第324話 農民、宿屋のために頑張る
「それじゃあ、セージュ、そっちもよろしく頼むな」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
結局、その場にいる人たちを交えて、『家』改め『宿屋』に関する相談については軽く済ませておいた。
とはいえ、俺としてはぜひ協力を仰ぎたいところなんだけど、これに関しては、さすがに勝手に決められない部分とかもあったので、現時点ではあくまでもお互いでのアイデアの出し合い程度に留まったけどな。
残ってる調整とかが終わったら、改めて『けいじばん』で状況説明なり、相談なりを公表していく感じに落ち着いたのだ。
俺の方も、今、この場にいないアルルちゃんたち『精霊の森』の人々、特にフローラさんなどにも状況が変わるかもしれないことを相談しないといけないだろうし、他にも色々とやっておくことがあるし。
とりあえず、ケイゾウさんたちにはベニマルくんから話をしてもらうことになった。
というか、もうそっちの方に飛んで行っちゃったし。
いや、もうそろそろ催しがフィナーレのような感じなんだけど、今だとまずくないのかな? と俺たちが思っている間にも、何事もなかったかのようにさっと行ってしまったのだ。
こういうのは早い方がいいから、って。
『明日には始めるんすよね? あ、もう今日っすか? だったら、早い方がいいっすよ』
とか何とか。
いや、ベニマルくんって、テキパキと無駄なく動いてくれるのには定評があるけど、あとに残された俺たち的には『え? 今日?』という意識が強いんだが。
もちろん、こっちから協力をお願いする立場でもあるから、そうと決まれば頑張るけどさ。
そろそろ、さすがに疲労限界がやばい気がするぞ?
夜通し動いていたにも関わらず、未だに限界ログアウトに達していない理由って、たぶん、ラルさんからのサポートが働いているからだと思うのだ。
後は、『儀式』の副作用とか。
そもそも、この『儀式』で無理をすれば、翌日はもう動けなくなるだろう、って話をしたのはベニマルくんだったと思うんだけど、昨日の今日でケイゾウさんたちは大丈夫なのかね?
『はは、まあ、別にいいんじゃね? ユウのやつの話を聞くと、もっと無茶なスケジュールで動いてたこともあるみたいだし』
『そうそう! 早い方がいいじゃない!』
『うん、まだ身体は大丈夫だな。俺はよく知らないけど、こういうのが廃人プレイっていうんだろ?』
『ゾエさん、この程度じゃ、まだまだその域じゃないって』
うん。
何というか、みんな体育会系だなあ。
テツロウさんやメイアさんは、このぐらいよくあることだって笑ってたし、ヤマゾエさんも、まだ全然余裕があるぞ、って感じの顔してるし。
少なくとも、この程度のハードさでは、引くような面々じゃないってことはよくわかった。
そんなこんなで、最初の話になるわけだな。
ひとまず、テツロウさんはこのクエストで全体の指揮を執っていた手前、そっちの最終調整作業とかも残っているので、そっちに集中。
ログから、アイテムなどの流れをチェックして、個々のやりとりの微調整とか、まあ、みんなが納得できる形で貢献度を計っておいたりとか、まあ、なんだ、大規模戦闘とか、レイドバトルでよくある揉め事抑止みたい感じの作業とか、だな。
もうすでに、『けいじばん』とかで参加者から、それぞれの意見を募ったりとかもしてるみたいだし。
やっぱり、人間関係が一番難しいのです。
特に、報酬が絡んだ時はな。
その手の面倒事を笑いながら、さらりとこなしているテツロウさんは、やっぱり、改めてすごいと思う。
こういうところを見ていると、慣れてるな、って感じるし。
自称セミプロゲーマーとして、評価されているのが何となくわかる気がするぞ。
後はヤマゾエさんとメイアさんは改めて、この件について、ラルさんとか町の人とか、他のテスターさんたちへ話を通しておく、って。
そんな感じで。
一時的に解散となった。
すごいなあ。
みんな次から次へとどんどん手を打っていくもんな。
俺とか、一緒にいるルーガとかビーナスとか、ただその流れに流されている感じだもんな。
「ルーガたちは大丈夫か? ちょっと休んだら、また頑張らなきゃいけない流れなんだが」
「うん、大丈夫。セージュと会ってからずっとそんな感じだし」
「私もよ、マスター。別にそんなに睡眠が必要ってわけじゃないし。今回は長距離の移動がない分、楽だもの」
「きゅい――――♪」
「ぽよっ♪」
「コケッ♪」
俺が心配する意味で声をかけたにも関わらず、ルーガはルーガで『え? こんなのいつものことでしょ?』的なきょとん感を醸し出しているし、ビーナスはビーナスで『この程度、マスターに付き合ってたら普通でしょ』とか言って来るし。
……なんか、理不尽だぞ。
もう、俺のイメージがトラブルメーカーってことで定着してる気がするんだが。
ちょっといじけてると、なっちゃんが『土魔法』の手で頭をなでてくれるし、みかんはみかんで頭の上に乗っかって来るし、なぜかネーベはネーベで口元に笑みを浮かべてるし。
いや、ネーベはねぐらに帰るんじゃなかったのか?
普通に、帰った後、面白そうだからまた来るわ的な雰囲気を出してるし。
「……ありがとう、みんな」
まあ、ある意味、良い仲間を持って幸せだと思っておくことにしよう。
少なくとも、他の迷い人さんと比べても、俺の周りってにぎやかな感じがするし、こういう空気は嫌いじゃないし。
これも『農民』の効果でもあるのかな?
さておき。
俺たちがそんなことをしていると、ペルーラさんとジェイドさんも、工房への帰り際にこっちに会いに来てくれた。
何と、もう頼んであった『お湯を沸かす魔道具』の改造が済んだのだそうだ。
物はもう工房にあるから、お金を用意して、受け取りに来なさい、って。
「早いですね!?」
「ふふん、そりゃあ、かわいい弟子の頼みだもの」
「――――――――」
「ちょっと! 旦那さま! 余計なこと言わないでっ! ……確かに、アビーさんにも手伝ってもらったから、早く仕上がったけど……」
どうやら、『改造』を面白がったアビットさんも作業を手伝ってくれたらしい。
そのおかげというべきか、ペルーラさんだけだったら難しかったであろう加工やら、細工やらも施すことができたらしい。
「ふふ、だから、良いものが仕上がったわよ」
そう言いながら、満面の笑みを浮かべるペルーラさん。
うん。
それは嬉しい。
ただ、問題は差し出された加工作業分の支払い額だな。
おそらく、ドワーフふたりがかりでの作業ということもあって、良い品物ができた分、額がちょっとえらいことになっているんだろう。
「――――――――」
「そうね。これがドワーフに仕事を頼むということよ」
どこか楽しそうな表情を浮かべているペルーラさん。
今、ジェイドさんが何を言ったのかは理解できなかったけど、ペルーラさんの言葉から推測するに、『それぐらいの価値がある』って感じで真剣な表情で頷いたようだ。
単なる『改造』って軽く考えていたけど、単純に出力をあげるだけではなくて、商売として一日中使用することを考えると、このぐらいの品質が必要になる。
だから、ペルーラさんが『ドワーフとして』依頼を受けた以上は、顧客の要望を満足させるだけに必要な『改造』を施すと、けっこうな金額になってしまったわけだな。
ドワーフメイドとして恥ずかしくないものを、と。
「じゃあ、工房で待ってるわよ」
「――――」
そんな感じでふたりは『お祭り』のフィナーレを見て行くでもなく、そのまま帰ってしまった。
元々、テツロウさんの頼みで呼ばれただけみたいだしな。
それにしても、だ。
「…………二千万Nかあ」
ペルーラさんに頼んだ時の気楽さから、ちょっと軽く考えていたけど、どうやら、ドワーフに仕事を頼むということを甘く考えていたようだ。
ちなみに、裏事情として、ペルーラさんがこっそり教えてくれたけど、当初の予定だともっと安く済むらしかったのだ。
魔道具も魔晶石も、こちらから持ち込んでいるし、そうなると技術料がメインになるからって。
いや、それでもそれなりの値段だったけどな。
ただ、その額なら俺の手持ちでもどうにか払えるレベルだった。
ところが、それを聞いたアビットさんからダメ出しを食らったのだそうだ。
『アルミナに属する者として、安請け合いは許されない』って。
いや、そのプロ根性もどうかなあ、とは思うけど、単にそれだけではないらしく、アルミナとして、他国と様々な契約を結んでいるドワーフとして、腕の安売りは許されない、って事情もあるらしいのだ。
この町の武器屋とかに卸しているような、そこそこレベルの武器とかなら、その土地土地の物価に合わせて質を調整したりもしているらしいけど、『個別』の仕事はそうはいかない、と。
ペルーラさんからも舌をぺろっと出して、ごめんね、って言われたし。
一応、救済措置として、普通に支払う以外にもいくつかの案は示してくれたし。
なので、そこまでは悲観していない。
少なくとも、頑張れば普通にアイテムを受け取れるところまでいけそうだ。
うん!
結果的に、風呂屋として使うのに最適化してもらったと思えばいいか。
こっちも仕事を頼むときに、見積もりも聞かずに金に糸目はつけません的な対応をしちゃったのにも責任があるだろうし。
うん、技術料って高いんだなあ。
ある意味、良い教訓だよ。
ともあれ。
「……とりあえずは金策だな」
「大丈夫、マスター、何とかなるわよ」
「そうだな」
気楽に言ってくるビーナスの言葉に頷きつつ。
短期間でお金を稼ぐ方法を考える俺なのだった。
少しドワーフ周りについては悩みました。
設定上、腕の安売りはできないので、『セージュが気軽にお任せにしてしまった』流れでこんな感じになってしまった、という感じです。
クエスト発生! 『20,000,000N集めよう!』ぐらいで受け取っていただけるとうれしいです。
物の価値の基準、それを決める難しさを感じております。
『長時間稼働が可能な魔道具を作って!』=『部品は持ち込むからステルス戦闘機を作って!』ぐらいの難易度かなあ、というのがざっくりとしたイメージですね。
でも、高すぎるとバランスが……。
安すぎてもバランスが……。
いや、本当、難しいです(汗)。




