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第362話 農民、水の中の敵に苦戦する

「はあああっ!」

『いくよーっ! 『水槍(ウォーターランス)』!』

『〇☆●▽◆っ!?』


 鎌による回転斬りで一匹。

 ウルルちゃんの『水槍(ウォーターランス)』でもう一匹。

 ぷちゅんという音と共にスライムが弾ける。


 うん。

 このスライム、数はいっぱい湧いてくるけど、一匹一匹はそこまで強くないみたいだな。

 もちろん、それなりに動きは速いし、周囲の水を使って防御膜のようなものを生み出したりもしているようだけど、それは『精霊眼』で丸見えなんだよな。

 『水の盾』や『水の鎧』部分からずらして攻撃すると、あっさりとダメージが通って、ぷちゅん、と弾けては周囲の水と同化していくのだ。


 とは言え。


『強くはないけど、数が多いなあ』

『うんー。もう百匹ぐらいは倒してるよねー?』


 全然減らないよー、と少し疲れたようにウルルちゃんが言う。


 そうなのだ。

 この『イズミンスライム』。

 確かにあまり強くはない。

 けれども、決して油断できる相手じゃなくて。

 隙あらば、『水玉(ウォーターボール)』を飛ばしてくるし、自滅覚悟で体当たりをしては、こっちの動きを封じてくるのだ。

 たぶん、まとわりつくことで敵の速度低下をもたらすのだろう。

 おまけに次から次へと生まれてくるので、なかなかイズミン本体まで近づけないというか。


 多分、そういうギミックの敵なのだろう。

 イズミン本体は、渦のような攻撃をたまに繰り出してくるだけで、あとはひたすら周囲にスライムを生み出すだけというか。

 もちろん、何度かはウルルちゃんの『水槍(ウォーターランス)』で樹本体に傷をつけたりもしたけど、その直後に回復してしまうのだ。


『樹木系って、自動回復持ちが多いのかね?』

『何となく、みかんに似てるよねー』


 こっちはあんまり時間に余裕がないのにな。

 持久戦ではキリがなさそうだ。


 ――――なので!


『もう一度!』


 『音魔法』によるダッシュジェットを使って、スライムたちをかい潜る!


 もうすでに、ここまでの『森』での戦いで、『幽幻の鎌』の特殊効果についてはある程度判明している。

 闇のもやの範囲内に敵が入り込めば、もやが発生している間だけ動きがスローモーションになる、というものだ。

 今思うと、食らってもいないのにクリシュナさんが警戒していた理由がわかるよな。

 速度特化の存在にとっては、あんまり相手にしたくない特殊効果だもんな。

 ダメ元で打ってくれた割には、かなりの出来だ、このペルーラさん作の『鎌』。


 だから。


 相手の動きが鈍れば、回復効果も鈍らせることができるんじゃないか、って。

 そう思ったんだけど。


『――――っ!?』

『セージュー! だめー、やっぱり、囲まれるよーっ!』


 ダメだ!?

 スライムの数が多すぎる。

 こっちはこっちでぷちゅんぷちゅん倒せるけど、あっちはあっちでポコポコ生み出してくるから、結局プラマイゼロなんだよなあ。

 『水魔法』しか遠距離攻撃には使えないし……。

 でも、そっちは俺が主導だと使えないから、ウルルちゃんに任せざるを得ない。

 どうしても、攻撃が一拍遅れてしまうのだ。


 どうする?

 この『試練』、あんまり時間がかけられない、とクリシュナさんから忠告があった。

 時間制限があると考えるのが自然だろう。

 にもかかわらず、この無限増殖じみたボスが相手、と。


 何か、抜け道がないか?


『スライムが生まれる場所にパターンはないか……? 仮にそうだとすれば……』


 今の俺が使える攻撃手段は。

 『鎌』による攻撃。

 ウルルちゃんによる『水魔法』。

 ビーナスから借りている『音魔法』。

 そして、俺の持っている能力の『土魔法』。


 『鎌』はイズミン本体に近づかないと当てられない。

 『音魔法』は前方へ攻撃すると反動がひどい。おまけに、水の中だと威力が散ってしまうので、それほどのダメージにはならない。

 何せ、スライムたちに当たってもほぼ無傷なのだ。

 まあ、たぶんそれは、スライムたちが持っている『衝撃無効』のせいだと思うけど。

 『衝撃』ダメージの『音魔法』はスライムたちに阻まれて、イズミン本体まで届かない。


 ――――あ! 待てよ!?


『そうだ! ちょっと試してみるか!』

『どうしたのー?』

『もう一度だけ、『音魔法』で近づいてみる!』


 そうウルルちゃんに言って、再びダッシュジェットで距離を詰める。


『セージュ―! やっぱり、上からも下からもどんどん来るよーっ!?』

『――――だから、遮る! 『土壁(アースウォール)』5連っ!』


 水中では役立たずの『土魔法』。

 本当にそうだろうか?

 遠距離攻撃は、水に遮られてしまって、威力が大幅に減衰してしまう。

 だけれども。


『スライムの発生源――――それはイズミン本体の周囲の水だな!? だったら、スライムを蹴散らしながら、発生源になり得る範囲を狭めるまでだ!』


 何となく、巨大モンスターを閉じ込める系の陣取りゲームみたいか?

 そんなことを思いながら。

 5連によって縦長に生み出された土壁をそのままにして、また『音魔法』を駆使して、別の角度へと移動する。

 何だかんだで、このスライムたちを倒してもきっちり経験値は得られているようで、大分レベルもあがったしな!


『やってやるぜ!』

『それはいいけど、セージュー』

『何? ウルルちゃん』

『こっちは盛り上がってるけどねー、あの樹のモンスターさんは割と大人しいよね?』

『……そうなんだよな』


 うん。

 ウルルちゃんの一言で、頭にのぼっていた血が少し静まっていく。

 確かに。

 ノリノリで戦おうとしているこっちの思惑を透かす感じで、イズミン本体はゆらゆらと水中をゆっくりと移動しているだけなんだよな。

 確かに、スライムを量産したり、渦巻きを起こしたりもしてるけど、こちらを威嚇するでもなければ、叫んだりもしない。


 何というか。

 今まで相手にしてきたボスモンスターとはちょっと毛色が違う感じというか。

 あ、ミスリルゴーレムも動きは派手だったけど、無口ではあったか。


 やっぱり、これって……。


『イズミンを倒すのが、クリア条件じゃないのか?』


 そもそも、クエスト内容が【『草冠』を奪取せよ】だ。

 だから、無限増殖型の敵、なのか?


 考えろ、考えろ。

 迫ってくるスライムを倒しながら、『土魔法』も使いながら。

 もう一度、このクエストの肝となる部分について考え直す俺なのだった。

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