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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第10章 グリーンリーフ編
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閑話:セージュ喪失1日後

「へっ? セージュと連絡が取れなくなったって? 本当、黒さん?」

「ああ。一度別れたあと、また連絡をする約束をしていたんだけど、それっきりになってしまってね。彼、そういう性格じゃないと思っていたから、気になってね」


 『オレストの町』の『家』建設予定地の前。

 そこで再開したテツロウとクラウドがお互いの情報を交換し合う折に。

 そのことが話題にのぼった。


 『家』造りクエストの重要人物でもあるセージュと連絡が取れない、と。


「最後に会ったのって、昨日?」

「そうなるね。場所は『迷いの森』の中にある『ヴィーネの泉』だ」

「ああ、あそこか……ちなみに、黒さん、別れる前に次どこに行くか、セージュから聞いてたりする?」

「残念だが、『秘密系』のクエストに絡んでいてね。詳細については聞けなかった。推測としては、『森』の中央エリアに向かったんじゃないか、とは思うがね」

「おー、相変わらずだな、セージュのやつ。『中央』って確か……普通の手段じゃ入れないって場所だよな?」

「そう、『セントリーフ』だね。たぶん、とは言ったがそれで間違いないと思う。何せ、あの銀狼さんが絡んでいるからね」

「へえっ!? クリシュナさんがらみのクエスト!? すげぇ! そんなのあるんだな!? あの(ひと)って、存在感は凄いけど、ラルさんのとこだとちょっとした空気になってない? 唸り声ばっかりでしゃべらないし」

「ああ、そうそう、セージュ君はあの(ひと)と意思疎通が取れるらしいよ? 条件をクリアするとテレパシーみたいな感じで直接頭の中に言葉が飛んでくるそうだ」

「へえっ!? それはすごいなあ」


 というか、とテツロウが苦笑して。


「黒さん、それってやっぱり、厄介なクエストの最中ってことじゃないの? ユウにも色々聞いたけど、クエストの種類によっては一切外部と接触不可で数日が経過するやつもあるみたいだしさ」

「うん、それならいいんだけどね……」

「何か、気がかりなことでも?」

「他にも行方不明になっている人がいてね。その人もおそらくセージュ君たちについて行ったはずだから、不思議に思ってね」

「……ん? いや、だったら、その人も一緒ってことじゃないの?」

「まあ、そうだね。ちょっと『横浜組』のひとりだから気になってね」


 そう言って、クラウドが少し黙考する。

 昨夜、エコさんについて、ビリーさんと話をする機会があったのだが、わずかだが、確かに動揺のような反応があった。

 完全に予想外、という感じで。

 どうやら、ビリーたちとも連絡が取れなくなっているらしい、ということだけは教えてもらうことができたが……それが何を意味するかはまだわかっていない。


「ふうん……前から気になってたんだけど、黒さん、横浜から来てる人たちがどうかしたの? 何か、それとなく探っているって印象を受けるんだけど」

「……そうかい?」

「いや、俺もひとりだったら気付かなかったんだけど、他の迷い人(プレイヤー)さんたちからの話を総合するとね。まあ、気のせいだったらごめんなんだけど、ちょっと不思議だなって思ったから、あえて直接聞いてみたってわけ」


 テツロウが少しだけ真剣になる。

 別に意識してクラウドの話を集めたわけではなくて。

 ただ、どこの『施設』からアクセスしているかの情報を集めている節があることが、何となく透けて見えて。

 でも、クラウドの場合、情報屋とか検証班のような側面もあったし、それを周囲もある程度は認識していたので、テツロウがそのことに気付いたのはほんのたまたまだ。

 絵師の写る楽が横浜出身だったらしく、その話に食いつかれた、とか。

 まあ、今のアクセス場所は名古屋だから違ったみたいだけど、それを彼が覚えていたのだ。


「……相変わらず、嗅覚が鋭いね、テツロウ君」

「まあ、そういうのは得意だから」

「前に取材した別ゲームのゲームマスターも君のことを注視してたしね。『想定外のところから、イベントが切り崩される』って」

「このゲームだったら、どっちかと言えば、そっち担当はゾエさんとかセージュだと思うけどね。――――で? 本当のとこは?」

「詳しくは言えないね。言わないんじゃなくて、言えない。それでわかってもらえるかな?」

「……ふうん」


 そのクラウドの言葉で、テツロウもピンと気付く。


 ――――つまり、そういうことだよな?


 クラウド自身が何度か口にしていた。

 このゲームは謎が多すぎる、と。


 つまり――――『横浜組』、横浜の『施設』からアクセスしている迷い人(プレイヤー)が、その謎に関して触れている存在で。

 その謎をひとりで追っているのがクラウド、と。

 雑誌編集者としてなのか、ひとりのゲーム好きとしてなのかは知らないけど、テツロウが思う以上に、大きなヤマになっているのかも知れない。


 というか。


 テツロウ自身も、このゲームを作っている製作元に疑問を感じていたのは事実だ。

 規模が大きすぎる、にもかかわらず、明らかにペイできないほどの保証を俺たちテスターにかけている。

 おまけに作っている版元が新規参入系の企業体で、ほとんど表に出てこない。

 そもそも、『施設』を運営している企業の情報すら、ネット上では検索に引っかからないのだ。

 いくら何でもおかしいとしか言いようがない。

 その癖、テスター環境は至れり尽くせり。

 上げ膳据え膳でゲームし放題で、おまけにお金までもらえるなんて。

 うまい話にも程があるのだ。

 それこそ、初日にクラウドと出会っていなかったら、何か別の人体実験でもされてるんじゃないか、って不安すらあったかも知れない。

 一応、クラウドから、会社経由で話が来たことは聞いていたので、そこまで胡散臭い企業による運営じゃないのかと楽観していたのだが。


 ――――まあ、そうだよな。


 普通は疑うよな、とテツロウが内心で頷く。


 とは言え、あと少しで期間の半分が経過だ。

 逆に言えば、あと半分。

 それまでにどうするか、だな、とテツロウが独り言ちる。


「まあ、そっちはいいや。それより、黒さん、セージュのことが心配ってことなら、別ルートで探りを入れてみたら? 俺たちとユウがやってる感じで」

「そうだね……それが無難か」

「セージュは確か札幌の『施設』からだったよね? えーと……札幌の『施設』で他にアクセスしている人と言えば……」

「すぐ思いつくのは、十兵衛さんとカオルさんだね」

「十兵衛さんは糸の切れた凧みたいな人だからなあ……やっぱり、生産職で工房で会えるカオルさんに当たるのがいいんじゃない?」

「となると、キサラさんの仕立て工房かな」

「よーし! じゃあ、そうと決まったら、早速行こう!」

「テツロウ君もかい?」

「いや、こんな面白そうな話、乗らない手はないでしょ」



◆◆◆◆◆◆



『エコとの連絡が不通になった?』

「そうだ。念のため、用意しておいた手段がすべて不通になった」

『そうですか……私はどうします?』

「そのまま、作戦の維持で構わない」

『この中での捜索などは不要とお考えですか?』

「おそらく、見つからないだろう。このケースは想定していたことだ」

『了解しました……ところでビリー現場指揮官』

「何だ?」

『エコ……の本体の方はどうなりました? そちらの確認は?』

「不可能だ」

『不可能……? 緊急時は強制終了が可能なはずでは?』

「『涼風』の眷属の話では、その状況を超えたのだそうだ。この状態で機械を緊急停止させれば、(コクーン)の暴走でどうなるかわからない――――そうだ」

『中も見れないということですか?』

「そういうことだ。今もうちの技術の連中が右往左往している。やはり、ブラックボックスの存在する装置に頼るべきではなかったな」

『命令ですから仕方ありません』

「そうだな」


 命令だから仕方ない、という言葉を内心忸怩たる思いで噛みしめるビリー。

 だが、そんなことを一切表情に出さずに。


「チャリオ、引き続き、任務の続行を頼む」

『了解です』


 ややあって、通信が切れる。

 そこで、ようやく少しだけ顔を歪めて、ビリーがつぶやく。


「やはり……触らぬ神に祟りなし、だな」

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