第392話 農民、森の奥へと進む
「とりあえず、こっち方向に進めば、クリシュナさんのいる場所に行けるんだね?」
「――――♪」
俺の問いに、こくこくと頷くのがトレント君だ。
リディアさんによる、湖……というか、もはや湖を含んだ周囲の森の浄化だな。それがひと段落した後で、俺たちはそのまま、『千年樹』のある場所を目指して、先を進んでいた。
その際に、先導してくれたのが、同行してくれていたトレント君だったのだ。
『こっちだってー』
それをウルルちゃんが通訳もしてくれて。
オサムさんにピーニャさん、俺とウルルちゃんとビーナス、なっちゃん、みかんにリディアさん。
うん。
大分、大所帯になってきたよな。
以上のメンバーで、どんどん『グリーンリーフ』の奥地へと進んでいた。
「それにしても、マスター、毒が抜けても、やっぱり、雰囲気悪いわよね、ここ」
「ビーナスもそう思うか?」
「もちろんよ。だって、わたしたち、あっちの『森』を見てるじゃないの」
そうなんだよな。
やっぱり、『PUO』のきれいな『森』を見てきた者としては、どうしても、あっちとこっちを比較してしまうわけで。
どうやったら、ここまで、あのきれいな森を荒らすことができるのか。
改めて、驚きを隠しきれないのだ。
というか。
「『毒』もそうですけど、その邪悪な竜さんって、『森』そのものを壊しにかかってますよね、完全に」
そこまでの恨みでもあったのだろうか?
でも、向こうのラルさんとかの印象を見るに、あんまり恨みとか買うような感じにも見えなかったんだけどな。
俺が首を捻っていると。
「ん、たぶん、魔素殺しが目的。森への攻撃はついで」
「どういうことですか、リディアさん?」
「『竜種』に攻撃を通すには、周辺魔素を削るのが必須」
「『竜種』に……?」
えっと……どういうことだ?
あれ? でも、ちょっと待ってくれよ?
「あれ? でも、オサムさんとか、普通にワイバーンをあっさり倒してましたよね?」
「いや、セージュ、ワイバーンも飛竜も亜竜だぞ。『竜種』未満の種族だよ」
「そうなんですか?」
それは初めて聞いたな。
そういえば、『PUO』では、『竜種』に会ったことがなかったもんな。
いや、エヌさんは例外だから除く。
だから、細かい情報とかは知らなかったわけだし。
というか、こっちに来てから、竜関連のモンスターが多すぎじゃないか?
ワイバーンに、『毒亜竜』に、その邪悪な竜といい。
おまけに、オサムさんたちは『竜の郷』からやってきてるわけだしな。
何となく、敵が竜一色になってる気がしないでもない。
いや、植物系のモンスターが味方になってくれてるってだけだけどさ。
で、話を戻すと。
「セージュは『竜種』と戦ったことはないかも知れないが、連中、ワイバーンなんかとは一線を画する実力だぞ? ぶっちゃけ、真っ二つになっても死なないしな」
「えっ!? そうなんですか!?」
いや、むしろ、オサムさんが『竜種』相手に切り結んだことに驚きだけどな。
さっきまでの話だと、『竜種』と仲良くなってたんじゃないのか?
「いや、そもそも、実力を示さないと気に入られるわけがないだろ? 連中、弱い種族は眼中にないしな。ゲルドニアにしても、たまたま空に浮いてるだけで、ほとんど無視してるのが現状らしいぞ?」
「はあー、そうなんですか」
「なのです。ピーニャもびっくりだったのですよ。『竜種』は肉体の他に別の身体を持っているそうなのです。『魔法体』の一種らしいのですが」
「ん、周辺魔素が残ってる限り、そっちから自動回復」
マジか。
やっぱり、すごいんだな、ドラゴンって種族は。
薄くなることはあっても、周辺魔素と呼ばれるものは、そう簡単になくすることはできないらしくて、それで純血の『竜種』はほぼ無敵とされているのだそうだ。
……って、あれ?
リディアさんが自動回復って言ったけど、それってリディアさんも同じじゃ……?
「もしかして、リディアさんも『竜種』なんですか?」
「違う」
「だからな、セージュ。こいつは『リディアというもの』だって話だよ。気にしてたらキリがないぞ?」
もう、そういうもの、で納得するしかないらしい。
この人の正体を探るのは諦めた方が良さそうだ。
それはそれとして。
『森』を破壊したのも、その場にある周辺魔素をできるだけ排除するための目論見だったってことか。
「はた迷惑な話ですね……」
「ん、本当、迷惑」
「実際、ここが『グリーンリーフ』でなければ、『空間変動』が起こっているって、『老師』も言ってたな。あ、セージュは知らないか、『空間変動』ってのはな」
「確か、起こると空間がなくなるんでしたよね?」
「おっ!? ああ、その通りだ。よく知ってたな、セージュ」
「前に『教会』のシスターさんから聞きましたよ」
意外と、カミュの話って、役に立つよな。
オサムさんが驚いているところも見ると、これって結構極秘な情報かもしれない。
というか、何で、カミュがその手の情報をぽろぽろしてるかが謎だ。
おそらく、『ゲームだから』だったんだろうな。
俺たちがこっちまで来ることは想定してなかったとか。
『でも、ここ、大分魔素が薄いよー』
ウルルちゃんもどこか不満そうだ。
『精霊の森』も魔素の濃度が濃い場所だったし、向こうの『オレストの町』も一応は『グリーンリーフ』の中だったからな。そういう意味では、今の環境だと満足できないのかも知れない。
「どっちかと言えば、物理的なダメージよりもそっちの方がまずいのかもな……って、どうした、リディア?」
「何か、近づいてくる」
「なのです! オサムさん、向こうなのです!」
リディアさんとピーニャさんがほぼ同時に近づいてくるものを感知。
――――と。
その方角から飛んできたのは――――。
『何者だ、貴様ら。ここは聖域へと至る道。早々に立ち去るがいい』
火……いや、炎を全身に纏った大きな鳥のモンスターが姿を現した。
そして、警告と共に、威圧を伴った熱風がその場に吹き荒れるのだった。
『さもなくば……ただでは済まんぞ』




