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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第2章 テスター交流スタート
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第36話 農民、二日目の朝を迎える

「おう、セージュの坊主、待たせたな」

「いえ、俺も今、到着したところですよ」


 テスター二日目。

 昨日はサティ婆さんの家に泊めてもらったので、朝もベッドでぐっすりだった。

 特に体力的なペナルティもないらしく、すこぶる調子がいいぞ。

 ただ、朝起きた時には、少し空腹値があがっていたので、睡眠中でも、少しずつではあるけど、お腹が空いてくるってことなんだろう。

 そっちは、サティ婆さんが用意してくれた、朝食のスープを飲んだら、ゼロというか、マイナスになったけどな。

 どうやら、ある程度、腹が満たされると数値が満腹の方へと振れるらしい。


 ただ、やっぱり、違和感というか、現実では現実で朝食を食べて、その後でログインしたのに、こっちに来ても改めて、食事を取るのって、何だか変な感じだぞ?

 いや、ゲームの身体の方はお腹が空いてるって設定なんだろうけどさ。

 そうは言っても、普段より頻繁に食事を取る羽目になってる気がする。

 まあ、食べるのが好きな人にとっては、嬉しいのかも知れないけどな。


 ともあれ、サティ婆さんには改めてお礼を言って、十兵衛さんとの待ち合わせの場所までやって来たというわけだ。

 昨日、リアルの方で、食事中にラースボアに関する報酬の話とかもしたのだ。

 十兵衛さんは別にいらない、って言ってたけど、でも、あのモンスターを倒したのって、十兵衛さんの手柄だから、そこは何とか受け取ってもらうことになった。

 何せ、冒険者ギルドから借りてた装備とかも、十兵衛さん壊されちゃってたしな。

 そっちの保障とかがどうなるか、とかも分からない以上は、多少はお金を持っていた方がいいだろうし。

 

 それで、十兵衛さんが復活する、教会の前で待ち合わせて、そこから、冒険者ギルドの方まで、残りの十兵衛さんの分の報酬やら、ラースボアの素材やらを受け取ってから、今日の行動へと移るって流れになった。


 というか。

 さっきの待ち合わせのやり取りだと、男ふたり、特に片方の中身がお爺さんとなると、何となく、微妙な感じがするよな。

 俺も言ってて、なんだこりゃ、とか思ったし。

 テツロウさんとかだと、オネエキャラっぽく冗談交じりで乗ってくれそうだけど。


 まあ、それはさておき。


「十兵衛さん、死に戻った後って、どんな感じで復活したんですか?」

「ああ。目が覚めたら、ってか、こっちの世界に繋げた直後に、真っ暗な箱みたいなもんに寝かされてたんでな。慌てて、ふたを跳ね上げたら、棺桶の中だったぜ」

「えっ!? 棺桶!?」

「おうよ。お前は一度死んだんだぞ、ってなもんだろ。俺が入ってたのだけじゃねえよ。他にもずらりと棺桶が並んだ部屋ん中でな。で、そうこうしてたら、すぐに、神父みてえなやつがやってきて、お祈りやら、俺の今の状況についての説明やらをしてくれたんだ。で、一通り、手続きみてえなもんが終わったんで、建物から出てきたんだよ」


 さすがに棺桶たぁ驚いたぜ、と十兵衛さんが苦笑する。

 はあ、なるほど。

 どうやら、十兵衛さんによると、教会の中には、礼拝所の奥の方に、死者を安置する部屋もあるらしくて、『死に戻』った迷い人(プレイヤー)は、その部屋の中にある棺桶のいずれかから、復活するらしい。

 いやいや、さすがに棺桶の中から復活ってのはびっくりだよ。

 カミュからも話は何となく聞いていたから、てっきり、教会のベッドの上とかから蘇るとか、そんな感じだと思っていたんだけど、何だか、聞いていると、ゾンビとか、吸血鬼みたいな復活の仕方だよな。


 それと、教会の中には、神父さんがひとりと何人かのシスターさんも働いていたそうだ。

 十兵衛さんの見た感じだと、カミュは今日は来ていなかったらしいけど。

 それに、十兵衛さんの他にも何人か、復活している迷い人(プレイヤー)がいたらしくて、その、神父さんやシスターさんたちもいそがしそうにしていたので、教会についての詳しいこととかは聞けなかったんだとか。

 確かに、聞いてる感じだと、この時間……朝一番が最もいそがしそうだもんな。


 『死に戻り』の復活やらが集中するわけだし。

 結構、あたふたしていたってことは、迷い人(プレイヤー)がこの町に集中しているせいで、本来の町の設備だけだと足りてないのかも知れない。

 実際、宿に泊まれなかった人とかが、結局、冒険者ギルドの大部屋で一夜を過ごしたって話も、あの後で『けいじばん』で話題になってたみたいだし。

 意外と深刻だよな、この宿問題。


「ちなみに、十兵衛さん、身体の具合はどうですか?」

「ああ、調子は悪くねえな。昨日は、薄皮一枚張られてたような、妙な感覚があったんだが、それもねえしな」


 たぶん、『痛覚』が元に戻ったからだろうな、と十兵衛さん。

 うーん、やっぱりそういうのってあるのか。

 俺の場合、そこまで細かい部分での違いがわからないんだけどな。

 というか、十兵衛さん、そもそも、体格とか外見年齢まで違ってるんだけど、そっちに関しては違和感とかないのかね?

 確か、最初のチュートリアルでハイネもそんなことを言ってた気がするんだけど。


「元の身体と大きさが違うことでの違和感とかはないんですか?」

「もちろんあるぜ。視線の高さとかな。だが、あっちの身体だと、俺の場合、思うように動かすことすら骨なんだ。そっちのリハビリに比べりゃ、この程度、適応するなんざ、訳ねぇぜ」


 ふうん、そういうものなのか。

 動かしたいように、自在に動かせる以上は、あとは、細かい動作を微調整していけば、何とでもなるのだそうだ。

 たぶん、その辺は、麻痺状態でのリハビリとかの経験も関係しているんだろう。

 今も、『見てな』って言いながら、飛んだり跳ねたりしてるし。


 あ、そうだ。

 今の十兵衛さんの姿を見て、気が付いた。


「十兵衛さん、装備品とかは、向こうの服に戻ってるんですね?」


 一応、装備品の名前も教えてもらったんだけど、服とか下着とかは、すべて、『迷い人の~』という感じのものになっているのだそうだ。

 それは、俺も同様で、シャツやパンツなどの下着も、その上の洋服も、すべて、アイテム名については、『迷い人の肌着』とか『迷い人のパンツ』とかそういう感じで統一されていたのだ。

 靴だけじゃなかったんだな。

 その辺も、『けいじばん』の考察スレッドとかで話がされていた。

 そういうのを見ていると、やっぱり、俺って迂闊だなって思う。

 色々と試してみることは多かったんだ、って、ちょっと反省してしまうしな。


 ただ、まあ、それはそれとして。

 昨日、カミュの攻撃というか、手刀で、貫かれてしまっていた下の服とかの穴も、普通に再生されているんだよな。

 もっとも、身につけていた革鎧みたいなのはなくなってしまってるけど。

 これは、どういう理屈なんだろうか?


「あの、なまくらと、鎧の方はダメみてぇだがな。ああ、そういやあ、さっきの神父が言ってたなあ。『基準状態』の装備品や、アイテム以外は死んだら、すべて失うことになる、ってな」

「『基準状態』ですか?」

「ああ。だから、金や大切なもんはどこかで預かってもらった方がいいんだとよ」


 ふうん。

 何だか、重要そうなキーワードが出てきたな。

 その、『基準状態』ってのが、『死に戻り』で復活する時に関わって来るのか?

 たぶん、最初の状態ってことだろうけど、スタート時点での装備が『基準状態』ってことなのだろうか?


 あれ? ってことは、お金やアイテムを預けて、『死に戻』れば、ぼろぼろになった装備品とかも復活するってことか?

 いや、でも、試してみたい気もするけど、そうすると、カミュと今度会った時えらく怒られそうなんだよなあ。

 あんまり、死に戻るなって言ってたし。


 うん、そっちの検証はまだ保留にしておこう。

 ともあれ、いざという時に備えて、お金やアイテムを預かってもらうってのが大事なのはよくわかった。

 確か、お金に関しては、商業ギルドで有料で預かってくれるんだよな?

 きっちり、お金を取られるあたり、普通の銀行とかとちょっと違うけど。


 アイテムの預かりに関しては、まだ聞いたことがないな。

 倉庫業とか、そういうのがあるのかね?

 そっちの情報も探っていく必要がありそうだ。


「なあ、そろそろ、その……報酬か? それの受け取りに行こうぜ。いや、金がどうって話より、新しい武器がねぇとな。うさぎ相手なら、武器なしでもどうとでもなるんだが」

「そうですね。俺も今日は、色々とやることがありますので、どんどん行きましょうか」


 十兵衛さんの言葉に頷く。

 今日は、サティ婆さんに頼まれた素材の収集とかもあるし、町の外に行く前に、ちょっとドワーフの工房にも寄っていきたいのだ。

 昨日、武器屋のオーギュストさんから、紹介の紙ももらったので、これを持っていけば、一応話は聞いてくれるみたいだし。

 やっぱり、農具については、本職のドワーフさんに聞いておきたいからな。


 まあ、何はともあれ、まずは冒険者ギルドからだな。

 そのまま、俺と十兵衛さんは、その足で冒険者ギルドへと向かった。

『死に戻り』にはデメリットがあります。

現時点では、顕現化されておりませんが……カミュが警告しているのにも理由があります。

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