第329話 農民、土木系クエストを進行させる
「コケッ!」
『もぐーっ!』
「あ、ケイゾウさんたちもこのもぐらさんたちのことは知ってるんだ?」
『そうっすね。たぶん、『親方さん』って、ビギンさんのことっすよね? 僕らもあんまり直接会う機会はないっすけど、話ぐらいは聞いてるっす』
『森』のお仲間のひとりっす、とベニマルくんが羽ばたきながら笑う。
俺たちの方へとやってきたぬいぐるみっぽいもぐらさん。
大きさは50センチぐらい、全身の色はグレイで、二足歩行しながら、長い爪を生やした手で器用につるはしのような物を持っている、そのデフォルメもぐらさんが、俺やアルルちゃんのところまでやってこようとしたところ、てとてととケイゾウさんもやってきて、目の前で話のようなことを始めてしまったのだ。
なので、こっちはこっちで状況を横でホバリングしていたベニマルくんに聞いてみたというわけで。
何でも、ベニマルくんによると、その『もぐらの親方さん』も一応、『森』の眷属のひとりなのだそうだ。
名前はビギンさんだか、正しくはビギンギンデンブルグだとか言うらしく、なかなか他の人に覚えてもらえない、長くていちいち言うのが面倒くさい、などの理由から結局名乗るのをやめて、『親方』を自称しているとか何とか。
ふうん?
要は『森守』のひとりで、重要人物でもあるってことらしい。
土木関係とかが得意な人……正確には『魔獣』なのだそうだ。
「『魔獣』なの?」
『そうみたいっすよ? ただ、普段は地面の中を移動してるらしいっすから、あんまり、地上で遭遇することはないんすよねえ』
えっ、地面の中?
あれ……もしかして、その『親方』さんって、例の『地下通路』の管理とかに関係していないか?
『森守』の中でも地下担当ってことは、そんな感じがするし。
そもそも、地下に通路があるってことは最初に誰かが掘ったから、ってのが間違いないだろうし。
そんなことを話していると。
『もぐっ!』
「コケッ!」
何やら、納得顔で、同時にこちらの方を見て、首を横に振る一羽と一匹。
いや、何が言いたいのかよくわからないんだが。
そう俺が困惑していると、横からアルルちゃんも首を振って。
「あ、セージュ。さっきの『手順表』の発動だけど、途中で止まっちゃったみたい。『さすがに無茶』だって、この子が」
『もぐっ!』
「そうなのか?」
アルルちゃんの言葉に、我が意を得たりと言わんばかりにぶんぶんと首を縦に振って頷くデフォルメもぐらさん。
……というか、随分と感情表現が豊かだよな、このもぐら。
アルルちゃんの話だと、『小精霊』が眷属として生き物化した存在らしいけど、見た目といい、コミカルな動きといい、愛くるしい小動物っぽい雰囲気満載なんだが。
ペット好きっぽいテスターさんの中には、少し離れたところで別のデフォルメもぐらを抱きかかえているのもいるし。
うん。
ヴェルフェンさんの『にゃはは、この子ふわふわなのにゃ』とか言ってる声が聞こえたりするし。
まあ、それはそれとして。
「さっきの変なブザーみたいな音は発動が途中で止まった音か?」
「うん、そうね。『今、この場にある素材だけだと、あの規模の建物を建てるには強度が足りない』って。『重さで崩れちゃう』みたいよ?」
「あー、そっか。素材か」
よくよく考えれば当たり前の話だよな。
どうやらアルルちゃんは、そのデフォルメつるはしもぐらの言ってることがわかるようなので、通訳してもらうと。
地面にあるありあわせの材料で家を建てることも可能ではあるらしいのだ。
ただし、規模というか、作れる高さには制限もあったりして、少なくともお城みたいなものを作るのは無理だって言われてしまった。
うん。
まあ、そりゃあそうだよなあ。
さすがに土で作った家で高層建築物を作るのは少し無理があるよなあ。
「はは、そりゃ、当たり前だよな。で、何が必要なんだ?」
「やっぱり、何もないところに家を建てるのはファンタジーでも難しいのにゃ」
「次は素材集めか」
「まあ、お風呂の件でもお金を集めないといけなかったんでしょ?」
「これだけ人数がいるのだから、手分けして集めてくればいいだろう」
「コケッ♪」
「あ、鳥さんたちもお手伝いしてくれるの?」
『木材関係なら、フィルさんたちに相談した方が早いっすよ』
「あ、エルフさんたちに、ってことか、ベニっち?」
おおぅ。
ようやく、俺たちの出番だなと言わんばかりに、テツロウさんたちが話に混じってきてくれたぞ?
まあ、前もって、話をした際にも素材集めの可能性については考慮してたもんな。
なので、つるはしもぐらさんに素材についても聞いてみる。
『もぐーっ!』
もぐらさんが声を発するのと同時に。
例のぽーんという音が頭の中に響いて。
『クエスト【土木系クエスト:鳥モンスターの家造り】が更新されました』
『スクロール手順のルートが進行します』
『この場でクエストに参加している全員に、『城タイプ』『砦タイプ』『集合住宅タイプ』『家タイプ』『教会タイプ』に必要な素材の一覧が追加されました』
『注意:現時点で解放されている条件は以上です』
『あまり、大規模なものは推奨できません』
『素材の強度が判定に影響することがありますので、気を付けてください』
おー、すごいな。
やっぱり、この『手順表』って、特殊なアイテムだったようだな。
「へえ! これって、レアクエか!?」
「クエストの中にも『ルート』があるんだ?」
「すごいね、ヴェルさんが無茶なアイデアを出したのも無駄じゃなかったんだ」
「にゃはは、怪我の功名だにゃ」
「……てか、城も造れるんだ」
「たぶん、こっちの『集合住宅タイプ』ってのが、普通の宿屋の造りってことだよね?」
「『家タイプ』は一軒家のようだな」
「お婆ちゃんの家はどれになるのかにゃ?」
「教会も選択肢に入ってるんだ?」
「何でだ?」
「あー、たぶん、あたしが混じってたからだな」
「あ! カミュ! それにアスカさんも!」
「おっ! カミュちゃんにアスカっちじゃん! 遠出から戻ってこれたんだな?」
「ええ……強行軍だったけど、どうにか面白そうなところには間に合ったわね」
「にしても、何やってんだよ、あんたら? こんな静かなとこに本気ででかい城を建てる気か? ラルの許可は取ったのか?」
「ええ、町長さんからは許可を頂いてます」
「本気かよ……あー、たぶん、これ、エヌも動いてるな」
えーと。
大分、状況が混沌として参りました。
いきなりクエスト一覧に追加されたのが、今回のクエストで建てられる建物の種類とそれに必要な素材のリストだな。
俺もそうだけど、その内容を確認しつつ、どれがより良い選択肢か吟味する人たちがいて。
一方で、教会本部まで遠出していたカミュやアスカさんも途中で合流してきて、ちょっと収集がつかなくなってきたぞ?
どうも、選択肢の中に『教会タイプ』ってのが追加されたのも、カミュが原因みたいだし。
案外、同行者によって、このクエストって、やれることが増えたりするのかもしれないよな。
そんなことを考えつつ。
面白くなってきたと内心で笑みを浮かべる俺なのだった。




