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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第10章 グリーンリーフ編
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第387話 狩人、勧誘される

「ふふ、そうだな。こっちだとルーガは『お客様』だからな。ふふふ、いいこと思いついたぞ」

「うわー、カミュ、ものすごく悪だくみしてる顔になってるよ? こういう時のカミュって、ロクなことを考えてないからなあ」

「やかましい、マックス! まあ、そんなことよりだな、ルーガ」


 横にいるマクシミリアンの突っ込みをばっさりと斬り捨てつつ。

 カミュが口元に笑みを浮かべて、ルーガを見る。


「なに?」

「あんた、こっちにいる間だけ、『教会』所属になってみないか?」

「え……」

「――――は!? 正気!?」

「あの、シスターカミュ、さすがにそれはまずいと思うのですが……」

「何でだよ? 『お客様』なら、そういうのもありだろ?」

「まあ……ありかなしで言えば、まあ、ですけど」

「いやいや、カウベルさん!? あっさり、このカミュ(お馬鹿)の思いつきに乗らないで! 絶対にロクなことにならないって!?」

「……おい、マックス。今、あたしの名前に馬鹿ってニュアンスを込めたか?」

「だって、そうじゃないか!」

「やれやれ……」


 肩をすくめながら、カミュが嘆息して。


「いいか? よく考えろよ? あたしが本当に馬鹿なことしか考えになくて、行き当たりばったりの思いつきで、そう言いだしたか、をだ」

「…………えーと」

「思いつきじゃないの?」

「いや、ルーガ、あんたにそう突っ込まれると困るんだが。無論、そうだ」

「そうって、どっちだよ!?」

「だから、単なる思いつきじゃないってことだよ。いちいちうるさいぞ、マックス」

「基本的に、僕の役目は君の暴走を止めることだからね」

「いや、あんたの役目はあたしの護衛だろ」

「ぶっちゃけ、護衛いらないでしょ、カミュ。どっちかと言えば、カウベルさんの護衛だと僕は思ってるよ」

「やかましい。……じゃなくて、話が逸れてるぞ」


 やれやれ、ともう一度呆れたような仕草をして。

 カミュの表情が少しだけ真剣になる。


「ルーガ、あんたは今、力が欲しい。だろ? 自分を護るための力を。セージュたちを護るための力を。おのれの存在が危険であるということ。そのためには、大切なものを護るための力が必要であると。違うか?」

「違わ……ない」

「当然だ。そのために、あたしはあの時、危機感を煽った。確かにあの時点では味方の方が多いだろう。グリーンリーフにいる限りは護ってくれる連中もいるだろう。だが、話はそこで終わりだ。ずっと(・・・)あの場所に(・・・・・)いるつもり(・・・・・)なのか(・・・)?」

「――――っ!?」


 カミュの言葉に思わず動揺するルーガ。

 その理由はまだ彼女の中では形になっていなかったが。


「あんたも気付いたはずだ。あの世界のからくりを知って。だとすれば、だ。もうあたしが言いたいことがわかるな? 今のままではダメだと」

「今のままじゃだめ……」

「そうだ。セージュたちがどういう存在かわかったはずだ」


 すでに、クリシュナとシプトン、ふたりの存在に触れて。

 少しずつではあるが、世界の(ことわり)について、気付き始めているだろう。

 そう、カミュが指摘する。


 ――――だったら、と。


「時が来れば、セージュたちはいなくなるってこともわかるな?」

「――――っ!」

「あんたはもう理解しているはずだ。それこそ、住む世界が違う。今はたまたま、条件が合致しているだけで、ずっと一緒にいられないということもわかっている」

「……やっぱり、そう……なの?」

「確信はないがな。それこそ、世界が融合でもすれば話は別だが。さすがにそれをスノーたちが許すとは思わない――――だろ? そうじゃないのか、エコ?」


 いきなり話を振られて、驚きながらもエコが首肯する。


「ええ。おそらく。もし仮に、その結末が定められているとした場合……かなりの反発が予想されます」


 今のも控えめな表現です、とエコがつぶやく。

 反発、どころの騒ぎではない。

 そんなことを、仮にあちらの日本一国で行なうということにでもなれば――――。


「……考えるだけでも恐ろしいですね」


 と同時に、目の前のシスターにも恐ろしさを感じるエコ。

 自分の身分については一切触れていないにもかかわらず、こちらのことを見透かしている。

 それがこちらの能力によるものか、洞察のたぐいなのかはわからないが、やはり、カミュという少女はただ者ではないことを痛感させられる。


「だろうな。だから、その選択肢をスノーは選ばないだろう。あたしも付き合いが長いわけじゃないから、絶対かと言われると自信がないがな」


 だが、とカミュが続けて。


「だからこそ、同じ世界で生きる、ということにはならないだろう。ならば、ルーガはどうするのがいいのか。ルーガが望みたいことは何か。それが肝心だって話になる」

「わたしの望み……」

「それをどう捉えるか、だな」


 思わず、沈黙するルーガ。

 そんなルーガの姿を見て、カミュが肩をすくめて。


「まあ、難しく考えすぎるな、ってことでもある。はっきりとあたしから提案できることはひとつ。ルーガ、あんたが『教会』に属するのなら、あたしの切り札のひとつを教えてやるよ。まあ、『統制型』だとスキルとしては覚えられないかも知れないが、あんたには関係ないだろ? 要は使い方がわかっていればいいんだから」


 後は、セージュにでも伝授しておいてやるよ、とカミュ。

 その言葉にまっすぐ強い視線のまま、ルーガが頷いて。


「うん、わかった」


 ――――と。


 そこで、横にいたマクシミリアンから待ったがかかる。


「ちょっと待って。ひとつだけ、僕からもいいかな? ルーガちゃんって言ったね? 君にひとつ尋ねたいことがあるんだけど」

「……なに?」

「『ヴェルガゴッド』という名に聞き覚えは?」

「……わからないよ」


 弱々しく言葉を紡ぎながらも、かすかに頭がズキリと痛むのにルーガが気付く。


 ――――忘れている記憶?


「今はわからないけど……もしかしたら、知っていたかもしれないよ」

「なるほどね――――了解。わかったよ。僕からの確認は以上だよ。どちらにせよ、カミュがやる気である以上は、それはそれで仕方のないことだしね」


 そう言って、苦笑しつつもあっさりと引き下がるマクシミリアン。


「その名は『誰』の名前ですか?」

「当代の『魔王』と噂されている存在の名前ですよ、エコさん。残念ですが、私たちも直接お会いしたことはありませんので、実在しているかもわかりませんが」


 エコの問いに、シスターのカウベルが答える。


「『魔王』……それに、実在が不確定なのですか?」

「ええ。あなたたちは『お客様』ですので、情報の開示がある程度許されておりますが、本来でしたら、『神聖教会』でも一部のものしか知らないことですね。何せ、『空虚の海』を挟んで、その向こうにあるお隣の大陸の話ですから。『空虚の海』――――『虚界』とも呼ばれておりますが、その『虚界』に穴ができるまでは行き来すること自体が困難な場所でした。『魔王』の噂も、穴が開いたここ数年来でのお話になります」

「……仰ることがよくわかりませんね」

「だろうな。だが、これでも、カウベルの説明はわかりやすい方なんだぞ? まあ、あんたらの世界は水によって覆われているんだろ? こっちだと、その水のあるところの一部が『何だかよくわからんが通行できない変なもの』でできているって感じなのさ」


 それが『虚界』だ、とカミュが続ける。

 一部の能力持ち以外は渡ることすらできない謎エリア、と。


「ゆえに、大陸同士の交流ってやつはほとんどない。一応、東西にひとつずつ、南には小島がふたつ、そこまでは確認できているが、その外側については完全にお手上げの状態ってわけだな」

「北にはないのですね?」

「そっちは『無限迷宮』がひとつあって、そこから先に進めないってとこだな。もしかしたら、その先に大陸があるかも知れないが」


 話を戻すぞ、とカミュ。


「そもそも、マックスが変なことを聞くから、話が逸れるんだろうが。再度確認だ。ルーガ、こっち限定で『教会』に所属する。それでいいな?」

「うん」

「よし。だったら、あたしの権限で『あたしの護衛』ってことで召し上げる」

「護衛なの?」

「ああ、そうなるな。そっちのマックスと一緒だな」

「便宜上ってことだね。本当の意味で護衛する必要はないよ。それにしても……」

「なんだよ?」

「『教会』史上で初めてじゃないの? こんなこと」

「知るか。てか、そういうのは散々カウベルが記録したろ。今更だ、今更」

「はいはい」


 どこか楽しそうな、それでいて呆れたように言うマクシミリアン。

 そんな彼のことを、しっしっと野犬を追い払うような仕草で応じるカミュ。


 だが、あくまでもルーガに対しては真剣な表情で。


「――――というわけで、早速だが、ルーガ」

「なに?」

「さっきも言ったろ? あたしの切り札のひとつを伝えるって。ちょっと、顔を近づけろ」

「――――こう?」


 互いに口づけするんじゃないか、という距離まで顔を近づけるふたり。

 だが、実際は額を触れるようにして。


「マックス、カウベル、少し入る。時間稼ぎ頼む」

「えっ!?」

「了解」「わかりました」


 カミュたちの言葉に意味を理解する間もなく。

 そのまま、ルーガの意識は真っ暗な世界へと移っていった。

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