第325話 農民、フィナーレを見届ける
楽しいことには終わりがやってくる。
色々な意味で盛り上がった、このコッコさんたちのお祭りも、夜明け前のこの時間をもって、フィナーレを迎えることとなった。
『儀式』を行っていた荒れ地の中央には、色とりどりのコッコさんたちが集結している。
中央で全体をまとめているケイゾウさんとヒナコさん。
『グリーンリーフ』で暮らしている『オレストコッコ』の皆さん。
彼らを取り囲む形で、『外』から召喚されてきてくれたコッコさんたちが羽ばたきながら、祝福するような態度で立っている。
そして、さらにその外側には、他の鳥モンさんやら、観客の俺たちが遠巻きに広がっている状態だな。
最後の『送り鶏』の儀式はコッコさんの他は少し離れていた方がいいらしいそうだ。
そう、ベニマルくんからの忠告があったのだ。
――――と。
「コケェッ――――!」
中央に立っていたケイゾウさんが大きな声で叫び鳴いて。
『『『コケェッ――――!』』』
周囲のコッコさんたちもそれに続くように鳴動を重ねた。
その途端。
辺りを漂っていた淡い光の球の数々が地面の一点へと集約されていくのが見えた。
一瞬前にケイゾウさんが立っていた中央の場所だ。
いつの間にか、気付かないうちに、あの鏡餅のような形をした要石も消え失せてしまって。
ケイゾウさん自身もぴょこんとその地点に光が集まる前に、少し離れた場所へと飛び移って。
小さな太陽のようなまばゆさが生まれたかと思うと、そのまま、白い輝きを放つ渦のようなものへと変化した。
ゆらゆらと揺らめいていて、中心が光の流れで渦巻いているかのような不思議な光景だ。
何となく、ワープゾーンって感じというか。
ちょっと毛色は違うけど、ラルさんの家に向かうためのピンク色のもやに近い雰囲気というか。
「コケッ♪」
「コケコケッ♪」
「コッコッコ!」
辺りに立っていた『外』のコッコさんたちが嬉しそうに笑う。
なるほどな。
どうやら、あれが帰り道らしいな。
ネーベも笑いながら、一度だけこっちの方を振り返って、ニヤッとしたし。
そんな感じで俺やルーガたちが幻想的な光景を眺めていると、不意にテツロウさんからの『フレンド通信』が響いた。
『ようし! それじゃあ、みんな、『けいじばん』の通りにな』
『『『おうっ!』』』
「えっ!? 『けいじばん』の通り!?」
いや、ちょっと待て。
まだテツロウさんたち、何かするつもりだったのか?
俺、ペルーラさんやジェイドさんと話をしてて、『けいじばん』を見てなかったんだけど、そのわずかな間に何があったんだ?
俺や、状況がつかめていない他の人たちが困惑する中、テツロウさんの声は続いて。
テスターの一部や、冒険者の人たち……あ、カガチさんとかも混じっているか? それらの人たちが、手を空の方へとかざしたかと思うと。
『せっかくの見送りなんだから、イリュージョンで送ってやろうぜ!』
『各自、危なくない範囲の威力で得意なやつを放て!』
『物理的な武器はラルさまが回収するっすよ』
……って!
ベニマルくんの声も混じってたぞ!?
そうこうしているうちにも。
テツロウさんたち、一部のサプライズ好きの面々による『魔法と武器のイリュージョン』が空中へと放たれた。
『火魔法』による打ち上げ花火のような火球。
それが緑の光を伴った『風魔法』で軌道を変えて、空中を飛び回っていく。
その光を反射して、『水魔法』のしずくが虹を生み出して。
うーん……こういう時、『土魔法』って地味だよなあ。
あ、なっちゃんの人形操作とか良さそうか。
武器などの投擲でも、矢を放った場合でも、光をまとっているから、本当に花火っぽくなっているというか、テツロウさんの言うイリュージョンになっているんだよなあ。
「コケッ♪」
それに気をよくしつつ、『外』からやってきたコッコさんたちが次々と、帰還の『渦』の中へと飛び込んでいく。
ネーベも自分の番になって、微笑みながら『渦』へと消えていった。
何となく、その表情を見るからに、また会えるような気がした。
他のテスターさんと仲良くなったコッコさんも似たような態度をとっているから、機会があれば、また会えるってことだろうな。
そんなこんなで。
『外』のコッコさんたちが帰っていって。
最後に残った『渦』がゆっくりと地面へと吸収されていったのを最後に、辺りを包んでいた光が収まって。
「コケッ!」
月明かりの元、ケイゾウさんの鳴き声がひとつだけ響いて。
『コッコダンシング』のお祭りは終わりを迎えたのだった。
◆◆◆◆◆◆
「…………へえ、いまのいいねえ。ええと……ぱれーど、さーかす……? ふふ、これ、ちょっとあとでげんじゅうにそうだんしてみようかな」
リハビリ中。
ちょっと短めです。
引き続き、不定期での更新が続くと思いますが、まったりとお待ち頂けると嬉しいです。




