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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第10章 グリーンリーフ編
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第381話 農民、周辺の地図を見る

「今、俺たちがいる場所は地図で言うとこの辺だな」

「なのです。『グリーンリーフ』の西側なのです。ピーニャたちは森の西側から、この魔境の中へとやってきたのです」

「なるほど――――」


 改めて、おおよその現在位置を確認する俺たち。

 オサムさんが見せてくれているのが、この大陸の地図のようなものだな。

 全体図が一枚と、おそらく分割されたであろう、この『グリーンリーフ』の周辺を含めた拡大地図がもう一枚。


 さらっと、オサムさんが地図を出してくれたけど。

 不意に、前にカミュから聞いた言葉を思い出す。


「よく地図を入手できましたね、オサムさん」

「お? ということはセージュも地図の入手難度については把握してる口か?」

「ええ、前にゲーム内で出会ったシスターさんから聞きました」

「なるほどな、『教会』の連中か。ああ、そうだな。正確な地図と言えば、普通は『教会』だろうぜ。専属の測量士とかも抱えてるらしいし、各国も機密事項を除けば、ある程度は『教会』に地図を作ってもらうことに関しては許可せざるを得ない、というのが現状のはずだしな」


 オサムさんが口元に笑みを浮かべたまま続ける。


「『教会』の測量した地図ってのは、他とは段違いの正確さを誇る。俺やセージュのように、衛星写真の存在を知っているものにとっては、それほどでもないかもしれないが、こっちの世界だと、その辺を普通にはぐれモンスターが闊歩してるからな。余程、技術者が育っている国でもなければ、詳細な地図を作ること自体が無理ってことさ」

「なのです。もちろん、結界のある都市の中の地図などは別なのですが、都市の周辺部を含めた広範囲の地図となると、かなり厳しいのですよ」

「ということは、この地図は『教会』のものですか?」

「いや、違うぞ」


 そう言って、オサムさんが地図の端の方の印のようなものを指さした。


 ――――あ! ドラゴンの横顔みたいなマークがある。


「……ということは」

「ああ。これは『竜の郷』にいる『竜種』が作った地図だ。まあ、当然のことだが、連中、空を飛べるからな。あと、長生きだしな。そういう意味では、地上で暮らす俺たちみたいなものよりも、そっちの技術に秀でているんだろう」


 確かに。

 その空飛ぶ島に住んでいるんだものな、竜さんたちって。

 それなら、衛星写真に近い形で地表を見渡すことも可能ってわけか。


 あ、そうだ。


「あの、オサムさん」

「うん? 何だ?」

「その『竜の郷』には『原初の竜』の方たちも暮らしているんですか?」

「お……!? 『原初の竜』ってのはあれか? 『竜種』にとっての崇めるべき存在ってやつだな?」

「えっ……そうなんですか? そこまでは知りませんでしたけど……」


 逆にオサムさんから尋ねられて、少しびっくりしてしまった。

 へえ、エヌさんって、竜種の神様みたいな存在だったんだ?

 話している感じだと、かなり気さくで、そういう風な印象はあんまりなかったけど、やっぱりすごい人ではあったんだな?


「ああ。『竜の郷』ではそういう話は聞いたな。ただ、その竜神さまたちも多くが姿を消していってしまって、今となっては『竜種』と言えども容易くは会えなくなったとも言っていたはずだ」

「なのです。『老師(せんせい)』がそう言っていたのです。竜の神様たちは変化(へんげ)の能力に長けていて、どんな種族にも化けられるそうなのですよ。なので、『老師(せんせい)』たちも探すのが難しいそうなのです」

「へえ、そうなんですね」


 そういえば、エヌさんも似たようなことを言ってたっけ。

 そもそも、最初に出会った時は粘性種(スライム)の姿だったし、その後はあっさりと人型にもなっていたしな。

 『原初の竜』は変幻自在、と。


「だから、正直、『竜の郷』にその『原初の竜』がいたかどうかとなると、俺たちにもわからないのさ」

「少なくとも、自分からそう名乗ってくれた(ひと)はいないのです」

「そうでしたか」


 なるほどな。

 いるかも知れない(・・・・・・・・)けどわからないってことか。


 それはそれとして。


「まあ、『竜種』といえども、できることとできないことはあるだろうな。この地図にしたところで『グリーンリーフ』の中については大雑把になってるしなあ」

「確かに、よくはわかりませんね」


 オサムさんの言う通り。

 『グリーンリーフ』として記されているのは、森とそれ以外の境界線ばかりで、あとは緑の濃淡で構成された地図になっている。

 おおまかな広さはわかるけど、森の中の道などについての記載はないようだ。


「一応、大きめの川とか山とか、昨日通った峡谷とかはわかるな。だから、現在位置はこの辺ということになるんだが」

「いざ、森の奥を目指すとなるとルートがわからないですね」

「仕方ないのですよ。『グリーンリーフ』と言えば、『千年樹』が護りし、眠りの魔境なのです。眠れる竜を起こすのと同じか、それ以上に手出し無用の土地として有名なのです」

「冒険者もほとんど近寄らないんだったか?」

「なのです、オサムさん。ダンジョンとしての危険度は最高のAランクなのです。おそらく、最難関の『無限迷宮』を除けば、この大陸で一二を争う危険地帯なのですよ」


 ピーニャさんが教えてくれた。

 冒険者ギルドの基準で『グリーンリーフ』は、トップクラスで危ないダンジョンに数えられるそうだ。


 中の地形についての事前情報がないこと。

 地形が時間経過と共に変化していくこと。

 植物系のモンスターが多く、擬態が得意なものも多いこと。

 危険度高め、高レベルのモンスターが徘徊していること。

 中心部ほど危険だが、外周部にも不定期で高レベルのモンスターが現れること。


 などの理由によって、『不用意に近づけば命がない』レベルのダンジョンである、と。

 ただ、このダンジョンが最難関の『無限迷宮』に含まれないのにも理由があって。


 条件次第で、ダンジョンの難易度が大幅に減少するのだとか。


「ひとつ、『グリーンリーフ』の使者が同行している場合。ひとつ、『グリーンリーフ』の住人から依頼(クエスト)があった場合。ひとつ、『通行許可証』のたぐいを持っている場合。ひとつ、『渡り鳥モンスター』の協力を得ている場合。などの場合は『グリーンリーフ』が受け入れてくれるので、難易度が下がるのです」

「今のセージュのように、植物系統に好かれやすい場合もそうらしいな」

「なるほど……ちなみにオサムさんたちは?」

「俺たちの場合は、避難民から『許可証』を受け取っているのと、あとは『老師(せんせい)』の紹介だからってとこだな。『老師(せんせい)』、この森のお偉いさんと面識があるらしいぜ」


 だからだな、とオサムさんが笑う。


「目的も、『この森を救いたい』ってことだしな。まあ、妨げられる理由はないよな」

「…………それにしては、モンスターの襲撃がありますよね?」

「それは仕方ないのです。『はぐれ』のモンスターは突然生まれたりするので、そもそも、森の命令系統から外れていることも多いのです」

「単純に知性の問題もあるんだろうな。しつけられるのとしつけられないやつがいるって話だ。だから、こっちもその辺については割り切ってるな」


 交渉の余地なく襲ってきたら倒すまでだ、とオサムさん。


「まあ、相手が『人化』できるなら、俺の『眼』でわかるからな」

「そうなんですか?」

「ああ。それを基準に食材かどうか見分けてるってところもある」


 なるほど。

 『包丁人』が使えない相手なら、交渉の余地がある、ということか。

 一応、『人化』できないモンスターでも、友好的かどうかは何となくわかるのだそうだ。

 随分と便利な目だなあ、とは思った。


「『包丁人』の『目利き』の能力さ。これがなければ、もっと色々と毒見をしないといけなかっただろうな」

「おいしいものをピンポイント! なのです」


 無益な殺生はしてはならない、ってやつらしい。

 なるほどな。

 まあ、異世界ならではの便利スキルとでも解釈しておこう。


 それはそれとして。


「予定では、周囲を一周しつつ、様子を見ていくつもりだったんだが、セージュの話を聞く限りだと、『千年樹』を目指すべき、なんだろ?」

「ええ。たぶん、その周囲で俺の知り合いが待っているはずですから」


 クリシュナさんに会えれば、何とかなるはずだ。

 というか、こっちに来てから大分時間が経ったけど、向こうはどうしてるんだろう?

 クリシュナさんも森のお偉いさんなら、俺たちのことを探してくれている可能性もあるか?

 あるいは、それどころじゃない事態になっているか。


 ……何とも言えないな。


 となると、こちらとしてもできることをやるしかないわけで。


「よし、じゃあ、このルートを進んでみるか」

「一直線、ですね。わかりました」

『途中まで案内する、って、この子も言ってるよー』

『――――!』

「うん、よろしく頼むね」

『――――♪』


 よし、目指すのは『千年樹』だな。

 資格不足でもなんでも、とにかく近づいてみないことにはどうなるかわからないし。


 そのまま、俺たちは森の奥へと進むことにした。

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