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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第10章 グリーンリーフ編
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第388話 狩人と巡礼シスター、つながる

「ここは…………?」

「簡単に言うと、あんたの意識の内側だ。要は、気絶した状態で、夢の世界でつながっているとでも思ってくれ」

「あ、カミュ、さん」


 真っ暗な、上も下もないふわふわと浮かんだような空間の中に自分が立っていることに、ルーガは気付いた。

 同時に、すぐ目の前にはカミュの姿もあって、ふわふわと浮いているのは同じだ。


「ここが、夢の中なの?」

「正確には、ルーガ、あんたがあたしの『同調支配』の中にいる、という感じだな」

「『同調支配』?」

「ああ。さっき言ってた切り札のひとつが、この『同調』だ。まあ、もっとも、これについてはルーガも使ったことがあるだろ?」

「……え?」


 きょとんとするルーガに対して、カミュが苦笑して。


「自覚なしか? ほら、あんたがセージュを助けるために、『流血王の鎧』相手に無茶をした時のことさ」

「あの時に?」


 言われて、その時のことを思い出そうとしたが、それでも『同調』という能力を使った記憶はない気がする。

 というか、細かい部分はそのまま気絶してしまったので覚えてない、というのが本当のところだろう、とルーガは思う。


「あの時、セージュ経由で、相互にかかっていた『同調』にルーガも入り込んだって感じの図式だな」

「そんなことをやったんだ?」

「ああ。あの、ユウとかいうやつ、『予知系』のスキル持ちだろ? それに『同調』していなければ、ルーガの行動自体が間に合わなかったはずだ」


 あ、そういえば、と思い出す。


「あの時の、『虫の知らせ』……?」

「それだ。何となくだが、嫌な予感がする。それが明確な形を取った時、確度の高い未来予知として成立する、ってやつだな。一瞬先の『何もしなければ』的中する未来を垣間見る能力だ」


 結果として、あの時もルーガが動いたことで回避されたようだな、とカミュ。

 ふと、それを聞いて、ルーガも気付く。


「もしかして、カミュ……さん、あの近くにいたの?」

「いや、遠くから見てた。てか、ここの中ならいいか。あの時はハイネと一緒にいたんだ。あの女の動向を警戒するのが最優先だったからな」

「ハイネ……?」


 その名前はどこかで聞いたような……たぶん、セージュが口にしていた気がする。


「ああ。ハイネック・レジーナガーデン。ここ『中央大陸』の中央部から東部にかけてを版図とする大国『レジーナ王国』。その現・王妃だ」

「そうなの? でも、その人って警戒しないといけないの?」

「『変わり者』として有名なんだよ。あたしらの間ではな。何せ、本性は狐の妖怪だ。出身はおそらく『コトノハ』だと言われているが、本当のところは不明だ。古代より生きて、その時々の国家の王室へと入り込んでは次々とその国を滅ぼしたとか何とか。あ、これに関しては他言無用だぞ? あたしがそのことを聞いたのも『教会』の『三賢人』からで、現状でレジーナに潰れられるとかなりまずいことになるから、この手の情報はなかったことになっているんだからな」

「……いいの? わたしが聞いても?」


 たぶん、知らない方がいいことのような気がする、とルーガが思うと。

 カミュが笑って。


「心配するな。他言無用とは言ったが、それ自体ができないように契約させてもらうからな」

「え? 契約?」

「ああ。それこそが切り札を伝授する条件だからな。そうしないと、あたしの切り札、好き勝手に広められちゃうだろ?」


 その代わりに、とカミュが続ける。


「色々とルーガに教えてやるよ。表に出すことはできないだろうが、あんたが知っていることに意味がある。だからこそ、こういう形で接触したんだからな」


 なるほど。

 つまり、これ以上は伝授することや知識が外に漏れないように。

 ここだけの話になる、ということをルーガは理解する。


「さっき、ハイネの話をしたが、これもまったくの無関係な話じゃない。『切り札』の話をする前に、少しばかり、あたしのことについても話しておこう」

「いいの?」

「それが契約の条件でもあるからな。まあ、その代わり、それを公言しないように縛らせてもらうけどな。ふふ、普段だったら、恥ずかしくて自分からはあまり言いたくはないんだが、別の世界とはいえ、『魔王様』が相手なら、多少はマシってことさ」

「恥ずかしいの?」

「ああ。好き好んで就いた役職じゃないからな」


 そう言って、シニカルな笑みを浮かべるカミュ。

 そういうところはいつも通りの気がする。


「一応、言っておくが、このことは『教会』内部でもほぼ知られていない。あたしが猛反発したのと、ちょうど身代わりを見つけたのとで、そのおかげで中枢でもそのことを知っているのはごく一部だけだ。もちろん、マックスやカウベルは知っているがな」

「カミュ、さんってシスターじゃないの?」

「もちろん、そうなんだが……そもそも『巡礼シスター』って役職は、あたし以外には存在しない。シスター単独で各地を見回ったりはしないし、能力的にもできない。一応、『暗部』の方の戦闘系のシスターもいるにはいるが、普通は複数で組んで動くからな。そうでなければ、必ず護衛がつく。単独では任務の可否が不明になりやすいからな」

「あれ? でも、護衛がついてるよね?」

「だから、それもフェイクに近い。いや……逆か、そっちは中枢の心配性なのが勝手に押し付けたようなもんだしな」


 ふふ、と苦笑するカミュに対して。

 ルーガの方が疑問の表情を浮かべる。


「結局、カミュさん、どういう人なの?」

「はぁ……『教皇』だよ、『教皇』。お飾りの『教会』のトップだよ」


 心底嫌そうな顔でカミュが嘆息するのが見えた。

 少し恥ずかしそうにもしているようだ。


「ということは、偉い人なの?」

「まあ、位的には偉い人だな。ふざけた話だが、単なる護衛の身から無理やり、その地位まで召し上げられたんだ。あたしもその時に初めて知ったが、『教会』の中で『教皇』を選ぶ基準はひとつだけで、人柄とか能力とかは一切考慮されなかったんだ」

「基準?」

「『適性』だ。『適性』、ただそれだけ。な? 馬鹿馬鹿しいにも程があるだろ? あたしはてっきり、前のマリアの婆さんみたいな人格者……まあ、あの婆さんもどこかおかしなとこもあったが、それでも徳とか格のようなものがあってこその『教皇』職かと思っていたんだが、それは真っ赤な嘘だった――――あたしがそうなるまで、百年以上、『教会』はお飾りの『教皇代行』によって動いていたんだとさ」


 どこか自虐的にカミュが(わら)って。


「神への信心なんて意味はなかった。ただ、ひとつの『適性』だけで、『教皇』が選ばれるシステムさ。結局のところ、あたしらが信じる神なんていなかった。あったのは(いにしえ)から続く契約だけ」


 どこか寂しそうにカミュが言って。


「それを知った時、あたしはマリアの婆さんが穢されたと思った。馬鹿にされたと思った。あの婆さん、必死に真剣に、死ぬまで全力で苦しんでいるやつらを救うために頑張ってたっていうのにな」

「そんなことはないと思うよ」

「うん?」


 思わず、口から出てしまった言葉。

 結局のところ、ルーガにはカミュが言っていることが完全に理解できたわけじゃなかったけど。

 それでも、口を挟まずにはいられなかったのだ。


「その人が――――わたしはその人は知らないけど。その人が一生懸命頑張ったっていうこと、それ自体が尊い行為なんだよ」

「……ルーガ?」

「だって、だって! みんなが苦しんでいるのなら、何とかしなくちゃって思うのは当然のことじゃないの? 違う。当然じゃないからこそ尊いんだよ!」


 呼び覚まされたのは、ひとつの風景。

 荒れ果てた土地。

 食べるものも少なく、みんながひもじい思いをしている光景。


 ――――それでも何かできることがないかって思って!


 ――――だからと言って、侵略とかをするのは間違っていて!


 そうだ、とルーガは思い出した。


 なぜ、自分がセージュに惹かれていたのか。

 命を救われたからじゃない。

 死にかけていたところを助けてくれたからじゃない。

 そうじゃなくて。

 彼が大地を愛しているから。

 自然を当たり前のものとして受け入れているから。


 アルガス芋の植え方を教えてもらった時も。

 セージュ自身は嫌がっている風を装っていたけど、それでも畑を作る時はとっても生き生きしていたことも。


 そうだ、とルーガは思い出す。


 それは――――◆◆◆◆◆◆◆(自分)ではどうすることもできなかったことだから。


「だから! だから――――!」

「……ああ。はは、悪かったな。あたしの愚痴みたいなのを聞かせちまって。そうだな……あたしも思い出した。どうして、今回のエヌからの依頼(クエスト)を受けたのかもな」


 ルーガの想いを受け止めるように、カミュも笑って。


「そうだな。あたしは、『魔王』ってやつに会ってみたかった。こっちだと、会ったが最後、どちらかが死ぬまで戦うぐらいのことしかできなかったが、エヌの世界なら、そこまで縛りが厳しくないと思ったから」

「『神』という存在に疑問を抱いたから。だったら、その反対の存在はどういうやつなんだろう、ってな。リディアの話だと、そこまで腐っていないとは思っていたが、直接会うことは難しかったからな」


 だから、とカミュが続ける。


「結果として、ルーガ、あんたと会えたことに感謝している。少なくとも、記憶は失われているとはいえ、たぶん、あんたはあたしが思っていたような『魔王』だったから」


 だから、と。


「え――――?」

「セージュたちには内緒だぞ?」


 どこか悪戯っ子のような笑みをカミュが浮かべたかと思うと、ルーガの脳裏にひとかたまりの情報が飛び込んできた。



名前:カミュ・ハルヴ・エンフィールド

性別:女性

年齢:◆◆

種族:人間種(半神半人)

職業:巡礼シスター(教皇)

レベル:351

スキル:『聖術』



「これが、カミュの?」

「ああ。隠蔽抜きのステータスだな」

「でも、年齢はまだ……」

「まあ、そこは乙女の秘密ってことだな。あたしの見た目だと隠しておいた方がいいだろ?」

「……?」


 相変わらず、カミュの言っていることがよくわからない、と悩むルーガ。


 だが、それはそれとして。


「カミュって、スキルはひとつだけなの?」

「ああ。そこが『切り札』と言ったところだ。『同調』も『切り札』ではあるが、ルーガにとって、おそらく、こっちの方が重要になるだろう」

「『聖術』が?」

「そういうことだ。まあ、ここからが本題だな。時間もあまりないし、さっさと終わらせて、セージュたちと合流するぞ」

「うん! わかった!」


 そのまま、この意識の世界でカミュによる『聖術』の伝授が始まった。

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