表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第8章 家を建てよう編
366/494

第342話 対月狼戦、再開

『セージュ、大丈夫?』


 ああ、ここからが本番だ。

 そう、内側から話しかけてきたアルルちゃんに頷きつつ、痛みをこらえながら左肩の傷に薬油(ポーション)をかける。

 その間も、『幽幻の鎌』は構えたままで、クリシュナさんの身体から目を離さない。

 一挙手一投足どころではない。

 静止姿勢のままのクリシュナさんの周囲。

 わずかに動きを見せる色付きのもやの変化に対して、意識を集中させる。


 そのためには、わずかな痛みも邪魔だ。

 痛みは、俺にとって集中を欠く要素のひとつだ。

 もちろん、人によっては痛みに意識を合わせることで、逆に集中力を高めることができるのかも知れないけど、そういうのって、普段から痛みに慣れていて、免疫のある人の話だろう。


 このゲームの中では、今の傷はかすり傷に過ぎないのかも知れない。

 もう既に、薬油(ポーション)をかけてから数秒で、早くも痛みが引き始めて、肩の傷がふさがってきているのがわかる。

 だが、今の俺の場合、あまり負傷したままでいられない理由もあるのだ。


 『憑依』をしてくれているアルルちゃん。

 要するに、今の俺は彼女と同化している状態にある。

 この場合、身体に関するダメージについては共有されてしまうのだ。

 いや、それだけなら仕方ないが、フローラさんによると、一定以上のダメージが共有されると『憑依』が強制的に解除されてしまうのだ、と。


 それだけは避ける必要があった。


 何せ、もう既に戦闘が始まっている以上は、再度の『憑依』はできない。

 現時点でも、我ながらグレーゾーンなことをやっている自覚はあるけど、さすがに戦闘中での『憑依』は一対一のルールでは、アウトになってしまうだろう。

 もちろん、当然のことながら、痛みがアルルちゃんの方にも行ってしまうのを防ぐ、というのも理由ではある。


 昨日の大盤振る舞いのせいで、所持している薬油(ポーション)はそれほど多くはないが、出し惜しんでいる余裕はないのだ。


 ――――なので!


「――――『石礫(ストーンバレット)』!」


 クリシュナさんが次の行動に移る前に、こちらから動く。

 距離を少しだけ詰めるのと同時に、牽制を行なう。


「――――――っ!」

「っ!? やっぱりっ!?」


 俺が魔法で放った無数の石の礫が、ことごとく、クリシュナさんの前の空間で弾かれた。

 魔法の『反射』だな!?


 まっすぐ向かっていった礫が、そのままの勢いで戻ってきたので、慌てて回避する。

 予想はしていたが、やはりクリシュナさんに魔法の飛び道具は通用しないようだ。


 もっとも、ここまでは想定内。

 今、大事なのは『精霊眼』による、周囲の『小精霊』の動きのチェックだ。

 クリシュナさんが『反射』を使った時の状況の変化。

 それはしっかりと見て取れた。


 『反射』というから、どういう風な現象が起こっているのか、この目で見るまでは不思議だったんだよな。

 火の玉とか、そういうのはそのまま魔法が反射されてしまうと思ったけど、『土魔法』の『石礫(ストーンバレット)』の場合、無数の礫が飛び散っていくような軌道を見せるのだ。

 なので、それがひとまとまりで、ひとつの魔法として返されるのか、それともバリアのような壁があって、そこに触れた魔法(もの)が弾かれるのか、いくつかの可能性は考えていたのだけど。


 この場合、ひとつひとつの礫に向かって、クリシュナさんの周囲の光が飛びかかって行って、それぞれに作用しているような感じになったのだ。

 つぶての大きさに対応した、大小さまざまな光の球が纏わりついて。

 それらが接触した瞬間に『反射』が為されている、というか。

 だからこそ、クリシュナさんの身体から大分離れた空間で『反射』が生じているようだ。


 クリシュナさんの身体の表面を覆っている白い光は、ほぼ影響を与えていない?

 たぶん、そっちは魔法障壁ってやつか、俺たちも使っている『身体強化』か、そのいずれかだろう。


「もう一度っ! 『石礫(ストーンバレット)』!」


 まだクリシュナさんが様子見のようなので、もうひとつ実験を重ねる。

 『鎧』の時にやったように、横に移動し続けた状態で礫を放ってみる。


「――――!」


 すると、先程と同様の現象が起こって、礫が返された。

 ただし、礫が返った場所には俺の身体はない。

 なるほど。

 どうやら、『反射』は飛んできた魔法の方向を逆のベクトルに返す能力のようだ。


 だったら!


 移動砲台として、攻撃を仕掛けるのが効果的だなっ!


 そう、俺が思った瞬間だった。


「――――やべっ!?」

「――――――っ!」


 クリシュナさんの前方、俺に向かう方向の前にいた『小精霊』の群れが動きを見せて、クリシュナさんの身体に纏わりつくのが見えて――――。


 連鎖するように今俺が立っている場所まで、一本の道筋が現れたのを確認。

 光の範囲から逃れるように回避――――って、ちょっと待てっ!?


 俺が回避行動を取るのと同時に光の道筋がぶれるのを確認。

 慌てて、その場に伏せるのと同時に魔法を展開。


「『アースバインド』っ!?」

「――――――!?」


 ――――あっぶなっ!?

 1メートルほど掘った穴に俺が潜るのとほぼ同時のタイミングで、クリシュナさんの巨体が通過していくのがわかった。


 うわあ、やっぱ、洒落にならんわ。

 こっちは、移動動線が一瞬先に予測できるなら、攻撃を回避できるだろう、ぐらいに思っていたけど、よくよく考えると、これって『鎧』の時の礫とは全然違うんだもんな。

 あの時は、無機物の石が飛んでくるから、一度飛ばした礫の軌道は変化したりしなかったけど、今回向かってくるのはクリシュナさんそのものだ。

 要は、俺が避けようとすれば、途中でそれに気付いて、その動きに対応してくるってわけで。


 いや、やっぱり、これ厳しいって!


 元々無茶だ無茶だとは言われてたけど、こんな相手、どうやって勝てばいいんだよ!?

 何となく、紙装甲でレイドボスと戦ってる感じになってきたぞ?

 動きは速いわ、一撃食らえば負けだわ、おまけに頭も良さそうだし。


 穴の中だとジリ貧なので、すぐに俺も地上に飛び出て、そのまま『鎌』を全方位に向けて振り回す。


「――――――っ!」


 やっぱりな。

 クリシュナさん、この『鎌』にはそれなりに警戒しているようで、俺の周囲が闇のもやに包まれたことで、連続での攻撃は控えてくれたようだ。

 正直、俺も、この残響効果がどういうものなのかは謎だが、少なくとも牽制にはなってくれるはずだ。


 そのまま、ビーナスの『苔』を口にする俺。

 隙を見せれば、すぐに攻撃が来る以上は、もうちまちまと魔法を試している場合じゃないしな。

 対応を誤れば、即ゲームセットだ。

 やれることはやるしかない。


 この『鎌』も、だ。

 せっかく、リディアさんに頼み込んで、前の『採掘所』の時と同じ感じで『付与』をしてもらったけど、正直、あのクリシュナさんの動きじゃ、当たる気がしないし。

 動きを止める、封じる。

 やるべきことはその辺か。

 逆に、当てれさえすれば、多少のダメージは与えられるはずだ。

 何せ、リディアさんのお墨付きだし。


『ん、思った以上に、この鎌硬かった。これなら強めにできる』


 前の『初心者』シリーズの武器に『付与』してくれた時よりも大分威力があがっているとのこと。

 これならば、クリシュナさんの装甲でも貫ける――――かも、って。


 もっとも、当てられなければ、意味がないけどな。

 これだけ準備しても、まだ足りない相手。

 そう、改めて痛感しつつ。

 俺は、次の行動へと移った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ