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第363話 眷属たち、炎の樹相手に苦戦する

「だからね、『草冠』ってのは複数の意味を持ってるのね」

「そうなの?」

「――――きゅい?」

「ぽよっ?」


 セージュたちが『ヴィーネの泉』の中で戦闘を繰り広げているその頃、別行動をとっていたビーナスたちもまた、ボスモンスターと遭遇していた。

 この場にいるのは、ビーナス、なっちゃん、みかん、そして保護者として一緒についてきた『魔女』のシプトンだ。


 目の前のモンスターと対峙しながら、そのことを露ほども感じさせない気楽さで、シプトンがビーナスたちに語る。


「『レーゼの草冠(そうかん)』。ここ、『グリーンリーフ』における唯一無二にして、絶対的な通行許可証。ふふふ~♪ もちろん、草冠って言っても、単なる草で編んだ冠ってわけじゃなくってね――――はい、来ましたー! 燃える攻撃ー」

「ああっ!? もうっ! みかん、もうちょっと右へよけてっ!」

「ぽよっ!」

「きゅいきゅい――――!」


 ビーナスたちに襲い掛かるのは、燃え盛る火炎による攻撃。

 ここが『森』の一部にも関わらず、目の前のボスモンスターは平然と炎による攻撃を繰り出してくる。

 それをみかんの騎乗によって回避するビーナス。

 そして、同時になっちゃんが『土壁(アースウォール)』を発動させて、渦を巻く火炎流の軌道をそらす。



名前:フレイタン

年齢:◆◆◆

種族:はぐれ樹人種《火炎樹》(ドリアード)

職業:『迷宮森林《火》』の管理者

レベル:◆◆◆

スキル:『炎の息吹』『火魔法』『火炎吸収』『延焼予防』『火喰い(ベニマル)召喚(※使用不可)』『枝葉乱舞』『精気吸収(エナジードレイン)』『◆◆◆(千年樹)の加護・再生(リジェネ)』『源泉との直結(リンク)



「もうっ!? なんで、樹が燃えてるのよっ!?」

「ふふ、まあ、仕方ないよねー。この試練に必要なアイテムを護っている一樹(ひとり)だもの」

「どういう意味よっ!?」

「うーん、たぶん、けっこう、クリシュナってば無理したわね。だって、本当だったら、この試練って、『迷宮森林』の探索クラスの難易度だもの。まあ、いちいち、『火』『水』『風』の区画を巡らなくて済むようにしたわけだし、そういう意味ではちょっとは攻略難易度は下がってるでしょうけど」

「ちょっと! ちゃんと、わかりやすい言葉をしゃべりなさいよ、シプトンっ!」

「まあまあ、落ち着きなさいって、ビーナスちゃん。『予言者』ってのはそういうものなんだってば。おねえさんも好きで煙に巻いてるわけじゃないんだよ?――――はい、次の攻撃来たー」

「なっちゃん、まだ行けるっ!?」

「きゅい!」


 ちっ、と舌打ちしながら、ビーナスがなっちゃんにお願いする。

 目の前の巨大な燃える樹。

 そこから放たれるのは、生き物の形をした炎だ。

 まるで、それらが意思を持っているかのように、逃げるビーナスたちの方へと追尾(ホーミング)してくるのだ。

 なっちゃんの『土魔法』による防御で、方向をそらしたり、撃墜したりしているも、少し経つと、すぐさま新しい炎が蛇のように追撃してくる。

 ビーナスにできることは、なっちゃんに『苔』を与えたりして、魔力枯渇を防ぐことぐらいだ。


 ――――何せ。


「もうっ! わたしたち魔樹系統が炎に強いなんて、反則じゃないっ!?」


 ビーナスの攻撃のたぐいとはことごとく相性が悪い相手なのだ。

 つるによる攻撃も、『苔弾』による射撃も、炎によって燃やされてしまい、『火炎樹』の本体までは届かない。

 『音魔法』も炎の蛇によって相殺されて無効化。

 よりにもよって! と思わずにはいられない相手なのだ。

 ビーナスもみかんも魔樹系統。

 普通であれば、炎との相性は悪いわけで。

 今のところは逃げ回ることしかできていない状況だ。


 それでもここから撤退しないのは、シプトンの言葉に気がかりな部分があるからだ。


「なんで、シプトンはこっちについてきたの!?」

「うーん? そりゃあ、虫ちゃんたちがかわいいから……というわけだけじゃなくって。たぶん、ここが一番厳しくなるから、と思ったから、かな?」

「なんで、疑問形!?」

「うんうん、おねえさんの『予知』ね。『予知』って言っても、自由自在に何でも見えるってわけじゃないの。その断片をつなげて、こねこねして、何とか形にすることで、未来予知って形をとってるのね。だから、おねえさんといえども、絶対の『予見』はできないのね。ふふ、これ、内緒だよ? ビーナスちゃんたちだけに教えてあげるけど」

「……いいわ。なら、あれ、倒す方法を教えなさい」


 シプトンの言葉に、同じく真面目に返すビーナス。


「ついてきたってことは、そういうことなんでしょ?」

「んー、そういうわけじゃなくってね」

「違うのっ!?」

「この試練はボスモンスターを倒せるようには(・・・・・・・)できていない(・・・・・・)の。何せ、お相手になってる三柱とも、『千年樹』さまの『属性分体』だからね」

「……何よ、それ?」

「ふふっ、まあ、早い話がレーゼさん本体とリンクしてる存在ってわけ。だから、レーゼさんの体力を削りきるぐらいのダメージを与えなければ、絶対に倒せないわよ? ふふ、こっち(・・・)の世界だと弱体状態だけど、それでも今のセージュちゃんやビーナスちゃんにはちょっと不可能かも?」

「…………」


 その説明に思わず黙り込むビーナス。


「きゅい!」

「ぽよっ!」


 だが、その間にも炎による攻撃は続く。

 とにかく、逃げ回るみかんと防護壁を生み出し続けるなっちゃん。


「何よ、それ……倒せないってこと?」

「ま、手段を選ばなければ不可能じゃないとは思うわよ? それこそ、リディアやクリシュナなら可能かな? だけど、それがもたらす影響を考えれば、たぶん、ふたりともやらないでしょうね。さっき、クリシュナもそれとなくヒントを出してたでしょ?」


 もっとも、いよいよとなれば動くかもしれないけど、と肩をすくめるシプトン。


「それって……」

「今の説明で何となくわからない? この三体の無敵っぷりが何によってもたらされているか考えれば、結論は出ると思うんだけど?」

「『千年樹』……?」

「ふふ、ご名答。そう。三体すべてを力技で倒せば、『試練』はクリアできるけど、その結果、『千年樹』も死に至るかも、ってね。そうすれば、その力によって護られている『グリーンリーフ』はどうなるかな? って。それについては、『予知』を使うまでもないわね。そもそも通行許可証なんていらない状況になるだろうから」

「…………」


 先程、クリシュナがセージュ(マスター)にかけた言葉を思い出すビーナス。


『わたしやリディアが代理で終わらせることは可能です』

『できますが、『試練』達成としては最悪です』


 ふぅ、と嘆息して。


「なるほどね。じゃあ、倒すって前提条件が間違ってるのね?」

「そういうこと」

「ところで、それ、何でマスターたちには言わなかったの?」

「え? だって、ここにいるのって、眷属ちゃんたちだけじゃない? だから、ここでなら言えたんだよ?」

「え?」

「ぽよっ?」

「きゅい?」

「ビーナスちゃんたち、眷属ちゃんは(マスター)がこの『試練』をクリアすれば自動的に資格を得られるからねー。だから、ちょっと答えをお漏らししても大丈夫ってわけ。でも、セージュちゃんやルーガちゃんたちは違うの。自分の力で気づかないといけないのね」


 それでなければ、『試練』達成とはならない、とシプトンが微笑む。


「ふふ、じゃあ、鬼ごっこしながら、もうちょっと話を続けよっか? ビーナスちゃんたちもお手伝いすれば、この『試練』を早く抜けられるだろうからね」

「どうすればいいの?」

「さっきも言ったけど、『草冠』ってのは複数の意味を持ってるのね。完成形の『レーゼの草冠』。これは『千年樹』から直々に渡されるか、『試練』をクリアしなければ手に入れることはできないもの。それだけに効力は抜群ね。持ってるだけで『グリーンリーフ』のほとんどのエリアが出入り自由になるから」

「ええ。それで?」

「ふふ、慌てない慌てない――――ふふ、大分話しながら避けるのがうまくなったわね――――続きね? 『千年樹』本人と会えない場合、『草冠』を得るために最も手っ取り早い手段が『草冠』を集めること」

「……え?」


 一瞬、何言ってんの? とビーナスがあきれ顔を浮かべる。

 だが、シプトンは笑みを消さず。


「『火』の分体、『水』の分体、『風』の分体。それぞれが隠し持っている三種類の『草冠』を奪って、それらを組み合わせることでできるのが『レーゼの草冠』よ」

「つまり……ってことね?」

「そ。だから、パーティを三つに分けたのよ」

「ふーん……」


 聞きながら、思わず笑みを浮かべるビーナス。


「わたしたちも逃げ回ってるだけじゃダメってことね?」

「そ。ふふ、頑張って」

「言われるまでもないわ! みかん! なっちゃん!」

「――――ぽよっ!」

「――――きゅい!」

「わたしたちで、『火』の『草冠』を奪取するわよっ!」

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