第326話 農民、報酬を受け取る
「さあ、今日はいよいよ、鳥モンさんたちの家づくりだな」
「うん、ちょっと楽しみだね」
「きゅい――――♪」
明け方まで続いた『コッコダンシング』のお祭りから一夜明けて。
というか、軽く一眠りした後、そのまま続行という感じで。
すっかり空が青くなっている時間帯に集合した俺たち。
ちなみに、今俺たちが立っているのはサティ婆さんの家の前で、この場にいるのは俺とルーガとなっちゃんだ。
ビーナスとカールクン三号さんは、それほどまとまった睡眠をとらなくても大丈夫ということだったので、一足先に畑の北側の荒れ地の方へと行ってもらっている。
『せっかくだから、ちょっと色々やっておくわね、マスター』
『クエッ!』
とか何とか。
なので、その言葉を信じて、ビーナスたちに準備を任せたのだ。
一応、こっちの畑に植えようとしていた『レランジュの樹』の苗木も、ビーナスに一緒に渡しておいた。
何だかんだで、俺よりも栽培に関しては得意だろうし、もうすでに一度、樹を育てている経験もあるから、そっちの方が安心だったし。
「ねえ、セージュ。みかんは今日はお休みなの?」
「ああ。昨日は少し頑張りすぎたみたいだな」
ルーガの問いに対して、俺も頷く。
俺たちのパーティの中で一番疲弊していたのは、みかんだった。
たぶん、色々なコッコさんから『小精霊』を食べたりしたのも原因なのだろう。朝も宙にぷかぷか浮いたままで寝息を立てていたので、そのまま休ませることにしたのだ。
それについてはサティ婆さんにも伝えてあるので、時々様子を見てくれるだろう。
まあ、『……寝息?』とは思ったけど。
いよいよ、みかんの生態が謎っぽくなってきたよな。
どう見ても、宙に浮いた巨大なみかんにしか見えないんだけど、どことなく、動きの仕草とかに愛嬌があるから不思議だ。
さておき。
今はウルルちゃんたちの準備が整うのを待っている状態だな。
どうも、ウルルちゃんがけっこうお寝坊さんらしくて、フローラさんから少し時間が欲しいと言われたのだ。
『人化』状態だと、精霊さんでも睡眠が必要、ではあるそうだけど、その辺も個人差のようなものがあるらしい。
フローラさんとかは割と寝なくても大丈夫なのだそうだ。
案外、年齢とかにも関係しているのかもしれないけど。
まあ、どっちにせよ、ノームであるアルルちゃんが来ないと話が進まないので、結局、待ってるしかないんだけどさ。
そうこうしていると、ウルルちゃんたちより先に、ベニマルくんがやってきた。
いつものように颯爽と羽ばたいてはいるけど、今日は背中に何か荷物のようなものを背負っているのな?
何となく、そういうベニマルくんはめずらしい気がする。
『セージュさん、ルーガさん、なっちゃんさん、おはようございますっす』
昨夜は眠れたっすか? とベニマルくんが笑って。
「おはよう、ベニマルくん。うん、何とかかな。少なくとも動けなくなるような感じじゃないね」
「うん、少しは眠れたよ」
「きゅい――――♪」
『そいつは何よりっす』
「ベニマルくんの方は大丈夫なの? それこそあんまり寝てないみたいだけど」
俺たちが休む前も、他の鳥モンさんたちの間に入って、何やら動き回ってたような気がするぞ?
一応、ベニマルくんも渉外担当って聞いたけど、ケイゾウさんの『一群』の調整役みたいなこともやってるようなので、けっこう忙しそうなんだよな。
俺がそう言うと、ベニマルくんが微笑んで。
『あ、心配無用っす。昨日はいつものとはちょっと違って、ほら、セージュさんたちが奉納してくれたアイテム類があったじゃないっすか。あれの恩恵を僕らも得られたみたいで、それで、『一群』のみんなも割と元気っすね』
ほんと、助かったっす、とベニマルくんが頭を下げる。
『あ、そうそう。畑の方でセージュさんたちが来るのを待ってたんすけど、まだ時間がかかりそうって聞いて、それでこっちまでやってきたんすよ』
「え? わざわざ?」
『そうっす。ケイゾウさんたちからの報酬っすね。セージュさんたちだけじゃなくって、昨日のクエストに協力してくれた方みんなに、早めに配るよう、僕らも手分けして動いてるっす』
あ、そっか、報酬の件か。
何となく、昨日はコッコさんたちが帰るのを見送ってひと段落って感じだったからなあ。
参加者の多くもそれなりに疲れていたので、そのままお開きになったわけだし。
一応、迷い人間での貸し借りについては、テツロウさんやリクオウさんなどを中心に早めに精算して終わらせてあるけど。
おかげで、俺とかハヤベルさんなんかは、傷薬とかの分をお金でもらえたりして、けっこうな金額を稼ぐことができたし。
あんな低品質の薬にしては、けっこう割高だったのは、道具屋とかで購入した場合に合わせたからだそうだ。
そう考えると、単なる傷薬でも自分で作れないと大変なんだな、とは思った。
今は教会の癒しがあるから問題ないけど、そのうち『調合』系のスキルは、冒険を進める上では必須になるかもしれないよな。
何となく、サティ婆さんの家に居候する人が増えそうな気がする。
まあ、結構稼いだっていっても、ペルーラさんに払う金額を考えると全然だけどな。
というか。
家を建てる作業と並行して、金策を急がないといつまで経ってもお風呂ができないってオチにもなりかねないぞ?
一応、あの『手順表』を使って家を建てる場合、数日はかかるって話だから猶予はあるけど、完成までに『湯沸かしの魔道具』を組み込まないと宿の完成形がどうなるかわからないし。
うん。
やっぱり、金策は重要だな。
俺が改めてそのことを考えていると。
『はい、セージュさん、こっちが報酬の『たまご』っすよ』
「あっ!? けっこう大きいんだね?」
『そうっすか? 僕らの仲間うちでは割と小さい方だと思うっすよ?』
ベニマルくんが渡してきたのは見た目がカラフルなたまごの数々だった。
大きさ的には両手を合わせたぐらいの大きさで、向こうの鶏のたまごよりも一回りか二回り大きいぐらいのサイズだな。
それでも、ベニマルくんに言わせると、他の鳥モンのたまごの方が大きいものもあるようだ。
【素材アイテム:素材/食材】森鶏のたまご☆
オレストコッコのたまご。産み落とされるとすぐに『相互召喚術』の『たまごの間』に保管されるため、実物を目にするのは非常に難しい。このたまごはオレストコッコとの信頼の証。一片のかけらも無駄にできない代物。
鮮度は割れない限りは新鮮。たまごは正しく割りましょう。
【素材アイテム:素材/食材】雪鶏のたまご☆
フロストコッコのたまご。ひんやり冷たい。産み落とされるとすぐに『相互召喚術』の『たまごの間』に保管されるため、実物を目にするのは非常に難しい。このたまごはフロストコッコとの信頼の証。一片のかけらも無駄にできない代物。
鮮度は割れない限りは新鮮。たまごは正しく割りましょう。
【素材アイテム:素材/食材】光鶏のたまご
ブリリアントコッコのたまご。きらきらと光っている。産み落とされるとすぐに『相互召喚術』の『たまごの間』に保管されるため、実物を目にするのは非常に難しい。
鮮度は割れない限りは新鮮。たまごは正しく割りましょう。
【素材アイテム:素材/食材?】コッコの霊卵
コッコゴーストのたまご? たまごのようだが、実体に乏しい。一応触れることはできるようだ。産み落とされるとすぐに『相互召喚術』の『たまごの間』に保管されるため、実物を目にするのは非常に難しい。
鮮度は割れない限りは新鮮……新鮮? 食べられるかどうかはあなた次第。
【素材アイテム:素材/食材】土鶏のたまご
サンディコッコのたまご。他のコッコのたまごよりも一回り大きい。産み落とされるとすぐに『相互召喚術』の『たまごの間』に保管されるため、実物を目にするのは非常に難しい。
鮮度は割れない限りは新鮮。たまごは正しく割りましょう。
おー。
けっこう、色々なたまごがあるな。
どうやら、俺たちが積極的に倒したコッコと、ケイゾウさんたちオレストコッコのたまごが報酬としてもらえるようだ。
ひとつ変わってるのは『霊卵』か。
一応、これがコッコゴーストのたまごらしいけど、霊なのにたまごを生むんだな?
いや、精霊さんたちも霊だろうから、別におかしな話じゃないけど。
あと、ちょっと気になったのはアイテムの表記だな。
最後に星マークがついているのもあるんだが、これって違いは何だ?
「ねえ、ベニマルくん」
『どうしたっすか、セージュさん?』
「今、受け取ったたまごのうち、星マークがついてるのがあるんだけど」
『あ、それたぶん、特別なたまごっすよ』
「特別なたまご?」
『そうっす。僕も詳しいことは知らないっすから、後でケイゾウさんに聞いてみるといいかもしれないっすね』
「うん、そうするよ。その時は通訳を頼むね、ベニマルくん」
『承知っす』
へえ、特別なたまごかあ。
というか、たぶん、ネーベの方のたまごもそうだよな?
コッコさんから信頼を得られるともらえるたまごってことか?
うん。
何にせよ、うれしいよな。
内容については謎のままだけど、とにかく、たまごを手に入れることができたことを喜ぶ俺たちなのだった。




