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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第10章 グリーンリーフ編
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第382話 魔導竜、魔女相手に嘆息する

「シプトン……これはどういうことですか?」

『え? 何? 聞こえない』

「嘘をつかないでください。魔女の『遠見の水晶玉』がそのような不良品のはずがないでしょう」


 自らの目の前に浮いている水晶玉に話しかけてるクリシュナ。

 水晶玉にはシプトンの姿が映っていて。

 今のクリシュナの問いが聞こえなかった、と言わんばかりに耳元に手をやるジェスチャーでごまかしている様子がはっきりと映し出されていた。


 それを見て、クリシュナも嘆息して。


「確かに、貴方にセージュたちの手配をお願いしましたが、それならばどうして、わたしの元へと送らなかったのですか? ある程度の調整はできたはずでしょう? 貴方ならば」

『んーんー♪ うんうん、それが答えだとおねえさんは思うの』

「え……?」

『わからない?』

「……つまり、失敗したのではなく、意図的にそうしたということですね?」

『うん。そういうことだねー』

「…………」


 シプトンの言葉に考え込むクリシュナ。

 今、クリシュナが立っているのは、『グリーンリーフ』の中枢で程よく『千年樹』から離れた場所だ。

 離れた場所にいる理由は、今の『千年樹(レーゼ)』の全体像を眺めるためだが、やはり何度見ても、頂点からまっぷたつになっている『千年樹(レーゼ)』の姿は痛々しく、目にするだけで居たたまれない気持ちを抱いてしまう。


 ――――これと言うのも。


 『裏切りの竜』を自称するイクス。

 クリシュナにとって、同胞でもあり、宿敵でもある、あの男のせいである。

 もっとも、エヌに言わせると、裏切っているのは『裏切りの竜(イクス)』ではなく、クリシュナたち、ということになるのだが。

 既にクリシュナたちが捨てた『原初の竜』の本懐を、未だ抱え続けているのが、その『裏切りの竜(イクス)』なのだから、と。


 しかし、とクリシュナは、そのエヌの言葉を心の中で否定する。


 殺し合い――――喰らい合いの果てに得る『完璧』さに何の意味があるのか、と。

 それ自体がいびつで歪んだ行為としか思えないのだ。

 少なくとも、クリシュナは『千年樹(レーゼ)』と出会い、彼女の中にその可能性の片鱗を見つけた。

 すべてを受け入れる。

 そのことによって、そのことにこそ、クリシュナにとっての――――。


 ――――ですから。


 今回、襲撃してきた『裏切りの竜(イクス)』を滅ぼした。

 手を貸してくれたのは『空竜(エス)』と『混沌竜(シー)』。

 結果として、エスは重症、クリシュナ自身も力の大部分を失い、そして――――。


 ――――『混沌竜(シー)』が相討ちとなりました。


 少なくとも、『グリーンリーフ(ここ)』が、『千年樹(レーゼ)』が、この惨状でありながらも、辛うじて生き延びていられるのも『混沌竜(シー)』のおかげなのだ。

 と同時に、クリシュナは疑問に思う。


 ――――なぜ、あの時に『混沌竜(シー)』は手を貸してくれたのでしょうか?


 『空竜(エス)』はわかる。

 あの(ひと)は『裏切りの竜(イクス)』のことを仇敵と見ていた。

 だから、クリシュナが呼びかけるまでもなく、『裏切りの竜(イクス)』の襲撃を察知して、こちら側に付いてくれたのだ。


 ――――複数の竜の力を持つ『裏切りの竜(イクス)』相手では、わたしひとりでは拮抗することもできなかったでしょう。


 空を飛ぶ速さでは、『空竜(エス)』が最速。

 だからこそ、最初の襲撃にも間に合った。

 それは理解できる。

 しかしながら、それとほぼ同じくして、なぜ『混沌竜(シー)』もまた戦線に加わってくれたのか?

 その答えがわからない。


 ――――そもそも、『混沌竜(シー)』の力は絶大です。


 一牙で、今の『裏切りの竜(イクス)』を凌駕しうるのは『混沌竜(シー)』と……あとはひとりかふたりだけ。それしか、クリシュナには思い浮かばない。

 『混沌』の力で、相手の能力を乱し、すべてを喰らって無にする『混沌竜(シー)』。

 その力は強すぎる。

 下手をすれば、この世界そのものに及ぶほどの危険なもの。


 ――――であるからこそ、『裏切りの竜(イクス)』を滅するに至ったのですから。


 最後に『混沌竜(シー)』が言った言葉。


『念には念』


 その言葉を最後に。


 ――――『混沌竜(シー)』が『裏切りの竜(イクス)』と共に消滅しました。


 ――――あれは間違いなく死に際の現象でした。


 『原初の竜』の死に際に現れる核とひとつなぎの逆鱗。

 それが世界へと吸い込まれることで、『原初の竜』は死を迎える。


 ――――もっとも。それはただ死ぬだけではないのですが。


 ――――ですが、なぜ?


 なぜ、『混沌竜(シー)』がそこまでしてくれたのか、その謎は未だにクリシュナにはわからないことだった。



 ――――と。


『クリシュナ? クリシュナ? 大丈夫ー?』

「すみません、少し別のことを考えていました」


 シプトンからの呼びかけに我に返るクリシュナ。

 そして、再び、シプトンの言葉に意味を探ると。


「セージュたちを別々の場所に送ったこと。それについては、シプトンの思惑によるところ、ということなのですね」

『そういうことだねー』

「……ちなみに、森のどの辺りに送りました?」

『あれー? クリシュナならそのぐらいは感じ取れるんじゃないの?』

「今のわたしは弱体化状態です。おまけに『千年樹(レーゼ)』の力も弱まっていますし。森全域を探ることなどできませんよ」


 それが真実、とクリシュナは嘆息する。

 『裏切りの竜(イクス)』とのぶつかり合いでできた傷は、決して浅いものではなかったのだ。

 今のクリシュナでは『グリーンリーフ』の護りをすることも難しい。


 だからこそ――――。


「本来のわたしの力があれば、誰にも頼りませんよ。ですが、今のわたしではどうしようもありません。シプトン……お願いします」

『んー、まあいいか。おねえさんもめずらしい言葉を聞けたしね。じゃあ、ちょっと説明するね』


 そう言って、シプトンが伝えてきた内容を聞いて。

 クリシュナが軽く驚きを見せて。


「ルーガとエコは森の外ですか!?」

『うん、そう。セージュちゃんとウルルちゃんは、一応、クリシュナのところに向かってるかな?』

「なぜ……いえ、これも『予知』に関すること、ですか?」

『そういうこと。一応、それなりにマッチングしてるから、これで何とかなるんじゃないかなあ、っておねえさんは思うのね』

「マッチング……?」

『そ。細工は流々仕上げを御覧じろ、ってね』

「……何ですか、それは?」

『ふふ、あっちの表現だってさ。響きが何となく面白いと思わない?』

「それはわかりませんが……わかりました。わたしはここで待てば良いのですね?」

『そう、良いのですよー』

「今更ながら、シプトンが『魔女』であることを思い出しましたよ」

『ふふふ、そうそう。『魔女』をタダ遣いするとこうなるんだよ。またひとつ学んだね、クリシュナ』

「はぁ……」


 きちんと報酬を渡せば良かったと嘆息するクリシュナと、それを見てニヤニヤと笑うシプトン。


 そして。


 性格は悪いが腕は確かだと、クリシュナが考え直して。


「わかりました。わたしも最善を尽くします」

『うん、おねえさんもそうするねー』


 そのまま、光を失った水晶玉をしまうと。

 クリシュナはその場から別の場所へと移るのだった。

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