第358話 農民、魔女と話す
「クラウドちゃんたちからは聞いたけど、君たち迷い人って……ああ、『プレイヤー』の方のね? 君たちって、ここが虚構の世界だってことには気付いてるんだよね?」
「まあ……そうですね」
あっさりとシプトンさんがそのことに触れてきたことに驚く。
まあ、カミュもそんな感じだったか?
一部のNPCは、ここがゲームの世界だってことを知ってはいるようだな。
と、俺の言葉に頷いたあと、シプトンさんが俺以外のみんなの顔を見回して。
「リディアは当然気付いてるよね? 『本物』だし。たぶん、クリシュナもだよね? ええと、ここだと、『クリシュナ』でいいんだっけ? 護り神としての名だもんね?」
「ん、もちろん」
「――――――」
シプトンさんの問いに、リディアさんとクリシュナさんが頷く。
が、直後にクリシュナさんが『心話』を発動させて。
『やはり、シプトン、あなたも……ですが、その身体は……?』
「うん、このおねえさんの身体は偽物だねえ」
「えっ!? 偽物!?」
どういうことだ?
というか、リディアさんが『本物』ってのは……?
「おっ? セージュちゃんも知らなかったのかな? ふむふむ……まあ、ちょっと待ってねー。とりあえず、おねえさんの気になることを先に確認させてね。そっち、『木』の精……あ、まずいの? ごめんごめん、えーと、確か、ルルラルージュの当代だよね?」
「フローラです」
あまり余計なことは言わないでください、と言わんばかりのフローラさんの鋭い視線に、シプトンさんが素直に頭を下げる。
「ごめんねー、おねえさん、この手の機微に疎くって。フローラはここが虚構だってことには気付いていた?」
「いいえ。ですが、言われると合点がいく部分もありますね……………………」
「ふんふん、違和感は感じてたってとこかな? ルーガちゃんとビーナスちゃんとなっちゃんちゃんとみかんちゃんは?」
「え? よくわからないよ?」
「ルーガの言う通りよ。何よ、それ、偽物って」
「きゅい――――?」
「ぽよっ!」
どこか納得したようなフローラさん以外は、全員、きょとんとしているというか、どこか胡散臭い感じでシプトンさんのことを見ているな。
まあ、この人の性格にも問題があると思うんだけど。
――――と、逆に、クリシュナさんがシプトンさんへと問う。
『シプトン、貴方は偽体のままでどうやって気付きました?』
「え? いや、だって、おねえさんは魔女だもん。そりゃ、気付くでしょ?」
ふふん、とシプトンさんが胸を張って。
「迷い人だけが特別だって思わないようにね。エヌってば、ある意味、公平ではあるから、気付こうと思えば気付けるように、その手の要素は残してあるの。さすがにねえ……魔女の傍らにひとりも『幻獣種』がいなくて、連絡も一切とれないなんてありえないもの」
「あ、そういえば、ジェムニーも言ってた」
「へえ、リディアも聞いたの?」
「ん、『幻獣種』は協力しない、って」
「うん、なのに、『幻獣島』はあるでしょ? そういう意味じゃ、甘いよねー、ここ。ヒントの出し方がびみょー。たぶん、サニュエルのおじいちゃんならダメ出しだよ? まあ、そういうのも含めて、わかっててやってるのかも知れないけどね」
『……あり得そうですね』
口調は柔らかいですが性格は悪いですから、とクリシュナさんが嘆息する。
うん?
たぶん、エヌさんのことを話しているんだろうけど。
何で、俺がどこか頷ける話だと思ってるんだ?
あれ?
俺、どこかでエヌさんと会って……ないよな?
ただ、気になる話ではあった。
つまり、シプトンさんはこの『PUO』の世界の住人でありながら、ここが虚構の世界だってことに気付けたってことか?
「うん、そうだよ。おねえさん、このおねえさんが偽物だって気付いたんだよ、セージュちゃん♪」
にへら、と笑み崩れながら、シプトンさんが続ける。
「まあね、魔女って、一応は人間種だけど、どっちかって言えば、『人型の幻獣』に近いからねえ。さもなけりゃ、『空間系』の魔法なんて使いこなせないし。アラディアのおばばさまは別格だけど、おねえさんレベルでも色々とできるんだよ?」
だからまあ、色々とやってるってわけ、とシプトンさん。
「アリエッタちゃんに協力してるのも、そのひとつだねえ」
「えっ!? やっぱり、そうだったんですか!?」
さらりと爆弾発言が大好きだな、シプトンさんって。
この手の話は隠さなくてもいい内容ってことなのか。
俺がそんな感じで驚いていると、目があったクラウドさんも頷いて。
「一応、そういうことらしいよ、セージュ君。俺もアリエッタさんから直接聞いていたことだし」
「いや、そもそも、クラウドさん、アリエッタさんと面識があったんですか?」
むしろ、そっちがびっくりだよ。
一体、いつから?
ただ、クラウドさんに言わせると『秘密系』のクエストがらみでもあったらしく、それで『けいじばん』などでも触れられなかったのだそうだ。
昨日のコッコさんのクエストの時はもう知っていたようだな。
にもかかわらず、何食わぬ顔で知らない風を装っていたあたり、大したもんだよ。
「ああ。ちなみに、こちらのエコさんがアリエッタさんと一緒に行動していた人だよ。だから、俺たちと接点を持とうとしなかったらしいね」
「そういうことです。『けいじばん』は確認してましたが」
なるほど。
要は『秘密系』がらみだったから、仕方なくソロで動いていたタイプってわけか。
もしかすると、俺たちが知らない、その手の迷い人さんって、結構多いのかも知れないな。
ユウやラウラも愚痴ってたけど、『けいじばん』って、禁止事項については、問答無用で吹き込みが削除されちゃうしなあ。
それにしても、鳥モンさんの目撃情報でもアリエッタさんの同行者の存在については、触れられていたけど、こんなにあっさりと出会えるとは思わなかったよ。
もう、『秘密系』は解除されたってことでいいのかな?
「そうだね。シプトンさん自身が『秘密系』に触れることだったようだし、彼女が来てくれた以上は、この場に関してはそう考えていいと思うよ?」
「あれ? ということは、未だに『けいじばん』などでは……?」
「やめておいた方が無難だろうね」
おおぅ。
また、秘密にしないといけないことが増えちゃったよ。
というか、俺に『憑依』しているウルルちゃんも話に加わりたいのを、もぞもぞと我慢してるみたいだし。
その辺は、フローラさんからの抑えもあるんだろうな。
――――と。
待てよ?
「ちょっと待ってください? ということは、アリエッタさんって、もしかしてわかっていてラルさんたちから姿をくらましているってことですか?」
「だろうね」
『それについては、お嬢様たちも疑っていましたよ。理由までは気付いていないようでしたが』
「クリシュナさんは知っていたんですか?」
『さて……』
うわ、実はこの狼さん、結構たぬきな気がしてきた。
というか、本当に、ラルさんの部下?
何となく、能力も含めて、違うような気がするんだけど……?
さておき。
「だからこそ、合流して話をしたい、ってことだったんだよ、セージュ君」
「なるほど。そういうことでしたか」
俺の言葉にクラウドさんも頷いて。
「ああ。今はセージュ君たちはクエスト中なんだろう? それがひと段落したら、俺たちと一緒にアリエッタさんのところまで行かないかい?」




