表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第2章 テスター交流スタート
38/494

第35話 農民、自室で振り返る

 食事を終えて、また俺は元の個室へと戻って来た。

 俺たちに用意されたのは、『PUO』のプレイルームが一部屋、寝室、トイレ、風呂、そして台所設備まで完備されたくつろぐための部屋、以上がワンセットになった個室だ。

 だから、個室って言っても、複数の部屋があるのだ。

 さすがは、高級老人ホーム。


 シングルって意味なら、ホテルとかでも、これだけの設備だとかなりお高い値段設定になるだろうけど、それをテスターひとりひとりに与えてくれるんだから、すごいよな。

 というか、これで元が取れるのかね?

 単なる一アルバイトとしても、逆に不安になってくるんだが。


 もっとも、そのことを一色さんに尋ねたところ、俺が使う個室でも、この『施設』の中でもかなり狭い方なのだとか。

 やっぱり、お金ってあるところにはあるんだな。


 掃除とか洗濯は、専門のスタッフが入るので、こっちでやることはほとんどないし、本当に至れり尽くせりって感じだよ。

 念のため、貴重品に関しては、ゲームをする際にも持ち込んでおくようには言われたけどな。

 まず、そういうことはあり得ないけど、万が一、物がなくなった場合は責任は取りませんって話だし。


 とりあえず、ここから一か月はゲームをするか、テスターとしての報告をするか、あるいは、それ以外の時間を『施設』の中で過ごす感じになるらしい。

 報告業務については、一色さんに確認したところ、職員に直接伝えるか、他のテスターにも内容が把握できるように、『けいじばん』の専用スレッドに吹き込むか、どちらかで構わないと言われた。

 職員が音声で報告を受け取るので、書面にして、わざわざ報告書を作る必要はないのだそうだ。


 とりあえず、今日の分でも、気が付いたところや疑問に思ったことについては、一色さんに報告を済ませておいた。

 と言っても、疑問に思った部分を問う内容だったり、ちょっとした、ここをこうした方が良いんじゃないか? ってことをあげたりしたぐらいだったけどな。


 それぞれのテスターで条件が違いすぎる部分とか、スタートの段階で差別化を図りすぎると、プレイヤーの一部から不満があがるんじゃないかって話とか、だな。

 長時間プレイしたものが、それなりに優位になるのはわからないでもないけど、最初の時点で、運みたいなもので、格差ができたりすると、VRMMOとしてはちょっとまずいんじゃないかって話だ。


 もっとも、その手のバランスを取るのって、かなり難しいのも事実なんだよな。

 初期から参加しているプレイヤーと、後から参加したプレイヤーだと、どうしても、差のような部分が生じてしまうし、そもそも、プレイヤースキルの差で、上手い下手っていうのは現れてしまうから。

 今の俺と、十兵衛さんとの戦闘能力の差とかな。

 でも、その辺を均してしまうと、逆に、頑張ってるプレイヤーのやる気を削ぐことになるからなあ。

 まあ、難しいとは思うけど、『PUO』を試作できるメーカーだし、その辺にも対応してくれるかも知れないということで、報告としてあげてみた。


 後は、ゲーム内での食べ物の問題だ。

 もうちょっと美味しい素材を増やしてほしいのだ。

 さっき、ラウラから聞いた話だと、アーガスシティの方だと、高価だけども、ハチミツなんかも流通しているって話だし、オレストの町でも、もうちょっと食べ物の幅が広がると良いと思うんだよな。

 それが無理なら、少しだけでも空腹値のマイナスを軽減してもらうか。


 一応、そんな感じで報告をあげたけど、一色さんは、この『施設』の職員に過ぎないらしいので、笑顔で報告を受け取ってくれるだけにとどまった。

 まあ、当たり前の話だが、ゲームに関する細かい情報とかは聞いてないんだろう。

 ここの入居者のついでで、俺たちのお世話係みたいになってるみたいだし。


 それで、報告業務は終了となった。

 

 あ、そうそう。

 さっき、十兵衛さんたちとの別れ際に、十兵衛さんから忠告を受けたんだよな。


『おい、セージュの坊主。あんまり、食っちゃ寝食っちゃ寝で、ゲームばっかりしてるんじゃねえぞ。空き時間で身体も動かしとかねえと、どんどん鈍っていくからな』


 何でも、十兵衛さんの話だと、この『施設』の中には、ジムなんかの運動のための設備も整っているのだそうだ。

 さすがに、バリバリと毎日活用している人は、ここの入居者の中でも一部らしいけど、寝てばかりだと、身体が衰えていくので、それらの設備を活用する人ってそれなりに多いらしい。

 カオルさんとかも、プールで歩いたりとかするそうだ。

 水の中なら、身体への負担を少なめで、筋肉に負荷をかけることができるのだとか。

 やっぱり、廃用症候群は恐い、と。


 うん、俺も普段は学校と、農作業の手伝いの日々だったしな。

 たぶん、一か月だらだら過ごしたら、うちに帰った時には役立たずになっていて、両親からどやされる結果になるだろう。


 やはり、空いた時間はしっかりと身体を鍛えるのに使うか。

 一応、武道場というか、そういう設備もあるらしく、何だったら、十兵衛さんも稽古を見てくれるって言ってくれたので、ありがたくお願いしておいた。

 残念ながら、こっちの十兵衛さんの身体は、自由に動かせないみたいで、組み手みたいなことは難しいみたいだけど。


『脳をやっちまってな。利き手側に麻痺が残っちまったんだよ』


 そういうわけで、開いていた道場もやめてしまったのだとか。

 で、色々と諦めていたところに、今回の『PUO』のテスターの話があって、試しにやってみて、『これだ!』と確信したんだそうだ。

 向こうの身体なら、五体満足に自在に動かせるから、と。

 おまけに、強いやつも強いモンスターもごろごろしてるから、十兵衛さん的には言うことなしってことらしい。


 まあ、一色さんも最初の説明で、それらしいことを言ってたしな。

 VRの医療への応用の試作として、リハビリ目的があるのだそうだ。

 VRMMO内で、身体を動かすことによって、麻痺側の神経を通じさせることができないか? そういう試みなのだとか。

 もちろん、成功するとも限らないけど、ゲームの中でなら、元気だった頃の自分を取り戻すことができるということで、それ自体が、本人の生きる活力へと繋がったりするらしく、その点でも、介護医療の現場では注目されている、とのこと。


 SZ社とこの『施設』を運営する会社が提携しているのも、その辺に価値を見出しているからなのだろう。

 一色さんも、この部屋から出ていく前に興味深いことを言っていたし。


『当施設で暮らすご入居者様の中でも、こちらの技術に期待する方々は多いのです。例えば、運用に、ひとりあたり数千万円かかるとしましょう』


『数千万円で、新しい人生を買えるとしたら……イツキ様はそれが高いと思いますか?』


『少なくとも、不老不死などよりも、余程、現実的です』


 そうつぶやく一色さんの言葉には、熱というか、実感がこもっていた。

 医療の限界の無力さを埋めてくれるものとして、新しい技術を望む。

 そのこと自体が悪いことなのだろうか、と。

 そんな感じで。


 その言葉の響きから、何となくわかったことがある。

 最初から、この『PUO』というのは、そういう人たちをターゲットにして作られているものなのだ、と。

 金で人生を買うって言うと、途端に薄汚く聞こえるかも知れないけど、逆に言えば、現状の自分に絶望していて、かつ大金を持っている人たちをスポンサーとして、このゲームは開発されているのだろう。


 技術が生み出されなければ、それで助かる人も生まれず。

 

 システムが完成して、参加者が増えることで、結果として、それほど遠くない将来、この技術が安価で提供されるように。


「だから……現時点では、情報をほとんど洩らせないってことか」


 一体、どのくらいの業界が、このゲームに関わっているのだろうか。

 ネット上にすら、ほとんど情報が流出していない、その理由。

 それが、何となくわかるような気がした。


 とはいえ、だ。

 それがわかったからと言って、別に俺が態度を変えるつもりもないけどな。


 むしろ、SZ社に対して、よりいっそう興味を持ったというか。

 ゲームを通じて、社会貢献まで考えている会社なんて、やっぱりすごいよな。就職を目指す俺としては、申し分のない感じだし。


「まずは、テスターとして、ゲームを堪能しないとな」


 そして、そのためには準備が必要だ。

 俺は、明日のプレイに備えて、今日の『けいじばん』の内容を確認するのだった。

 この『PUO』をより良いゲームにするために、テスターとして、頑張る、と。

『PUO』の開発資金などがどこから出ているか、のお話の一部です。

ゲーム内のお話とは関係があまりないので、ややシリアスはここまでですね。


次は掲示板回を挟んで、二日目突入です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ