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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第10章 グリーンリーフ編
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第379話 農民、森の中を進む

 異世界(ツギハギ)にやってきて、驚いたことはいくつかある。

 まず、ログアウトができない。

 もっとも、これは冷静に考えれば、当然なことなんだが。

 こっちの世界の人にとっては、こっちの世界が現実(リアル)だものな。

 当然のことながら、時間を飛ばしたり、ショートカットしたりなどの行為は不可能で、困った時に現実に戻るなんてことはできない。


 一応、例外として、俺の場合、こっちの世界でこの『偽体』が死ねば、『PUO(ゲーム)』の世界まで戻ることができるはずだ。

 もちろん、シプトンさんの言葉を信じれば、だけど。

 ただ、リスクとして、この依頼(クエスト)は失敗となって、再挑戦にも時間を要してしまうことは想像に難くない。

 結局のところ、俺が帰るためのもうひとつの方法は、この依頼(クエスト)をクリアしなければいけないんだけど。


 そのための問題点も多い。

 まず、他のメンバーとはぐれてしまっていること。

 一応、一緒にいるトレント君がクリシュナさんの居場所に関しては知っているらしいので、後は許可ってことになるけど、そのためには他の『草冠』を持っているルーガたちと合流しなくてはいけない。


 だが。


 それに付随して、こっちの世界に来て驚いたことのひとつがのしかかってくる。


 世界が――――正確には『グリーンリーフ』そのものが、ゲームのそれよりも遥かに広大になっているのだ。

 いや、たぶん、こっちが本当の広さだったんだろう。

 エヌさんの世界では、俺たちが気付かないところで、色々と活動(プレイ)がしやすいように補助がなされていたってことに今更ながら気付かされた。


 単純に広さだけではない。


 地形そのものが複雑かつ、入り組んだ状態になってしまっているのだ。

 救いがあるとすれば、『森』そのものが荒れているため、樹海という感じにはならず、景色の良いところに出れば、遠くまである程度は見渡すことができるという点だろう。

 もっとも、見晴らしの良い場所も断崖絶壁だったり、そこに至るまでアップダウンがかなり厳しいので油断はできないのだが。


 オサムさんたちと一緒になって、加えて、トレント君の協力もあって、モンスターの襲撃を警戒しなければならない、という点については多少改善されたものの。

 決して、森の中の移動が楽になったというわけではないのだ。

 グランドキャニオンにも似た峡谷のような場所もあって、そこを降りて登って、とかやっているとあっという間に時間が経ってしまう。

 異世界へとやってきて丸二日近く経っているのに、ルーガたちと合流できないのも、まったくその目途が立たないからなのだ。

 結局のところ、オサムさんとピーニャさんの依頼(クエスト)に同行して、そのついででルーガたちを探している、というのが現状だ。


「『身体強化』を覚えていて良かったな、セージュ」


 そう、オサムさんからも言われたしな。

 何せ、この『グリーンリーフ』、乗り物として、俺たちの足となってくれる騎乗用の魔獣(モンスター)を連れてこれない場所、なのだそうだ。

 森そのものの『圧』に怖がってしまい、普通の騎乗のためのモンスターでは中に入ろうとしてくれないのだとか。

 だから、オサムさんたちも自分の足で走っているわけで。

 これで『身体強化』なしだったら、もっともっと時間がかかってしまっていただろう。

 本当にアマゾンのジャングルの全域よりも広いんじゃないかってレベルでの広大さだしな。


 ただ、その話を聞いた時は少し驚いたけどな。

 少なくとも、俺やウルルちゃんはそんな『圧』を感じたことがなかったし。

 ただ、オサムさんたちの話を聞くにつれて、たぶん、俺が持っている『水の草冠』が影響しているんだとは感じた。

 今の『グリーンリーフ(この場所)』って、元々の同じ時よりも外に対しての警戒度が増しているらしく。

 普段だったら、難民とか流民のような周辺他国から流れてきた種族やモンスターを受け入れたりもしてくれていたのが、荒廃後は一切、そういうことが為されなくなってしまったのだとか。

 まあ、それも当然だけど。

 むしろ、この『森』からの避難民を別の場所が受け入れたりもしてくれているそうだ。

 オサムさんたちが依頼(クエスト)を受けた『竜の郷』などもそうなのだとか。

 『竜の郷』って、どこかで聞いたなあ、と思っていたら、例の『空飛ぶ島』のことだったので、かなりびっくりした。

 ゲルドニアって国にある、浮遊島の『竜の郷』だ。

 こんな状況でもなければ、ぜひ行ってみたい場所だったんだけどな。

 今はそれよりも、ルーガたちと合流して、依頼(クエスト)達成を目指さなくてはいけない。


 むしろ。


 ……これ、テスターに残された期間で終わるのかね?

 いや、そもそも、こっちの世界とあっちの世界って、時間の流れ方とかは一緒になのか?

 その辺はシプトンさんたちからも詳しくは聞いていないのでわからないし。


 一応、オサムさんから聞いた感じだと、そこまでの差はなさそうな気もしたけどな。


 あと、問題点として大きいのは、ここが現実になったことで、夜を明かすせよ、何にせよ、とにかく準備というのが必須になってしまったということだ。

 俺がオサムさんたちと別れて、ルーガたちを探しに行けない理由のひとつがここにある。


 今の俺って、サバイバルのための最低限の道具すら持っていない状態なのだ。

 寝るための寝袋とかもオサムさんたちから借りたし、その就寝のための場所を確保するという意味でも、オサムさんたちが使っている『鎮静香』――――モンスターたちに襲われないような空間を作り出すためのアイテムなども持っていないし。

 一応、ピーニャさんの『気配遮断』と『簡易結界』の能力も併用しているから、今の『グリーンリーフ(この場所)』でも野営ができるけど、普通だったら、不寝番とかが必須なのだそうだ。

 まあ、大自然の中なんだから、それもモンスターが蠢く世界なんだから、当然なんだろうけど。


 排泄面ひとつ取っても、その手の魔道具なんて持ってないし、食料にも不安がある。

 何せ、周囲を生えている植物を見ても、何が食べられるもので、何が毒持ちかもまったくわからないのだから。

 これは俺がどうこうと言うより、世界が異なるせいで、今までの知識がほとんど役に立たないことが原因だけどな。

 ゲームの時は、それでも『鑑定眼』があったから、多少はどういう草かが認識できていたんだが、ここではさっぱりだし。


 なので、時折、オサムさんが俺に草について教えてくれたりもする。


「そっちに生えている草が、バジルの風味のある毒草だな。そこから毒だけ取り除けば、ハーブの代用として使える。今朝、ソースにも使ったのがそれだ」

「そっちのラード虫は、尻から出てくる甘い(エキス)が旨みを持っているな」

「このナナカマドみたいな赤い実は、酸味がアクセントになる」

「おっ! そっちの樹がハシリカエデだな。『グリーンリーフ』の固有種で、トレント化もする樹だ。うまく仲良くなれれば、その甘い『樹液()』を分けてくれるぞ」


 そういうわけで、時々、俺も『緑の手』を使って、採取を手伝ったりもした。

 『樹液』を『血』って表現するのも、それを対価さえ払えば普通にわけてくれることにも驚いたけど、こっちの世界だと割とよくあることなのだそうだ。


「『グリーンリーフ』に入る時の鉄則は、植物たちが喜ぶものを持っていくことなんだとさ。俺たちの場合、竜種の『老師(せんせい)』から分けてもらった、これだな」


 『竜の郷』で汲むことができる湧き水、『竜神水』、だそうだ。

 おそらく、『精霊の森』の『3区』にある『深淵の水』に近い感じだろう。

 その土地土地でとれる特別な水。

 それを飲んだトレント君が狂喜乱舞してたから、植物にとっては本当に美味しい水なのだろう。

 というか、響き自体が何か凄そうだし。


 まあ、結局のところ。


 さすがに俺ひとり……ウルルちゃんとトレント君は一緒だけど、この三人だけではそのまま遭難するのが目に見えているので、オサムさんたちの依頼(クエスト)を手伝っている、というわけだ。


 ちなみにオサムさんたちの抱えている『依頼(クエスト)』。


 『竜の郷』に住んでいる竜族代表の『老師』から頼まれた、『グリーンリーフの汚染状態の解消』なのだそうだ。

 何でも、ここまで森が荒れた理由のひとつが『毒能力』持ちの(ドラゴン)が暴れたため、であるそうで、そのことを同族として『竜の郷』の『老師』さんも心を痛めていたのだそうだ。

 要は、同種の尻ぬぐいみたいな形なのだそうだ。

 そうでもなければ、本来『竜の郷』が秘密裏と言えども、外部のいさかいに対して行動を取ることはないらしく。

 そういう意味では、かなり異例の状況とも言えるようだ。


 そして、なぜ、オサムさんたちが頼まれたのかというと。

 それもオサムさんの『包丁人』の能力に由来する。


 何せ。


 『毒』も処理することで調味料と化すことが可能で。

 つまり、『包丁人』の能力で『毒性』を取り除くことができるのだそうだ。

 俺と遭遇したワイバーンも、その身体は毒に蝕まれていたのだけど、それをあっさりと調理してしまったのも、『毒性』だけを取り除く技術を持っていたからで。

 そのまま、俺たちが食べても問題なかったのも、それだけオサムさんが凄い料理人だから、という点に尽きる。

 ジェムニーさんも言っていた『解毒調理』の一種ってことだろう。


 そんなこんなで。

 時々、美味しい食事に舌鼓を打ちながら。

 俺たちは依頼(クエスト)達成に向けて、『森』を疾走していくのだった。

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