第322話 農民、光コッコのことを知る
…………じゃなくて!
「違う違う、それで終わりじゃなくて、ネーベの話の途中だったよな」
「きゅい――――?」
「コケッ?」
「ぽよっ?」
俺の突っ込みにそろって、『そうだっけ?』という感じで首を捻る三匹のモンスターたち。
何となく、その仕草は可愛いな。
まあ、みかんの場合は首ってどこ? って感じではあるんだけど。
って、そうじゃなくて。
途中から、なっちゃんのパペット劇場による、ジェスチャー当てクイズに盛り上がってしまって、話の本質からずれてしまった気がする。
今度こそ話を戻すと、ネーベを始めとする、『外』からやって来たコッコさんたちはやってくる途中までは普通のコッコさんたちの召喚術だったようなのだ。
要は、それまでは正気だったってことだよな。
ただ、ネーベも不思議に思っていたのは、その召喚術の呼ばれ方だ。
俺たちも直接見ていた通り、ここでケイゾウさんたちが発していたのは、大きな声ではあったけど、正常のコッコさんたちの鳴き声だ。
少なくとも、悲痛な感じや苦しそうな雰囲気ではなかったはずだ。
にも関わらず、ネーベたちはかなり緊急性の高い呼ばれ方として受け取った。
その直後に『狂化』のバッドステータスに襲われた。
そんな感じらしいのだ。
「こういうことって、よく起こるのか?」
「コケッ! コケコケッ!」
『少なくとも、俺は聞いたことがない、って言ってるっすよ、セージュさん』
なるほどな。
ちなみに、さっきまでのなっちゃんの伝達だと細かいニュアンスを読み取るのがもの凄く大変なのと、なっちゃん自身が『土魔法』の緻密な操作でふぅふぅ言っているので、結局、ベニマルくんにご助力を願ったのだ。
うん。
やっぱり、こっちの方が早くて楽だな。
なっちゃんには悪いけど、もうちょっとわかりやすい方法があった方がいいよな。
「たぶん、これもこの『魔境』周辺で起こっている『異変』のひとつだろうね」
『そうっすね。招かれて、飛んでくる途中までは、はっきりと意識があったってのは、他のみんなも同じことを言ってるっすね。あ、そうそう、セージュさん、ちょっとびっくりっすよ』
「え? ベニマルくん、何が?」
『いや、あの『ブリリアントコッコ』のことっすよ。名前はグレアっていうらしいんすけど、まあ、名前はいいんすけど、そのグレアがどこからやって来たか、って話っす』
「どこから?」
どういうことだ?
やって来た場所がわかったってことか?
それがベニマルくんにとって、びっくりすることなのか?
『そうっす。グレアがいたところっすけど、空に浮いている島らしいっす』
「そうなの?」
あ、そういえば、スキル構成にそれっぽいものがあったような。
『空霊吸収』って。
というか、空に浮いている島って。
「ねえ、ベニマルくん、それって、あれだよね? ゲルドニアってところだよね? たしか『竜の郷』とか何とかって」
ちょっと前にジェムニーさんに教わったことだ。
空に浮く島って、やっぱり印象が強かったもんな。
だが、そんな俺に対して、ベニマルくんは首を横に振って。
『違うみたいっすよ、セージュさん。僕も驚いたんすけど、グレアがいたとこって、かの『空中回廊』らしいっす』
「『空中回廊』……?」
……って、どこだっけ?
いや、どこかで聞いたことがあるような……。
「『空中回廊』は『無限迷宮』のひとつだよー」
「あ、ジェムニーさん……あれ? 何だか、疲れてません?」
「うんー……ちょっと色々あってねー」
笑顔ではあるんだけど、どこか疲労の色濃い感じのジェムニーさん。
雰囲気的にどこかへにょんとなっているというか。
ただ、そこはさすがはナビさん。
今のベニマルくんの言葉を補足してくれた。
「『無限迷宮』の中でも唯一、上空にあるのが、その『空中回廊』だよ。他は地上だったり、海底だったりだからねー」
「へえ……ちなみに、どの辺にあるとか教えてもらっても?」
「うーん……ここは教会の基準に準じておこうかな。場所については『非公開』だよ。ヒントとしては、ゲルドニアの『竜の郷』とは違うってことだけだね」
あー、やっぱり、だめか。
たぶん、ナビさんとしての守秘義務に引っかかる情報だな、これ。
「ベニマルくんは? 細かい場所とかについて聞き取れたの?」
「ダメっすねえ。グレア自身、あんまり外に出たことがなかったらしくて、そもそも、地上に来ている状態がかなり不調の原因だったみたいっすよ」
だから、さっきもロクに身体が動かせなかったらしいっす、とベニマルくん。
いや、そうだったのかよ?
確かに、他のコッコに比べると、動きが鈍い気がしたけど、『幻』とはいえ、あの巨体を操るのは大変だからなんだと勝手に思ってたんだけど。
どうやら違ったらしい。
その『ブリリアントコッコ』のグレアにとっては、この辺の地上の環境自体が苦痛だったりするらしい。
今も、それを聞いて、慌てて鳥モンさんがラルさんのところへ行って、色々と相談してきたのだとか。
結局、ラルさんの保護を強めることで、身体へのダメージを緩和しているとか何とか。
『もうちょっとで『儀式』が終わるので、それまでのガマンっすね。ただ、こっちに迷惑をかけたって意味で、今も頑張ってくれてるみたいっす』
「……まあ、あっちでヴェルフェンさんたちが大きな身体に抱き付いてるもんね」
少し離れた場所で、そのグレアさんがまた『幻』の巨大化をしてくれて、それに喜んだ俺たち迷い人のもふもふ好きが抱き付いて、ちょっと収拾がつかない事態になってるんだよな。
何か、騒ぎに巻き込まれそうだから、あんまり見ないようにしてたんだけど。
あれもちょっと無理してたのか。
うん。
だったら、休ませてあげようよ。
変な感じで召喚されて、狂って、ぼこられて、へとへとになってるんだからさ。
何となく、『ブリリアントコッコ』さんが気の毒になってきた。
まあ、もうちょっとの辛抱かなあ。
頑張って凌いでもらいたいところだ。
「それはそうと、『無限迷宮』で暮らしてるコッコさんもいるんですね?」
「うんー。まあ、コッコ種も私たち粘性種ほどじゃないけど、多彩進化の種族だからねー。ほんと、どんな環境でも馴染めるよ? そっちの『フロストコッコ』も年中吹雪いてるような場所で暮らしてるし。たぶん、今の温度だと暑くて大変じゃない?」
「コケッ♪」
あ、そうだったのか。
ネーベは笑ってるけど、それなりにこの環境はしんどいのかな。
『フロストコッコ』って寒さにはめっぽう強いけど、熱いところだと弱体化してしまうらしいし。
そうなると、ネーベと一緒にいるのは難しいかも、か。
うーん、ちょっと残念だな。
せっかく、仲良くなれたってのに。
――――と。
俺たちがそんな話をしていると、テツロウさんやらヤマゾエさんやらメイアさんやらがこちらの方へとやってきた。
「おーい、お疲れっ! さっきは大変だったな」
「そうですね。テツロウさんもお疲れ様でした」
「ふふ、テツロウ君もセージュ君も頑張ったもんね」
お互いの健闘をたたえ合う俺たち。
まだ、『コッコダンシング』のクエストは残ってるけど、後は本当にケイゾウさんたちコッコさんたちメインで大丈夫らしいしな。
もうすでに、『儀式』に必要な魔力は十分で、すでに『陣』の形成も終わってるから、って。
だから、もう山は越えたものだと思っていたのだ。
俺も。
「でだ、セージュ、『お風呂部隊』から相談なんだが」
「えっ……『お風呂部隊』?」
あれ? テツロウさんも『お風呂部隊』だったっけ?
そんなことを俺が考えていると、その間も話は続いて。
「ああ。これ、元々はセージュがコッコさんたちの『家』を作るのが目的のイベントだったんだろ?」
「はい、そうですけど……?」
全然話の流れがつかめずにいる俺。
えーと?
どういうことだ?
「だからな」
そう言って、テツロウさんが笑って。
「その『家』と新しく作る宿屋を併設させちゃまずいか? って話だよ」
「そうそう、お風呂付き、コッコさんたちが行き来できる宿!」
「併設、あるいはひとつにまとめるか、どっちにしても大掛かりな話になるな」
テツロウさんに続いて、メイアさんとヤマゾエさんからも熱量のある話を聞いて、ようやく俺は何の話なのか理解したのだった。




