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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第8章 家を建てよう編
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第328話 農民、巻物を使う

「それじゃあ、始めますよ」

「おー、やれやれー」

「家を建てる魔法ってどういう感じになるのかしらね?」


 せっかく集まってもらった人たちの前で、悩んでいても仕方ないので、予定通り、この『手順表(スクロール)』の発動を試みることにした。

 少なくとも、前もってフローラさんに確認した感じだと。


『精霊術も術式に含まれているから、失敗しそうになってもそれなりの反応を示すはずよ』


 ということらしい。

 不発でアイテムだけ失うタイプのものではないそうだ。

 もっとも、具体的にどうなるかはフローラさんにしても、発動してみないとわからないみたいだけど。


「それじゃ、お手伝いするわね。セージュ、わたしと手をつないで」

「ウルルもお手伝いー」

「はい、これでいい?」


 促されるがままに、右手をアルルちゃんと、左手をウルルちゃんとつなぐ。

 『手順表(スクロール)』を発動させるのはアルルちゃんだけど、その辺はアルルちゃんが精霊種のノームであることがばれないようにするためのフェイクだ。

 名目上は、俺がアイテムを使う形で、そのサポートをふたりがしてくれている、という風に見せるためにそうしている。

 もっとも、これだけだと小っちゃい子を引率している感じに見えるけどな。

 何となく、他の迷い人(プレイヤー)さんからの生暖かい視線を感じるぞ?


「うん、いいよー」

「そのまま離さないようにね。さっきの図面? あれ、わたしだとよくわからなかったから、セージュのイメージが重要になるから」

「了解」


 アルルちゃんからの注意に頷く。

 にしても、イメージねえ。

 いや、俺も写る楽さんが描いた図面に関しては、実際の家を想像しづらいんだけどな。

 どっちかと言えば、ヴェルフェンさんのお城の方が外観イメージそのまんまだから、そっちの方が頭に思い浮かべやすいけど、あんまり大規模だと作れない気もするし。

 まあ、建てる範囲をどのぐらいにするかは、ざっくりと決めてあるから、それ以上は大きくならないだろう。

 その辺は、オートで調整が効く、便利魔法みたいだし。


 さておき。


「では、改めて。始めますよ」

「お手伝いの人、少し離れて。何が起こるかわからないから」

「わかったー」

「ちょっと遠巻きに離れるか」

「ふむ、何か俺たちにも手伝えることはあるか?」

「今はまだ大丈夫。たぶん、次の段階でお願いすることになると思うわ」

「承知した」


 今のところは見てて、というアルルちゃんの言葉にリクオウさんたちが頷いて、そのまま、『家』の建設予定地から距離を取る面々。

 そして、そこから俺とアルルちゃんとウルルちゃん、三人が一歩前へ出る。

 アルルちゃんが片手で持っていた『手順表(スクロール)』を縦に広げて、前に示したかと思うと、直後に変化が現れた。


「おっ!? 巻物が光りだしたぞ?」

「文字が浮き上がって――――あ、地面に落ちていくんだ?」


 後ろで見ていたテツロウさんとメイアさんの声。

 その言葉が示す通り。

 俺たちの目の前で、淡い光を発し始めた『手順表(スクロール)』から、見慣れない文字が浮き上がったかと思うと、そのまま、すとんと重力に引かれるように地面に吸い込まれていくのが見て取れた。


「アルルちゃん、これって……」

「あっ! セージュはそのまま集中してっ! 範囲はわたしが定めるから、『家』のイメージ!」


 目の前の現象について尋ねようとした俺に対して、ピシャリとアルルちゃんからの指示が飛ぶ。

 最初に出会ったときは大人しい感じがしたアルルちゃんだけど、たまに気が強い雰囲気みたいなのが見え隠れするんだよな。

 ウルルちゃんに言わせると『セージュたちとは最初に色々あったから、猫被ってるんだよー』って感じらしいけど。


 って、そんなことを考えてる場合じゃないよな。

 そうこうしている間にも、次々と文字が浮き上がっては、地面へと吸収されていくのが見えて、次第に地面からも茶色い光が放たれ始めたのだ。

 光る地面の範囲が少しずつ広がっているので、おそらく、あの文字が地面と同化することで何らかの影響が出ているようだ。


 さて、イメージイメージ。


 うーん。

 やっぱり、ダメ元でもお城の方にチャレンジしてみるのが人情だよなあ。

 そっちの方が面白いし。

 うん。

 では、お城ホテル――――っと。


『ブーッ!』

「えっ!?」


 何だ今の?

 俺がお城のイメージを必死に固めようとしたら、クイズ番組とかでおなじみの不正解音のようなものが鳴り響いたぞ?

 思わず、辺りを見ると、他の人たちにもその音は聞こえたらしく、誰もがみんなきょろきょろと周囲に目をやっているのが見えた。


 ――――と。


「あっ! 出たっ!」

「へっ!?」


 今度は何かに気付いたようなアルルちゃんの声だ。

 そして、次の瞬間、光っていた地面から次々と現れたのは――――。


『もぐーっ!』

「……もぐらのモンスター?」

「違うってば、セージュ。この子たちは『小精霊』が眷属化した子たちよ」

「そうそうー、はぐれモンスターじゃないからねー」


 ぽこぽこと地面の下から飛び出してきたのは、二足歩行をするデフォルメされたもぐらのような生き物だった。

 おまけに、手には工具みたいなものを持っているから、明らかに自然のモンスターっぽくはないんだけど。


 えーと……?

 もしかして、この『手順表(スクロール)』って、このもぐら風の精霊さんたちを召喚するための術式だったってことか?


「あれ? あれって、『親方』と一緒にいたのに似てない? ねえ、リクオウのおっさん?」

「うむ、町の南で見たな。ただのモンスターではなかったのか」

「知ってるんですか?」

「あ、セージュは会ったことがないか? 『オレストの町』の土木系の職人のひとりが、その『親方』だよ。『親方』って言っても、人間じゃなくって、友好的なモンスターのひとりだけどな」

「『親方』って名前なんですか?」

「あー、名前は教えてくんないんだよ。身の丈四メートルぐらいのでっかいもぐら系のモンスターでさ。ちょうど、目の前のやつらを大きくした感じだな。ちゃんと土木作業員っぽい服も着てるしな。どっちかって言えば、獣人種に近いんじゃね?」

「ケモナー要素は強めだねー」

「いや、ニッカポッカと腹巻きは狙いすぎだと思うぞ?」

「そこは、運営に突っ込むところでしょ?」


 ふうん?

 どうやら、結構、会ったことがある人も多いらしいな。

 そういえば、その『親方』さんの話って、『けいじばん』でも触れられてたっけ。


「ということは、やっぱり、このもぐらさんたちが『家』を建ててくれるってことなんですかね?」

「うん、たぶんそう。わたしとおんなじで土系統の属性みたいだもの」

『もぐーっ!』


 アルルちゃんと話していると、すぐさま、近くにいた一匹のデフォルメもぐらが近づいてきたぞ?

 どうやら、ニワトリの次はもぐらのようだな。


 そんなこんなで、『家造り』のクエストは続く。

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