第320話 農民、戦闘の後始末を手伝う
「ふぅ……けっこう大変だな」
「仕方ないよ、セージュ。こんなに荒れちゃったんだから」
「そうよ、マスター。前の時も似たような状態からリフォームしたのよ? このぐらいで弱音を吐かないで!」
「きゅい――――!」
「わかってるって、ビーナス。悪かったよ」
戦いがひと段落して。
俺たちが今、何をしているかというと、だ。
戦闘によって、すっかり荒廃してしまった土地を元通りにする作業だな。
まあ、あれだけの規模で魔法なり何なりを使いまくったからなあ。
そりゃあ、後に残るのは荒れ果てた戦場跡というわけで。
この『PUO』って、ちょくちょく面倒だなと思うのが、こういうところだ。
ゲーム開始当初、ラースボアを倒すのに穴を掘った際も、きっちりと修復をさせられたし、鳥モンさんたちの襲来によって、滅茶苦茶になってしまった土地はビーナスたちが元通りにしたし。
こういうのって、自動修復とかされないんだな?
となると、大規模戦闘があった後は、いつもこの手の作業が加わってくることになる。
というか、壊された町を立て直すとかのイベントならわかるけど、通常のフィールドっぽい感じの場所がそうだとすると、魔法とかにしても、手加減というか、配慮が必要になってくる気がするんだが。
その辺はあんまりゲームっぽくない気がする。
さすがに一言文句を言おうと、ジェムニーさんを探したのだが、ちょっと目を離した隙に、いつの間にかいなくなってしまっていたのだ。
まあ、ナビさんも色々といそがしいのかもな。
さっきも、GMに苦情を言ってたみたいだし。
まあ、それはそれとして。
そんなわけで元通りの土地にするべく、俺たちは夜中にもかかわらず、作業を頑張っているというわけだ。
まあ、報酬の話で盛り上がった後なので、割と他の迷い人さんたちも文句も言わずに手伝ってくれているみたいだけどな。
そろそろ時間的にも夜遅くなのに、ログアウトしてしまう人も少ないし。
遠くの方に目をやると、ペルーラさんたちの指揮のもと、武器やら防具やらの回収作業を行なっている一団が見えた。
あの素材も、また工房に持ち帰って再利用するのだそうだ。
で、それを手伝うと、簡単な武器とか防具とかを作ってもらえるとか、ペルーラさんが提案したおかげで、けっこうな数の冒険者が殺到したというか。
うん。
中々、みんな現金だな。
というか、俺たち迷い人だけじゃなくて、この町の普通の冒険者の人とかも手伝っているんだよな。
それだけ、ドワーフの作る装備ってのは価値が高いということらしい。
それが例え、『簡易錬成』であっても、だ。
『ドワーフにとっては手抜き武器でも、普通の店売りのものとは質が全然違うからな。ペルーラも普段は警戒心が強いからな。こういう時の気紛れには乗っておこうというやつらも少なくはないのさ』
そう笑っていたのは、ラングレーさんだ。
この町の冒険者ギルドのギルマスさんで、『盾使い』の戦士。
俺も、戦闘が終わってからようやく、近くでお目にかかることができたけど、さすがはマスターというべきか、引き締まった良い身体をした男の人だった。
ただ、兜を脱いだあとの初対面でのインパクトはなかなかだったけどな。
赤っちゃけた髪――――まではいいんだが、その髪型が頭の左右をきれいに剃った感じの、うん、はっきり言ってしまおう。
モヒカンカットだったのだ。
まあ、世紀末で雄叫びをあげる感じよりは、洗練されたというか、どこかかっこいい系のバランスは保てているので、アリと言えばアリだが、やはりインパクトはすごい。
俺が驚くのを見て、してやったり的な感じで笑ったので、当の本人も狙っている可能性もあるけど。
案外、こっちの世界だと、こういう髪型が冒険者の間で流行ってるのかね?
そう、側にいたラートゲルタさんに尋ねてみたけど、あっさりと否定されてしまった。
まあ、ラングレーさんの趣味という感じなのだろうな。
それに見た目のインパクトはさておき、性格的には豪快だけれども、どこか落ち着いた雰囲気を漂わせるあたりは、さすがはギルドマスターという感じの風格だった。
貫禄があるし。
モヒカンで貫録を漂わせるのって、只者ではない気がするぞ?
ちなみに、そんなラングレーさんが何をしているかと言えば、何やらケイゾウさんたちとも話し合いのようなことをしていた。
どうやら、『鳥言語』もわかるらしく、ベニマルくんの通訳なしで普通に話をしていたのがすごいと思ったぞ。
やっぱり、冒険者にとって、言葉の壁を越えるのって重要なんだなあ、って。
そういう意味では、『自動翻訳』のスキルのなんちゃって感にはがっかりだよ。
こっちの言葉を覚えるのには、サティ婆さんのクエストを達成する必要があるみたいだし。
さておき。
俺たち『土魔法』を使える組は、そっちを駆使しつつ、畑をならしていく。
『身体強化』を使える人たちは、片付け関係を。
ビーナスやみかんみたいに、植生を操れるものは、そっちの微調整を。
などなど。
適材適所で、土地の修復を進めて行く。
どれにも当てはまらない人たちは、踊りを踊って、コッコさんたちの『儀式』のお手伝いを続ける、という感じだな。
その間にも、時間と相談したうえで離れて行く人もいたけどな。
いつの間にかいなくなっていたクラウドさんとかもそうだ。
テツロウさんの話だと、別のクエストが並行して動いていたので、そちらへと向かったのだそうだ。
まあ、ラルさんも絡んでいるこのクエストとは別ってことは、たぶん、『秘密系』なんだろうな、ぐらいには思った。
真夜中のクエストとか、俺はまだ当たったことがないから、そっちはそっちでちょっと興味があったんだけどな。
近いうちに色々と、このゲームについての相談に乗ってくれるって話だから、その機会を期待することにしよう。
ちなみに、ウルルちゃんやアルルちゃんたちは、コッコたちとの戦闘がひと段落したところで、サティ婆さんの家へと帰ってしまった。
もうそろそろ、眠くなったから、って。
結局、変に暴走されても困るから、そのまま、帰ってもらったのだ。
それにはサティ婆さんも付き添ってたし、そういう意味では問題ないだろう。
あと、十兵衛さんは、『ブリリアントコッコ』を倒した際に、その巨体にあった『羽根』を入手したのだそうだ。
あれって、『幻』って話だったのに、その『羽根』は残ったのだとか。
もしかして、レアドロップのアイテムかな?
他に『羽根』を拾った人がいないって話だから、戦闘中に落ちたりとかはしていないようだし。
案外、討伐者限定アイテムってやつかもな。
ちょっと羨ましい。
もっとも、十兵衛さん自体はあんまり興味がないらしく、周囲の注目もどこ吹く風で、さっさとアイテム袋にしまってたけどな。
なお、最後の方はあっさりと決着がついたせいで、十兵衛さん的には不満だったらしく、そのまま、マークさんを連れて、『森』の方へと戻ってしまった。
元々、マークさんもあんまり離れているのがまずかったらしいので、そっちの理由もあるみたいだけど、本音はもう少したぎった血を静めたいとか何とか。
うーん……。
いっそ、十兵衛さんって、例の『戦闘狂の墓場』ってところを目指した方がいいんじゃないか?
おあつらえ向きのモンスターとかいっぱいいそうだしなあ。
今度会ったら、言ってみようか。
何となく、面白いことになりそうだし。
「マスター! 手が止まってるわよ! 作業!」
「わかったわかった!」
ビーナスの声に、改めて作業を続ける俺。
『もう少しで、『儀式』が完了っすよ。あともうひと頑張りっす』
そんな感じでベニマルくんからの励ましの言葉も受けつつ。
引き続き、作業を頑張る俺たちなのだった。




