第331話 農民、家をどうするか考える
「ふむ、ちなみに『教会タイプ』はどうなのだ?」
「あー、やめた方がいいぞ? てか、そもそも、もうこの町だと支部があるし」
建てたところで、常駐させられる教会関係者がいないから、管理するとなるとアスカとかが管理者になる必要がある、とカミュが首を横に振る。
なるほどな。
『教会タイプ』も建てられなくはないけど、その場合、シスターなり神父さんなりを俺たち迷い人の誰かが担当しないといけないってことか。
今だと、アスカさんがシスター認定されてるけど、他はいないもんな。
さすがに俺たちの勝手な要望に巻き込むわけにはいかないし。
そもそも、アスカさんがシスターになったのって、あちこち旅行ができるようになるため、だもんな。
一か所に拘束する、って選択肢はお仕事的な話でもありえない、って。
「それに『お城』に比べればましだけど、一覧を見た感じだと造るのが難しそうよ? この『教会タイプ』って」
「ガラス系の素材が必須になってるもんな」
「条件が厳しそう……」
「まあな。少しばかり、魔法素材が必要だからなあ。その辺は冒険者ギルドの建物を用意する時とおんなじさ」
へえ? 教会と冒険者ギルドの建物って特殊なのか?
何でも、カミュによると一般的な家屋とはだいぶ異なる造りになっているのだとか。
外から見た感じはそんなに変わらないけどな。
「それじゃあ、ひとまず、どうするかまとめてみるか」
そう言って、テツロウさんがこの場を仕切る。
やっぱり、この手のことって慣れてる人の任せるのが一番だしな。
「その一、せっかくだから、『城』を目指す。この場合、ネックになりそうなのは、その膨大な必要素材の数と、後はさっきも言ってた『核素材』の確保だな」
『そうっすね。ケイゾウさんたちの『儀式』もうまく行ったので、かなり大きめの『陣』を描くことができたっすから』
「そこに普通の『家』を建てるのはもったいないってことだね?」
『そういうことっす』
ベニマルくんが言う通り、ここで『お城』が選択肢にあがってきたのも、ヴェルフェンさんのアイデアだけが原因じゃなくって、昨日の『コッコダンシング』のクエストが予想以上の規模で成功したから、って要因があるらしい。
町中の人が集まってくれたしな。
だからこそ、せっかく出てきた選択肢は無駄にしたくないってのが人情だ。
いや、人情というか、ゲーマー魂というか。
「と言っても、難易度はかなり高く設定されてるみたいだし、無理だと思ったら諦めるのも大事だよなあ。時間がかかりすぎると、コッコさんたちの『家』がほったらかしになるし」
「そうですね。それでしたら、普通にここの土木の職人さんの手が空くのを待った方が早いですしね」
せっかく、アルルちゃんたちに手伝ってもらってるけど。
そう、内心で思いながら、アルルちゃんたちの方を見ると、無言でにっこりと頷かれた。
別に構わない、って感じで。
どうやら、元々、『外』の世界を楽しむのが目的だったらしく、そのついでに手伝ってくれているので、アルルちゃんやフローラさんたちにとっては、どっちに転んでもあんまり問題ないらしい。
もうすでに、サティ婆さんと接触できたことで、そっちの目的も果たしているしな。
あくまでも、『手順表』の発動はついで、と。
「その二。ワンランク下げて『砦』を目指す。まあ、これはこれでありだと思うぜ?」
「うむ、おそらく、『城』を作るのに比べて、素材の必要量が大分少なくなるはずだ」
「そだねー。簡単な比較って感じだと、八分の一から六十四分の一。たぶん、現実的なラインだと、『お城』じゃなくって『砦』タイプ、この辺が限界ラインだね」
『お城』はやっぱり、ロマン設定じゃない? とメイアさん。
何でも、メイアさんってば、みんなから集めた素材を使って、さっきから延々とポイント数とにらめっこしてたのだそうだ。
単純比較はできないけど、現時点での必要量となると、そのぐらいの差があるのだとか。
更に、『お城』を造るためには『砦』では不要な特殊素材も必要だから、その差は更に開くわけで、こうやって、比較されるとどれだけ『お城』を建てるのが荒唐無稽なのかがよくわかる。
それにしても、だ。
「メイアさん、数字に強いんですね?」
「まあねー、割と得意分野。この手のゲームの場合、数学って、戦闘とかでも役に立つから、手を抜けないしね」
そう言って、不敵に笑うメイアさん。
何となく、その雰囲気と服装が相まって、魔女っぽい感じがするな。
だから、『魔女見習い』がついたのかね?
そういえば、ゲームの戦闘で数学が役に立つってのはユウも言ってた気がする。
どういう風に、ってのは覚えてないけど。
「ちなみに、普通の『家』タイプなら、どのぐらいで建てられそう?」
「人海戦術を使えば、今日明日で行けるんじゃない? そうそう、テツロウ君が持ってるコネクションをフル活用でね」
「いや、さすがに報酬が払えないっての」
昨日は特別、と肩をすくめるテツロウさん。
冒険者が相手だと、当然報酬が必要で、昨日の場合、コッコさんたちのたまごなどで帳尻を合わせることができたけど、うまみがなければ頼めない、と。
お祭りとか、別の意味で興味が引けるものがあったから、昨日はたまたま協力してくれただけで、連日それをあてにするのはまずいってことだよな。
ごもっともな話だ。
となれば、メイアさんたちの話から考えると、短期間で『家』を用意する場合は『家タイプ』が無難ってことだよな。
選択肢その三、当初の予定通り、普通の家を建てる。
ただ、これだと、せっかくの『儀式』成功が……って感じになるので微妙だけどな。
無難すぎてつまらない、とも言う。
「それじゃあ、案その四。お風呂付宿屋に的を絞る」
「つまり、『集合住宅タイプ』ってことですね?」
「そういうこと。時間もかからず、規模もそこそこ、管理もお手頃っぽい。ま、妥協点としては、その辺だな」
要は風呂の充実に注力する、と。
そもそも、ペルーラさんに改造してもらった魔道具の件もあるし。
一応、『お風呂隊』に名を連ねているみんなで分担してお金を稼ごう、って話にはなってるけど、それでもひとりあたま百万Nは必要となる。
まあ、それで大分現実的な値になってきたから、条件次第では行けそうではあるか?
そっちはそっちでアイデアを集約している最中だしな。
後は、教会を狙うって案もあるけど、そっちは現実的ではない上に、メリットも少なそう、とテツロウさん。
「何となく、上級者向けの選択肢っぽいんだよなあ。これ、周回系で二周目以降にチャレンジするタイプの色物選択肢だろ。何となく、教会の管理になりそうだし」
「まあな。テツロウの言う『周回』ってのが何なのかはあたしもよくわかんないけど、あまり良い判断じゃないって意味では同意だな。あたし個人としては、コッコの『家』として教会を造れるのもそれなりに美味しいが、それもあくまで教会所属の視点だしな」
あんたらのメリットじゃない、とばっさり切り捨てるカミュ。
ふむ。
教会側としては、おいしいのか。
「ああ。まず、今まで以上に『グリーンリーフ』と繋がりが持てる。あと、コッコの『家』がもたらす恩恵みたいなものも受けられるしな。普通じゃありえない話だからな」
「コッコの『家』の恩恵?」
「あ、いけね。ちょっと言いすぎたな。ふふ、詳しいことは言えないが、そういうこともあるって話さ」
あ、やばい、って感じでカミュが話を打ち切ってしまった。
ふうん?
コッコさんたちからの恩恵ねえ。
もしかして、『たまご』かな?
今回の関連クエストのおかげで、『たまご』もゲットできてるしな。
無精卵ってことなら、割と分けてもらえるようになるのかもしれない。
まあ、それはそれとして。
「それじゃあ、どうしましょうかね?」
選択肢はテツロウさんがまとめてくれた感じだけど、いざ選ぶとなるとけっこう難しいよな。
一応、難易度高めだけど、『お城』も捨てがたいし。
他の人たちの意見も聞いてみたけど。
「やっぱり、にゃあは『お城』だにゃ! 自分たちでお城建てるなんて面白いのにゃ!」
「うーん、わたしはヴェルさんほど『お城』って感じじゃないかな? 鳥さんたちも一緒の宿屋でいいんじゃない?」
「時間とかを考えて、『集合住宅タイプ』かな」
「いや、立派な温泉旅館風を目指すなら、『砦』だろ」
「教会を造れば、『神聖教会』に貸しを作る感じになるのかな?」
「いや、そっちはカミュちゃんがやめとけ、って言ってるからやめた方がいいんじゃね?」
「コケッ!」
『もぐっ!』
『ケイゾウさんたちは、任せるって言ってるっすよ。ビギンさんとこの眷属さんたちも、とりあえず、地均しには取り掛かるから、何でもいいから早いとこ方針を決めてくれ、って言ってるっす』
「あれ? ベニマルくんももぐらさんたちの言葉がわかるの?」
「あら、マスター、わたしもわかるわよ?」
「えっ!? そうなのか、ビーナス?」
「ええ、『モンスター言語』だもの」
そうだったのか。
って、いや、ビーナスも翻訳できることに驚いている場合じゃないよな。
「うーん、でも、方針って言っても、結構、バラバラな感じですよね?」
「ふむ、ならば、そのまま話を進めれば良かろう。何を選択するにせよ、それぞれが分担して素材などを集める必要があるのだからな。ならば、時間内に集められた素材の量で何を造るかを決めれば良いだろう」
「だな。はは、さすがはリクオウのおっさん、良いこと言うな」
「それが良いわよね」
「にゃはは、素材集めまくりなのにゃ」
うん。
大体、方針が定まったな。
結局、臨機応変で、って感じになっちゃったけど。
そのまま、それぞれがこれまでめぐっていた場所や、経験などに基づいて、どんな素材を集めるか、などを相談して。
素材集めのために、動き始める俺たちなのだった。




