第332話 農民、方針を考える
「さて、俺たちはどこで素材を集めようか?」
「どこでもいいわよ? その辺はマスターにお任せね」
「うん、セージュが思いついたところでいいんじゃない?」
「きゅい――――♪」
とりあえず、このクエストについて、他のテスターさんとの打ち合わせもひと段落したので、それぞれのパーティ単位で素材集めをすることになったのだ。
別行動した方が効率もいいしな。
なので、この場には俺の他に、ルーガやビーナス、なっちゃんといったいつもの面々に、ウルルちゃんたち『精霊の森』のお客さんたちなどが残っている状態だ。あとは、付き添いとして、ベニマルくんも。
他の人たちは、ある程度方針が決まった時点で、さっさと行動に移ってしまったしな。
そういう意味では、みんなやる気十分だよなあ。
テツロウさんは例の『採掘所』狙いで動くって言っていた。
他にもペルーラさんたちから許可を得ることができた迷い人さんも何人かいるらしく、その人たちと一緒に、使えそうな石材の採掘を目指すって。
ヤマゾエさんは、エルフのフィルさんや町長のラルフリーダさんとも近しい間柄だから、そっち経由で木材の入手を目指す、と。
ただ、ヤマゾエさんひとりだと人手が足りないので、リクオウさんやメイアさんたちも一緒に行動するそうだ。
もうすでに、フィルさんにも連絡を入れていて、そのまま合流を目指すのだとか。
他にもヴェルフェンさんとかが水中にもそれっぽい場所があるとか言ってたし。
どうやら、それぞれの迷い人さんたちで、思い当たる場所なんかがあるらしいのだ。
やっぱり、ここ数日、思い思いにこの世界で過ごしているわけで、どのテスターさんも個別で経験したことには意味があるのだろう。
今まではあんまり影響がなかったようなことでも、実は役に立つことが隠されているかもしれないって、みんな張り切ってたしな。
案外、このクエストがきっかけになるかもしれないし。
ちなみに『手順表』によって呼び出されたもぐらさんたちは、どうやら、しばらくは消えたりしないそうだ。
そもそも、この『手順表』自体にも多少は、発動に必要な魔力の蓄積があったらしく、加えて、昨日の『コッコダンシング』のクエストが大成功したおかげで、この土地に過剰に供給された分も残っているそうで、しばらくは発動状態を維持できるのだとか。
そのことは、つるはしを持ったもぐらさんが教えてくれた。
結局のところ、もぐらさんたちってどういう立ち位置の存在なのかは謎だが、少なくとも、このまま『家造り』の作業については続けてくれるようだ。
あくまでも、この場にある土素材でできる範囲だけど、それでも十分だよな。
もぐらさんたちの周りには、コッコさんや他の鳥モンさんたちもいっぱいいて、その作業のフォローをしてくれているし。
さて、問題は俺たちだ。
これまでの経験から、いくつかの選択肢については思いついた。
なので、さっきの話し合いの時に相談してみたんだけど。
『それだったら、セージュたちは他のみんなが行けそうにないところを狙ってもらえないか? たぶん、秘密になってる場所とか、情報を制限されているところとかあるだろ?』
頼むよ、とテツロウさんたちに笑顔で言われてしまったのだ。
テツロウさん自身はまだ『秘密系』には遭遇していないらしく、俺だけじゃなくて、他にもそっち系のクエストを抱えている人たちには、同様にお願いをしていた。
要するに、適材適所って話だ。
自分たちにしか行けそうにない場所。
そういうところを分担することで、重複を避けるわけだけど、そうなってくると『精霊の森』とかそっちの話になってくるんだけど。
うーん。
ビーナスとルーガは俺に任せるって言ってるし。
なっちゃんやみかんは『どこでもついてくっ!』って感じだし。
本当はラルさんがらみの方向で動いて、木材をゲットしようと考えていたんだけど、そっちはヤマゾエさんがフィルさんの弟子だから、お任せできちゃうし。
さて、どうしたものかと考えていると。
「セージュ」
「あ、リディアさん」
俺たちの側まで近づいてきたのは、真っ白なドレス姿のリディアさんだ。
いつも、白い服を着てるけど、昨日とはまたちょっと違う感じのドレスなんだな?
案外、きれい好きなのかもしれない。
まあ、それはそれとして。
「今日はリディアさんだけですか? ファン君たちは一緒じゃないんですか?」
「ん。それで伝言。ファンたち、今日は急用ができたから来れないって」
「あ、そうなんですか?」
「ん、たぶん、セージュ宛でメッセージが届いてるはず」
あ、ホントだ。
今気づいたけど、ちょっと前の時間でファン君からメールが届いてるな。
たぶん、さっきの話し合いの最中だと思うけど。
改めて内容の方を確認してみると、『急なお仕事が入ってしまったのでログインできない』って趣旨のメールだった。加えて、クエストに協力できないことへのお詫びなども吹き込まれていて、ファン君の誠実さが伝わってくるというか。
そういえば、ファン君たちって、俺たちとはちょっと違う契約っぽいもんな。
役者としてのお仕事の方が、このテスターのアルバイトよりも優先ってことらしい。
さすが、子役とは言え芸能人。
いそがしい日々を過ごしているようだ。
普通の小学生だったら、夏休みの真っ最中だもんな。
「まあ、お仕事なら仕方ないですよね」
「ん、おかげで、今日は暇」
護衛がないから、とリディアさん。
……うん?
ちょっと待てよ?
今日はリディアさんが自由時間ってことか?
そこまで考えて、ふと、俺の頭の中で色々な選択肢が浮かんできた。
テツロウさんたちに言われたこと。
このクエストに必要な素材。
昨日のクエストで起こった想定外の出来事。
そして、今、俺が抱えているクエスト一覧。
ふむ。
試してみる価値はあるかも知れないな。
「リディアさん、ちょっといいですか?」
「うん? 何?」
「今日、暇でしたら、護衛をお願いできませんか? 報酬は俺たちが持っている『レランジュの実』で作ったジュースをあるだけ、で」
「…………」
あれ? リディアさん、黙っちゃったぞ?
やっぱり、ダメか?
一応は、ファン君たちの専属の護衛って感じだもんな。
今までの付き合いとか、この町の人たちがリディアさんについて話していることとかから推測して、報酬を食べ物系にすれば交渉できるかな? ぐらいに思っていたんだけど、さすがにちょっと虫が良すぎたか。
俺が何となく諦めていると。
「……ジュースに、実のままのも付けてくれれば」
「えっ!? 良いんですか?」
「ん、あの実は美味しい」
おー、言ってみるもんだな。
実に関しては、ちょうど、ビーナスが生やしたばかりの樹にもなってるから、そっちも付ければいいか。
というか、本当にリディアさんって、食べ物で仕事を受けてくれるんだな?
ともあれ。
これはかなりうれしい。
リディアさんの協力があれば、可能性はゼロではなくなるからだ。
そんなこんなで。
報酬の用意をしつつ、これからやるべきことについて頭の中を整理する俺なのだった。




