいでませ! 頼りになる職人ちゃんよー!』

「……え? 職人?」


 何というか、いきなり登場しては、どんどん話を進めていくシプトンさんのペースについていけずに戸惑うのは俺だけではないようだ。

 他のみんなの表情もどこかハテナマークを頭に浮かべたような感じになっているし。

 一応、リディアさんの無表情と、クリシュナさんのため息顔は別だけど。


 ――――と。


 ゴゴゴゴゴ、と地面が揺れ始めたかと思うと――――。


 ――――え? 地面?

 慌てて、地面の下に意識をはわせてみると、何やら大型の生き物がこちらに向かって近づいてくるのが感じられた。

 結構……というか、かなりの大きさだ。

 たぶん、狼姿だった時のクリシュナさんよりもでかい。

 そんな存在が穴を掘りながら、こっちにやってくる――――?


『いでよっ! 『土』の『眷属』、エアリスちゃんのしもべちゃんよっ!』

「――――!」


 背景にファンファーレがなりそうな……いや、実際にシプトンさんが映っている水晶玉から、変な音楽みたいなものが流れている、その状態のまま。

 地面がぼこっと盛り上がったかと思うと、その地面の下からはヘルメット風の石兜を付けた大きな顔が現れた。


 …………あれ? もしかして、これってモグラ?


『あー! ビギンの親方っすね!』

「――――!」


 ベニマルくんの言葉に、無言で頷くのはつぶらな瞳が印象的な、大きな顔をしたモグラさんだった。


 あ、そういえば、向こうでも聞いたことがあったよな。

 『けいじばん』とかでも話があがっていた、モグラの棟梁さんだ。

 ちっちゃいモグラさんたちなら、『土木系』の家造りクエストの時にも会ったよな?


 そうだ、今って、例の『土木系』クエストってどうなってるんだろ?

 ほとんど、何も伝えずにこっちの世界にやってきちゃったからなあ……。

 俺がいなくても、テツロウさんたちが進行してくれてるかな?


 ――――と、そうじゃなくて。


「そのビギンさんがいるということは、もしかして……?」

『うんうん、セージュちゃんの予想通りだよー♪ 地上や上空から近づくのが困難なら、地面の下を行けばいいの! ね? 簡単でしょう?』


 確かに簡単ではある。

 というか、俺にとっては得意分野でもあるしな。


 シプトンさんによると、このビギンさん。

 『土竜頭』という存在なのだそうだ。

 『千年樹』さんの『土の属性分体』であるエアリスさんの『眷属』でもあり、『グリーンリーフ』の地下を走る通路の工事に携わった凄腕の職人さんでもある、と。


「確かに地下の方が良さそうですね」

「地上の方が速度は出せるがな。その分、負担も大きそうだ」

「地面を掘るのは、任せていいのでしょうか?」

『そうっすね。ビギンの親方なら、落盤の心配とかも少ないっす』

「――――!」


 無言で『任せろ』と言わんばかりに頷くのが親方さんだ。

 さっきから、登場して以降一言も発してないし。

 表情とわずかな顔の動きだけで、雰囲気が伝わってくるのはすごいなあ。

 見た目はモグラが少しだけ擬人化したっぽいけど、無口な職人さんって感じだもの。

 完全に表情が変わらず、言っている言葉がわかりにくかったゴーレムのジェイドさんとはちょっと違う感じだろうか。


『それじゃあ、行ってみようー!』

「――――!」


 シプトンさんの掛け声に合わせて。

 ビギンの親方さんによる穴掘りが始まって。

 その穴の中へと俺たちも続くのだった。


「いや、ちょっと――――シプトン、本当に大丈夫ですか?」

『大丈夫、大丈夫……たぶん』


 少しだけ不穏な感じのクリシュナさんとシプトンさんのやり取りを残して――――。



◆◆◆◆◆◆



「ちょっ!? ちょっと!? ちょっと待って!?」

「これ、畑の時と一緒だよ!?」

『地面の下もっすか……やっぱり、『千年樹(レーゼ)』さま、甘くないっすね。さすがっす』

「いや!? 感心してる場合じゃないって! ベニマルくん!?」


 地面の中なら、確かに葉っぱ攻撃はなかったけどさ。

 今度は、ビギンの親方さんが掘った穴の横から、大きめな虫系モンスターが現れ始めたのだ。


 いや……思わず、ぎゃあって悲鳴をあげたいぞ?


 他のみんなはそれでも、穴の通路に現れたモンスターを意識して倒せばいいんだろうけど、俺の場合、『土の民』の種族特性のおかげで、みんなよりも周囲が色々と感じ取れてしまうわけで。


 うわあ……。


 数もやばいけど、なんかもう、気持ちが悪くなってくるレベルの蠢きだ。

 一応、俺、実家の手伝いとかで、その手の虫とかにはかなり免疫があるはずなんだけど、物には限度ってもんがあるぞ!

 向こうの地球でも、恐竜がいた時代とかは大型の虫が繁殖していたって話だけど……。

 うん。

 俺、その時代にとかにはあんまり行きたくなくなったな。

 なっちゃんぐらいの大きさで、コミカルな動きなら可愛げがあるけど、ザ・虫! って感じの多足モンスターがこれだけの数集まると、普通に引くな。

 ゲームだとリアルすぎる虫とかは御法度だけど、これ、一応、違う世界の現実だからなあ。


 というか、これも『千年樹』さんの仕業?


「やっぱり……」


 クリシュナさんもこれは予想していたらしく、軽く頭を抱えているな。

 いや、だったら、どうして地面の下に行くのを止めなかったんです?


「このルートを通る判断は間違いではありませんから。レーゼの場合も根の範囲の方が広いですしね」


 事実、接触はしやすいはずです、とクリシュナさん。

 なるほど。何とか根っこの端っこまでたどりつければ、って話か。


「クリシュナさん、他の虫たちが入ってこれないように『反射』とかはできませんか?」

「さすがに生物ごとですと、今の力では無理です。魔法関係はいけますが」


 あ、そっか。

 クリシュナさんも弱ってはいるんだよな。

 いや、力が残っていれば、生き物も『反射』可能って……相変わらず、すごい人だよ。

 さすが『守護者』さんだ。


「きゅい――――!」


 おっ!? なっちゃんも『土魔法』で穴の周囲の硬さを増しているのか。

 これなら、少しは時間稼ぎができるかな?


 ――――そして。


「どうします、シスターカミュ? 私も少し気合いを入れましょうか?」

「ああ、頼む。だが、少しは加減しろよ? あたしとマックス以外が戦力低下しても仕方ないからな」

「ええ。そのあたりは気を付けます」


 ルーガがすごいって言っていたカウベルさんの能力か?

 詳しい説明はカミュたちもしてくれなかったので、どういう能力はまでは知らないんだよな。

 いや、ふたりの話の感じだと、味方も巻き込むような風に聞こえるんだが?


 そうして、カウベルさんが気合いを入れた。


 ――――その途端。


 一瞬、頭の中にもやがかかったようになって、すぐに晴れた。

 ……何だよ、今の……って、ええっ!?


「――――っ!?」


 俺が感じ取れる地面の周辺全域で、ピタリと虫モンスターたちが動きを止めてしまった。

 これがカウベルさんの能力?


『ほらほらっ! 今がチャンスだよ、セージュちゃん! 呆けてないで!』

「あ! はいはい!」


 そうだった。

 シプトンさんの声で我に返ると。

 この機会を逃さないように、全力でビギンの親方さんが掘った穴の先へと進む俺たちなのだった。

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