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第360話 農民、泉の存在に気付く

『セージュー。水の中に何かいるよー?』

「えっ!?」


 『憑依』したままで、ずっと黙っていたウルルちゃんが俺に警告を発する。

 その言葉に反応して、『泉』全体へと目をやると――――。


「はいっ!?」

「水の中に大きな樹?」

「ん、完全に水と同化してた」

「あら……? ねえ、マスター、枝のところに透明な何かがくっついてない?」


 水面が波を立てて、揺れ始めたかと思うと、いきなり大きな影が出現したぞ!?

 半透明な樹……?


 ――――いや、今発動している『精霊眼』がそうではないと告げている。


 この樹のモンスターは、水と同化して姿を見えにくくすることができるようだ。

 普段は『泉』の底でじっと静かにしているタイプのモンスターか?

 そして、ビーナスの指摘の通り、その半透明な樹とは別に、その樹にまとわりついているというか、樹そのものを護ろうとしているかのように取り付いている存在が複数。




名前:イズミン

年齢:◆◆◆

種族:はぐれ樹人種《水棲樹》(ドリアード)

職業:『ヴィーネの泉』の管理者/沈黙の守護者(シークレットボス)

レベル:◆◆◆

スキル:『水中呼吸』『水魔法』『◆◆召喚』『気配遮断』『隠遁』『水域同調』『泳術』『木魔法』『枝葉乱舞』『精気吸収(エナジードレイン)』『◆◆◆(千年樹)の加護・再生(リジェネ)』『源泉との直結(リンク)



名前:イズミンスライム

年齢:◆

種族:粘性種・水系(アクアスライム)(モンスター)

職業:イズミンの眷属

レベル:◆◆

スキル:『水魔法』『身体強化』『泳術』『水中移動能力向上』『まとわりつき』『形状変化』『水玉の盾化』『水玉の鎧化』『衝撃無効』『火魔法流し』




 これって……。

 水中特化のドリアードが今回のボスか?

 職業に『シークレットボス』って項目もあるし。

 そのドリアードにまとわりついている複数の存在がスライムのようだ。


 このスライムが、ドリアードの眷属……?

 いや、たぶん、ウルルちゃんの『憑依』による補正で、かなり『鑑定眼』の精度があがっていて、そのおかげでスキルもほとんど読み取れるんだけど――――。


「これ、かなり強くね?」

『そうですよ、セージュ。普通は『侵入者』の前に姿を現さない系統の守護者ですから。イズミンたちはその名の通り、ベニマルたちと同じく名前持ち(ネームド)です』


 俺のつぶやきに対して、クリシュナさんから『心話』が返ってきた。


『イズミンが現れたのも、わたしがそれを促したからです。そうでなければ、この泉と同化したままで、お役目を続けています。『迷いの森』の資格判定は本来イズミンの役割ではありません』


 なるほど。

 つまり、今回の『試練系』のクエストって、クリシュナさん発の特殊なタイプのクエストってことでいいようだ。

 普通は俺たち侵入者の前に姿を現すタイプのボスではない、って。


『そもそも、イズミンが戦闘状態に入れば、泉でのお役目が滞ってしまいますから。緊急時でもなければ、その手を煩わせたくはありません。ですが、今はあまり時間がありませんので』


 さあ、頑張ってください、と言わんばかりのクリシュナさん。

 何だかよくわからないけど、やるしかないようだ。

 やむなく、俺たちもこのドリアード(イズミン)さんに向き合おうとしたのだけれども、横にいるリディアさんから声がかかった。


「セージュ、周辺も警戒」

「えっ!?」

「敵は、それだけじゃない」


 少し離れた場所、とリディアさんが複数の方向を指さした。

 まだ俺の『鑑定眼』では認識できないけど、そのうちの一方からもの凄い轟音が響いて、直後に大きめな樹が倒れていくのが見えた。


 ――――つまり。


「もしかして、この『泉』エリアの区画内に複数のボスモンスターがいるってことですか?」

「ん、そうなる」

「ねえねえ、おねえさん思うんだけど、もうちょっと、これ、手を分けた方がいいんじゃないかな?」

「シプトンさん?」


 今の状況への対応に苦慮していると、横からシプトンさんが口を挟んできた。


「戦力を分散した方がいい、ってことですか?」

「うん、何となく(・・・・)だけどね。おねえさんはそう(・・)思った(・・・)よ? 信じるか信じないかは少年次第だけど」


 そう、シプトンさんが微笑んで。


「ま、おねえさんも今は『試される側』みたいだしねえ。だったら、変なことを言ってかく乱とかしないってば。きちんと認められる程度にはお仕事するよ♪」

「セージュ君、シプトンさんの言うことは信じていいと思う」

「エコさんも同じ意見ということですか?」

「うん、君たちゲーマーにもわかるように言うならば、この人、正しい攻略法が()える人、らしいから。もちろん、本人が本気になっていなければ、平然と嘘も混ぜるみたいだけど」

「……はい?」


 だから今の状況なら信じてもいいと思う、というエコさんの言葉に。

 逆に意味がわからなくなったぞ?

 いや、そもそも、正しい攻略法って何だよ?

 エコさんの物言いだと、シプトンさんがまるで運営側の人間っぽく聞こえるぞ?


「そうじゃなくて、『予知』。未来予知で何となくわかる、って能力の持ち主なんだって。正直私も半信半疑だけど、何度か実例を見せられた以上は、そういうスキル(能力)もあると認識を改めざるを得なかったわ」

「うんうん、うさんくさい能力だもんねー、おねえさんって。だから、信じるも信じないも君次第だよー?」


 ふうん?

 まあ、胡散臭いかどうかは別にして、ラルさんの能力とかも常軌を逸しているしな。

 そういう意味では、スキルとして『予知』能力があってもおかしくはないか。


「それなら――――」

「うん、水中戦が可能な子がここに残るべきだねえ。少年とか。あ、おねえさんは無理だからねー。あっちの方を担当することにするよ」


 俺が何かを提案する前に、シプトンさんから助言が飛ぶ。


「水中戦ですか?」

「うん、だって、あの子、ほら、さっきからずっと様子見てるでしょ? たぶん、泉から出てくる気ゼロだねえ。それに、そもそも、このクエストがどういう目的かを考えれば、泉に潜らざるを得ないってのは気付きそうなものじゃない?」


 なるほど。

 そういえば、『草冠を奪取する』んだものな。

 しかし、何で俺が水中戦担当なんだ?


『それは、セージュにはウルルがついてるからじゃないのー?』


 すぐさま、ウルルちゃんから突っ込みが入る。

 そっかそっか。

 確かに今の俺って、おおっぴらには言えないけど、ウンディーネの加護ぞある! って感じだものな。

 そのことにあっさりシプトンさんが気付いているのはさておき、悪い判断じゃないか。


「ん、『水中呼吸』がないと辛い」

「きゅい――――!」

「ぽよっ!」

「セージュ、なっちゃんたちは飛べなくなるから無理みたいだよ?」

「それじゃあ、おねえさんは虫ちゃんたちについていこうかなー」

「リディアさんは?」

「ん、セージュの護衛だから、ここに残る」


 なるほど。

 そういうことなら、ルーガの方はクリシュナさんについて行ってもらって。

 みかんとビーナスは一緒で。

 エコさんはこっちの判断に任せてくれるって言ってるし。


 よし、何とかそれっぽく分担が決まったな。


「それじゃあ、各々で『草冠』の入手を目指す方針で行動。これでいいかな?」

「いいけど、マスター、その『草冠』ってどういうものなのよ?」

「わからないけど、探すしかないよな」


 クリシュナさんの方も見ても、そっちの情報に関してはだんまりだもんな。

 まあ、いいか。

 行き当たりばったりでも何とかするしかないもんな。


 お互い、それっぽいアイテムも探すということで、俺たちはそれぞれでこのクエストに取り掛かった。

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