第323話 農民、宿屋の話で盛り上がる
さて、ここまでの状況をまとめてみよう。
ひとまず、ケイゾウさんたちのお願いで始まった『コッコダンシング』のクエストも最終盤だ。ベニマルくんの話だと、後はこのまま、土地の安定化によって、魔法陣を定着させればおしまいらしい。
そして、『陣』を定着させた後で、やってきてくれたコッコさんたち――――本当は協力しに来てくれるはずが、今回はちょっと毛色が違ったけど――――を元の場所へと送り返して、それでこの『儀式』は完了する、と。
そういうわけで、『絆』を結べた迷い人さんたちには残念だけど、『外』のコッコさんたちに関しては、元いた場所へと帰ってしまうようだ。
横にいるネーベも、だな。
ネーベは『霊峰七山』の一角を住処にしているらしく、そっちの環境の方が暮らしやすいってこともあるので、まあ、残念だけど仕方ないよな。
当の本鳥も帰るつもりみたいだし。
一方で、今回のコッコさんたちの『狂化』モンスター化については、他の騒動と同様で原因についてはわからない、というのが現状のようだ。
ケイゾウさんが音頭を取って、外のコッコさんたちから聴取もしたらしいけど、そもそもみんなばらばらの場所からやってきているらしいので、それらしい共通点には至れなかったのだそうだ。
考えられる可能性としては、ケイゾウさんたちの『呼び声』が何らかの影響を受けていたという点だろう。
いわゆる、『狂化汚染』とも言える現象だろうか。
『儀式』そのものに邪魔が入った。
あるいは、目的などはない愉快犯の可能性もあるが、これ自体が『グリーンリーフ』周辺で起きている『異変』の一端であることは間違いなさそうだ。
カガチさんの話だと、ラルさんからも事前に警告があったそうだから、この『儀式』が始まる前から、何らかの変化が生じていた可能性もある。
クリシュナさんも残って、クエストに参加してたわけだしな。
もっとも、ラルさん自身、確信があったわけではないそうで、事態が動いた場合に限り、という条件でカガチさんに警告を入れていたらしいけど。
……あれ?
ふと思ったんだけど、あの『鎧』の件は『異変』と関係ないのか?
あの辺って、『グリーンリーフ』から結構離れた場所にあるけど、それでも『鎧』が『狂化』状態になってはいたよな?
いや、あれに関しては、そもそも『戦闘狂の墓場』のモンスターらしいから、最初からその手の特性を持っていた可能性もあるけど。
みかんは違ったよな。
ただ、『黄金実』をアルルちゃんに持っていかれて怒ってただけだし。
……考えてもよくわからないな。
結局のところ、今回の『騒乱系』を引き起こした原因については謎のまま、ってことか。
というか、ジェムニーさんも動揺してたのを見ると、もしかすると運営側としても想定外の出来事だった可能性もあるよな。
案外、運営側でも調整しきれていないバグのような要素が残っているのかもしれない。
あ、待てよ? そもそも、その手のバグを見つけるために俺たちって、テスターのアルバイトをやってるんじゃないのか?
だったら、今回のコッコさんがらみの催しは、それなりの成果を収めたってことになるよな、うん。
そう考えるとちょっと元気になるよな。
そうだそうだ。
バグ取りだよ。
このゲームが想像以上に奥が深かったせいで、そもそもの役割を忘れるとこだったな。
変な行動をしまくるのも仕事のひとつなんだっけ。
だから、不眠猫さんが毒を食べて倒れるのもテスターの役目としては合ってるってことだよ。
普通に攻略を進めるだけがテスターの仕事じゃないし。
さておき。
ここまではコッコさんがらみのイベントの話だ。
そして、ここからがテツロウさんたちの話の流れになるわけだな。
前々から話には聞いていた新しい宿屋さんを建てる『土木系』のクエスト。
それに関して、今回のイベントを通じて、いくつかの進展やら、新たな変更点やら、調整やらがあったらしくて、それで鳥モンさんたちの『家』との併設案が急浮上してきたのだそうだ。
まあ、俺も色々あった部分についてはすべて把握しきれていないんだけどな。
ただ、テツロウさんたちが教えてくれた内容のうちのひとつに、今後、ここに建つ『家』が今日、『外』からやってきたコッコさんたちの拠点になるって話があったので、あっさりと納得できた。
「つまり、ネーベたちが元のところに帰った後も、気が向いたら自由にやってこれる場所になるってことですね?」
「ああ、そうらしいんだ。ほら、セージュとネーベもそうだけどさ。他にも迷い人の中には、コッコさんたちと『絆』を結べた人も何人かいてさ。そういう人たちにとっても拠点となる場所がある方が嬉しいんだって」
「テツロウ、俺たち迷い人だけじゃなくって、町の人の中にも『絆』を結んだ人がいるからな」
「そうそう! だから、併設? でも、できれば、一体型にしちゃって『コッコさんたちが出入りする宿』ってのも良くない?」
何となく、イメージが良いもの、とメイアさんが笑う。
あー、確かにな。
他の宿とかとの差別化も図れるし、アニマルセラピーじゃないけど、鳥モンさんたちと冒険者が交流できる宿ってのは面白いかもしれないよな。
『ふうん? そういうことなら、僕らも住めるっすね?』
「そうそう! ベニっちとか話せるから、いてくれると楽しいし!」
「そうだよ! お風呂もできるし!」
『いや、僕、濡れるのはあんまり、なんすけど……』
お風呂! と少し興奮気味に語るメイアさんにベニマルくんがちょっと引いてるぞ?
「一応、各所には相談もしてみたんだ。俺から町長さんの方にも確認を取ってみたんだが、セージュの許可が取れれば構わない、って話だったよ?」
「うん、ただし、『家』を建てる手伝いはするって条件はあったけどね」
「あ、そうだったんですか」
ヤマゾエさんの方から、宿屋の立地条件については、ラルさんと交渉してきたのだそうだ。
というか、元々、俺が鳥モンさんたちの『家』を建てる場所、って決まっていたところなので、その規模を大きくする分には『結界』にも影響が出ないって感じらしい。
一応、商業ギルド経由で、新しい宿の予定地はいくつか検討されていたみたいだけど、カガチさんからも、どうせなら、町の北側の未開拓の土地を、俺たち迷い人に開拓してもらった方が都合が良いとか、そういう思惑もあるとかないとか。
まあ、な。
結果的に、荒地がより開拓されるから、町の規模を大きくしたいと思っていた商業ギルド的には問題ないんだろうな。
俺としても、これを機に、他の迷い人さんたちにも畑とか、土地の開拓をしてもらいたいと思ってるしな。
うん。
作業の分担ってのは大事だよ。
それに、俺にとっても好都合な点がある。
「ということは、『家』を建てる時に皆さんも手伝ってくださるってことですよね?」
「ああ! 当然だろ?」
「お風呂のためなら、頑張るよっ!」
「元々、宿を建てるために集まった職人さんたちも手伝ってくれるからね。たぶん、セージュたちだけでやるよりも早く作業が完了できると思うよ」
三人がそれぞれ笑みを浮かべる。
ヤマゾエさんから、『木工』持ちのエルフさんの助力も得られそう、という情報も聞くことができたし。
ただ、それ以上に俺にとって嬉しいのは『人手』だ。
あの『手順表』の性質上、魔力の担い手がいっぱいいるのは、かなりありがたいのだ。
ふふ、面白くなってきたなあ。
一応、気がかりなのは、ウルルちゃんやアルルちゃんたちのことだけど、まあ、俺が今まで出会ったテスターさんたちの印象だと、『秘密系』のままでもわかってくれる感じだよな。
何となく、で気付く人に関しては、別に問題ないし。
たぶん、ダークネルさんとかはもう確信を持ってるだろうしな。
「ネーベ、大きな家だって」
「コケッ♪」
ルーガとネーベが良かったね、という感じで話しているのを横で聞きながら。
『お風呂付、コッコさんたちが出入りする宿』の話を進める俺たちなのだった。
ようやく、『家』を建てる話へとたどりつきました。
ほんと、どうしてこんなに長くなった……。
『ちょっとコッコさんたちをいっぱい出したら楽しそう』というノリのおかげで、えらく紆余曲折をしてしまいましたが、こういう作品ということでご勘弁ください(汗)。




