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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第2章 テスター交流スタート
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第33話 農民、施設の食堂で驚く

「では、こちらのお席でお待ちください」

「は……はい!」


 一色さんに案内された場所は、まるで高級ホテルのレストランのような場所だった。


 俺が今いる場所って、ビルの高層階だよな?

 にも関わらず、天井がとても高く作られた、その食事のためのフロアは、調度といい、空間そのものの風格といい、いかにもな高級感を醸し出していた。

 どこからともなくゆったりとした音楽が流れてくると思っていたら、フロアの奥側にはまるで劇場のようなスペースまであって、そこで生演奏を披露している黒服の集団までいるし。

 たぶん、食事を取りながら、そういう娯楽も楽しめるように作られているのだろう。


 すごいな、この老人ホーム。

 歩きながら、一色さんに聞いた話だと、この広々とした、レストランとも、オペラの劇場とも感じられるようなフロアも、あくまで食事を取るための施設のひとつに過ぎないのだそうだ。

 別の階には、職人さんが常駐しているお寿司屋さんや、和洋中それぞれのシェフが開いているお店もあって、この『施設』の入居者は、どこでも好きな場所で食事を取ることができるのだとか。

 もちろん、出歩くのが大変な人たちのために、ルームサービスなども充実していて、できたての料理を部屋まで運んでくれるサービスもあるらしいので、このレストランで食事を取っている人たちは、元気な人たちが多いのだろう。


 ちなみに、今、俺がいる場所は、日替わりで有名店の料理人がやってきて、各々が得意とするジャンルの料理を振舞ってくれるところなのだそうだ。

 俺のような『PUO』のテスターは、ここで食事をするように頼まれた。

 やっぱり、この『施設』に入っている人は、当人が有名人か、その家族が名前を聞けば誰でも知っている人が多いので、曲がりなりにも、外部の人間が同席したりするとまずいことになったりもするらしいし。

 このフロアまで出て来て、食事をするような入居者は、そこまで素性を知られることを嫌う人たちではないので、ここなら大丈夫ってことらしいけど。


『ご入居者様の中にも、テスターとして参加されている方もいらっしゃいますので、こちらを、交流を深める機会とお考えになられてもよろしいかと』


 一色さんも、そんなことを言っていた。

 詳しい内情は不明だが、『PUO』のテスターにはそれ相応の高齢者の方も参加していると見て良さそうだ。

 もしかすると、長命種、か?

 エルフとか、そっちの種族の人は『施設』関係の人って可能性も高いだろうし。


 というか、俺の服装って、場違いじゃないか?

 いかにも、その辺の町を歩いている若者って感じの服装だし、この手の高級レストラン風の場所だと、ドレスコードとかがあるんじゃないのかね?

 まあ、周りで食事をしているお年寄りの人とか、さすがに寝間着の人とかはいないけど、小奇麗ながらも普段使いしているような服装の人も多いから、心配し過ぎなのかもしれないけどさ。

 その辺は、さすがに日常の食事の場ではあるらしい。


 でも、お客の何人かはクラシックのスーツという感じで、ビシッと決めている人もいるし、そもそも、料理を運んだりしている給仕のスタッフの服装も、高そうなホテルとかで見かけるような服を着ているし。


 やっぱり、何となく落ち着かないよな。


「おい、兄ちゃん。その若さってことはあれだろ? おめえも例のゲームをやってるって口だろ? ちょっと俺たちも相席いいか?」

「あ、はい、どうぞ」


 俺が場違い感でおどおどしていると、横から声をかけられた。

 見ると、杖をついて歩いている着物を着た白髪のお爺さんと、もうひとり、同じく、和装を着たお婆さんが笑っていた。

 声をかけてきたのはお爺さんの方だろうな。

 どうやら、片方の手の動きがあまり良くないようで、一緒にいるお婆さんの方が、座るための椅子を引く手伝いのようなことをしている。


 一方のお婆さんの方はと言えば、どこか気品のようなものを感じさせる人だった。

 やっぱり、こんな『施設』に入れるってことは、それなりに良い育ちの人なんだろうな。

 俺の婆ちゃんとは大分タイプが違う感じがするし。


「お二人も、『PUO』のテスターをされているんですか?」

「ああ、そうだぜ。はは、俺みてえな爺がやってるって聞いて驚いたろ?」

「私も、この年で初めて、ゲームをさせて頂きましたが……すごいですね。まるで、別の世界で生きているような感覚でした。技術の進歩というものには驚かされます」

「はは! カオルさんも、俺も、今まではゲームなんざ、からっきしだったからなあ。あ、そうそう、名乗るのが遅れたな。俺は新富しんとみ十兵衛じゅうべえってもんだ」

「えっ!? 十兵衛さん!?」


 あれ?

 何だか、聞き覚えのある名前が出てきたぞ?

 そう言われると、見た目こそエルフの少年と、目の前のお爺さんじゃあ、似ても似つかないけど、その口調とか、雰囲気は何となく近いものを感じないでもない。


「もしかして、エルフの十兵衛さんですか? カミュと斬り合ってた」

「何ぃ!? おめえ、あの時の坊主か!? ああ、そういや、北海道の片田舎とか言ってたっけな。成程成程、よくよく考えりゃあ、ここにいてもおかしくはねえよな。はは! おめえの姿がゲームの時と少し違うからよ。全然気づかなかったぜ?」


 そう言って、呵々と笑う十兵衛さん。

 偶然、声をかけた男が、顔見知りだったせいか、何だかすごく嬉しそうだ。

 というか、俺もそうなんだけど。

 いや、こっちでも十兵衛さんに会えるとは思わなかったしな。


「あら……もしかして、お二人はお知り合いですか?」

「ああ、カオルさん。ああ、そうそう、セージュの坊主、こっちがカオルさんだ。俺も、ここで知り合ったんだが、何でも、裁縫の先生だったんだと」

橋本はしもとかおるです。どうぞよろしくお願いしますね」

「あ、こちらこそ、よろしくお願いします。俺はセージュです……あ、違う、こっちだと、いつきですね、樹青林って言います」

「あら、イツキさん、ですか? もしかして、『樹農園』の?」

「はい、うちの実家ですね」

「そうだったんですね。ふふ、『樹農園』さんのお野菜でしたら、私も頂いたことがありますよ。とても美味しかったのを覚えていますから」

「あ、ありがとうございます。うちの家族も喜びますよ」


 おっ? ちょっと意外な話になったな。

 どうやら、こっちの橋本さん……カオルさんは、うちのことを知ってたみたいだ。

 まあ、一部の人たちからは有名みたいだしな。

 

 さておき、カオルさんのことも教えてもらった。

 とある企業でお針子というか、仕立て職人のようなお仕事をしていたのだそうだ。

 もう、引退をして、余生をゆっくりと過ごしていたら、ひょんなことから声がかかって、それで『PUO』のテスターをすることになったのだとか。


「十兵衛さんは、早々に戻ってこられたそうですが、私は町の中の仕立て屋さんで、時間までお仕事のお手伝いをしていました。やはり、ゲームの中の方が、今の自分の身体よりも、自由に動かせて楽しいですね」

「はは、俺はカミュの嬢ちゃんにやられちまったからな。こっちに戻って来てから、直で警告文みたいなのが、メールか? それで届いたぜ? 『次からは気を付けろよー』ってな。はは、あの嬢ちゃんも懐がでけぇよな」


 また鍛え直して、手合せしてえなあ、と十兵衛さんが笑う。

 いや、全然懲りてないな、この人。

 とりあえず、当面の目標は、カミュから一本取ることに決めたのだそうだ。

 さっきみたいな強引な手はもう使わないで、きちんと正面からってつもりらしいけど。


「あのぅ……わたしも、お席に混ぜてもらってもいいかな? 『PUO』のテスターさん、たちだよね?」


 十兵衛さんやカオルさんと話をしていると、また、横から声がかけられた。

 今度は、俺と同世代くらいの女の子だな。

 どうやら、個室から職員の人に案内されて、ここまでやってきたばかりらしくて、ちょうど、俺たちが『PUO』の話で盛り上がっていたから、ここまでやってきたのだとか。


「ああ、構わねえよ。嬢ちゃんは名前は何て言うんだ?」

「ゲームでの? リアルでの? こっちの名前はラウラだよ。錦戸にしきどラウラって言うの。あと、ごめんね? まだ言葉が完全じゃないから、敬語とかうまく使えなくって」


 失礼があったらごめん、とラウラが続ける。

 何でも、彼女、ハーフで帰国子女なのだそうだ。

 一応、俺と同じく高校生で、テスターに参加しているらしい。

 言われてみると、髪の毛もブラウンっぽいし、顔立ちがどこかハーフって感じだよな。

 言葉遣いに関しては本人も気にしているらしく、これは別に意図してキャラ作りをしているってわけでもないそうだ。

 まあ、何だかんだ言って、日本語って難しいからな。

 俺自身も、きちんとした敬語が話せてるかって言われると自信ないし。


 ともあれ、十兵衛さんとカオルさん、それにラウラも交えた四人で、料理が来るまでの間、俺たちはゲームの話などをして盛り上がるのだった。

こっちの十兵衛さんは年齢相応です。

ちなみに、カオルさんとは顔なじみというだけで、夫婦ではないです。

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