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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第10章 グリーンリーフ編
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第393話 農民、火の鳥と対峙する

『さもなくば……ただでは済まんぞ』


 その言葉と共に、吹き荒れるのは火の粉を伴った熱風だ。

 まだ、目の前の『火の鳥』はこちらに直接危害を加えるつもりはないようで、直接的な炎による攻撃ではないが、その前段階の警告ではあるようで。

 その巨躯を覆っている炎が揺らめいて、形を変えていくのがわかった。


 伝わってくるのは明確な敵意。


「いや、俺たちは――――」

「――――っ!?」

『む? 『森』の同胞もいるのか? だが、貴様も知っているはずであろう? 今の状況(・・・・)を』


 オサムさんが俺たちの立場を説明しようとした刹那、トレント君が必死に枝葉をぴょこぴょこさせながら、『火の鳥』に状況を伝えようとして。

 しかしながら、それはあまり芳しくなく。


『状況を考えろ。誰が敵かわからぬ状態で、見知らぬものを聖域へ通すわけにはいかぬ。万全な守護者が不在の今、ぞ』

「――――……」


 『火の鳥』さんに叱咤されて、しゅんとなるトレント君。


 いや……というかさ。


「なあ、ひとついいか? 俺たち、『竜の郷』の『老師(せんせい)』から頼まれて、この『森』の浄化の手伝いにやってきた者なんだが。ほら、これが許可証と紹介状だ」

「なのです。実際に、こっちのリディアさんも一部をきれいにしてくれたのです」

『敵ではない、と――――?』


 オサムさんたちが持っていた許可証らしきものを取り出して、説得を試みる。

 だが、『火の鳥』さんの方は――――。


『今の緊急事態では、その許可証では権限が弱い。既に、万が一(・・・)が起こってしまった状態だ。悪いが、我には判断できぬ。ゆえに――――』


 『火の鳥』さんがダメ出しをしようとしている、その横で、俺に近づいてきて、こっそりとビーナスが耳打ちをしてきた。


「ねえ……マスター」

「ああ、俺も同じことを思った」


 ビーナスの眉根を寄せた表情から、何が言いたいのかわかった。

 というか、そもそも、俺も同じことを考えていたから。


「あの……ちょっといいですか?」

『何だ?』

「えーと……」


 一瞬だけ、ためらいつつも。

 はっきりとそのことを指摘する。


「――――ベニマルくん?」


『――――は!?』

「……そうよね、マスター? 姿かたちは妙にかっこよくなってるけど、その雰囲気というか、その……感じ? が何となく似てるのよね」


 ビーナスも言う通りだ。

 というか、コッコさんたちとの戦闘中に炎で燃え上がっていた時の――――あの時のベニマルくんの姿がどこか透けて見えるというか……。


 だから、もしかして、と思ったんだけど。

 ただ、俺とビーナスの方を向き直って、どこか愕然としているその姿は――――。


「やっぱり、そうでしょ? 何よ、その気取ったしゃべり方。似合わないわよ?」

『な……何を!?』

「そりゃあね、短い付き合いだけど、何となく無理してるのがわかるもの。そういうのを見破るのは得意なのよ? こう見えても」


 ね、マスター? と言ってくるビーナスに、俺も頷く。

 何でだろう?

 姿は向こうで会った時と全然違うけど。

 なぜか、そんな感じがするんだよな。


 ――――あっ!?


 ビーナスがごそごそとつたでできた服の中から、持っていたアイテムを取り出した。

 その『草冠』がかすかに赤い光を放っていることに気付いて。

 何となく、原因がわかった気がする。


『それは――――どこで!?』

「向こうで、直接会ってもらったわよ」

「フレイタンさんの『試練』をビーナスたちは乗り越えているものな」

「きゅい――――♪」

「ぽよっ♪」

『そう……なんすか?』


 あ、口調が戻った。

 今の姿だと全然締まらないけど、そっちの方がベニマルくんって感じがするよな。


 ただ、やっぱり、愕然としている感じは受けるよな。

 もしかして……というか、やっぱり、こっち(・・・)のベニマルくんって、俺たちのことを覚えていないというか、知らないのか?


「何だ……? なあ、セージュ、もしかして知り合いか?」

「あ、はい、オサムさん。向こう(ゲーム)での話ですから、俺たちが一方的なだけかもしれませんけど」

「何となく、一気に威厳がなくなったのですよ」


 うん。

 ピーニャさんの言葉に俺も同意する。

 姿は燃え盛る炎を自在に操る、大型の猛禽類って感じなのに、今の呆気に取られている表情とか、どこか憎めない感じの雰囲気が表面に出てしまうと、一気にいつものベニマルくんって感じになってしまうのだ。

 案外、こっちのがベニマルくんの本来の姿なのかも知れないけど。


 ただ、俺的には向こうのベニマルくんが『素』のような気がするけどな。


『――――はい、はい――――ああっ!? そういうことっすか!?』


 それはそれとして、俺たちとは関係ない方向を向いて、誰かと話しているベニマルくんだ。

 もしかすると、クリシュナさんが使ってたみたいな『遠話(テレパシー)』のようなものだろうか?

 事態が自分の手に負えなくなったから、上の人に相談しているような。


 ――――と。


『断片的っすけど、思い出したっすよ、セージュさん!』


 ややあって、笑顔で話しかけてくるベニマルくん。


『フレイタン様が『同期』実行中らしいっす。それで『眷属』の僕も少しだけ、あっちの記憶を共有できるようになったっす。はあはあ、セージュさんたちもこっちに来れるようになったんすね?』

「あ、良かった、ベニマルくん。というか、そんなことできるんだね?」

『はいっす。逆は無理みたいっすけどね。あっちの僕は、こっちのことを覚えてないと思うっすけど。何せ、自分の役割も忘れてたみたいっすから』


 そうなんだ?

 というか……。


「ベニマルくんのこっちの……じゃなかった、本来の役割って何?」

『『火の迷宮森林』から聖域へ至る道への番人っす』


 資格なき者、何人たりとも通さないのが僕のお役目っす、とベニマルくんが笑う。

 へえ、そうだったんだ?

 実は、ベニマルくんも結構重要な存在だったんだね。

 まあ、それもそうか。

 『グリーンリーフ』の名前持ちって、結構すごいって聞いたことがあるし。


 『千年樹』の属性分体であるフレイタンさんの『眷属』の『火喰い』。

 それがベニマルくんの『二つ名』とのこと。


「火が得意というのは、ピーニャと一緒なのです」

「だな。はは、正直、この展開は助かったぜ。身体も揺らめいているってことは、非実態系変化も可能ってことだろうしな。戦闘となれば、骨が折れそうだったからな」

『……何か、そっちの人、怖いっすよ? セージュさん?』

「まあまあ」


 少しだけ、大きな身体で怯えを見せるベニマルくんをなだめる俺。

 というか、そういうところを冷静に見ているあたり、オサムさんも怖いなあ。

 必要とあれば、()る気まんまんだもの。

 そして、その見立ても当たってるみたいだし。

 今のベニマルくんの姿って、炎と同化して、その分パワーアップしてる感じなのだとか。

 ウルルちゃんたち、『精霊種』の『物理無効』に近い性質持ちらしい。


 『物理無効』で『火属性吸収』かあ。

 やっぱり、ベニマルくんも本気を出すと強そうだよなあ。


 あ、そうだ。

 こんな話をゆっくりしてる場合じゃなくて。


「ベニマルくん、『千年樹』さんのいる場所まで通してもらってもいい? 一応、俺も『水の草冠』は持ってるんだけど」

『あー、ごめんなさいっす、セージュさん。さっきも言いましたが、今、ここを通過するための権限が異常に厳しくなってるんすよ。なので、完全な『千年樹(レーゼ)の草冠』でないと通せないんすよ』

「あれ? でも、『千年樹』さんが瀕死で臥せっているんだよね? どうやって、改めて許可を得るの?」

『んー……だから、新規での許可は難しいっすねえ……』


 ベニマルくんも困ったようにぼやく。

 今、俺たちとお役目で板挟みになってるみたいだものな。

 通したいのは山々だけど、という雰囲気は伝わってくるけど。


『ですから――――っ!? 今の何っすか!? フレイタン様!?』

「ベニマルくん?」

『レーゼ様が目を覚ました――――だけじゃないっすよね!? 何すか、『狂化』って!?』

「――――っ!?」


 げっ……まずい。

 ベニマルくんの叫び声の中に含まれている単語から。

 変な状況に事態が動きつつあることに気付いて、顔をしかめる俺なのだった。

これが、今年最後の更新になります。

今年は、個人的にも火事のおかげで色々とバタつきましたが、無事、日常に戻れて、大みそかを迎えることができてよかったです。

今年一年、ありがとうございました。


それでは、皆様良いお年を――――。

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