第319話 コッコダンシング終盤へ
「そういえば、このクエストの報酬ってどうなってるんだろ?」
お祭り騒ぎで、かなりの人が集まってるけど、一応はこれもクエストなんだよな?
普通に考えれば、達成すれば報酬が得られるものだとは思うのだけど。
ただ、そもそも、俺たちの場合はクエストを始めた理由が、ケイゾウさんたち、この町にいるコッコ種と仲良くなるためだったからなあ。
その発端は畑だ。
農業をやるための人手が必要で、それで鳥モンさんたちがラルさんの元から派遣されてきたわけだし。
その『家』を作る。
それが派遣の条件のひとつみたいな扱いになっていたので、そもそも、報酬という意味では、俺たちのパーティとしては、すでにもらっているようなものなのだ。
『精霊の森』に出向いている間も、きっちりと『畑の管理』の手伝いをしてくれてたものな。
だから、ぶっちゃけ、俺やルーガたちに関しては、『家』さえ建てられれば、無報酬でも問題はないのだ。
一応、この『催し』に際して、傷薬とかそっち系のアイテムを納品したりもしたけど、そっちはそもそも、薬師修行の一環でもあったしな。
素材って考えれば、けっこうな価値になるけど、品質が低くて、使い勝手が困るレベルの傷薬などの在庫を有効活用できたと思えば、そこまで悪い話じゃないし。
まあ、『お腹が膨れる水』の購入費とかで多少散財した感じはあるけど、あの辺は『魔法薬油』とかの開発費用と考えればいいだろうし。
うん。
先行投資ってやつだ。
畑の件もそうだけど、損して得取れで、後から回収できればいいって考えてるしな。
『水』に関しても、一定量での大量購入が可能になれば、今後はベニマルくんたち鳥モンさんへの報酬としても有効だし。
その辺も今後の交渉とかで活かせるだろう。
もっとも、それは俺の感覚であって、納品に協力してくれた、ハヤベルさんやヴェルフェンさん、ダークネルさんたちの考えじゃないので、そこは切り離して考える必要があるだろう。
使用した素材の補填ぐらいは必要だろうしな。
何気に『ぷちラビットの油』とかは採取までが大変だったろうし。
後は、そういうのとは別に、俺たちの呼びかけで参加してくれた人達にも当然、報酬は必要だろうしな。
テツロウさんを始めとするテスターさんとか、それ以外の町の人達とか。
うーん。
みんなが満足できるような報酬って用意できるのかね?
『あ、大丈夫っすよ、セージュさん。今、その件でケイゾウさんたちが話をつけてるとこっす』
「えっ? ベニマルくん、そうなの?」
『そうっすよ。元々、報酬については内々で決まってたみたいっすけど、今回、ちょっと予定外のトラブルがあったわけっすから、そっちの交渉をやってたみたいっす』
俺のつぶやきに、ちょうど近くまでやってきていたベニマルくんが反応してくれた。
もう既に、さっきまで纏っていた炎は消えて、いつものベニマルくんの姿になっているようだな。
それはそれとして。
どうやら、ケイゾウさんが色々と考えてくれていたらしいのだ。
ふうん?
それは初耳だな。
確かに、今回のクエストって、ケイゾウさんたち発のものになるから、報酬があるとすれば、コッコさんたちから、ってことになるだろうけど。
てっきり、ラルさんとかが請け負ってくれるものだと思っていたぞ?
「へえ、そうなのか、ベニっち? 俺とか一応、無報酬も覚悟してたんだけど」
「あれ? テツロウさんはそう考えてたんですか?」
「まあな。てか、名目上はクエストだろうけどさ、これ、一応お祭りだろ? なら、『お祭りに参加するから報酬くれ』ってのはちょっと違うと思うんだよなあ」
無粋というか、そういうのって自主参加だろ? とテツロウさん。
と、周りにいた他の迷い人さんたちも。
「そうね。貰えるものはありがたく貰うけど、このイベント自体が楽しかったものね」
「うむ、βテストが始まって以来の、大規模イベントだしな」
「鳥さんたちと仲良くなれたしねっ」
「だな。正直、それがでかい。何となく、テイムのためのやり方が見えてきたしな」
「奉納したアイテムとかはいいんですか?」
「あれ、いらないものとかも奉納してるからなあ」
「そうそう、アイテム袋の肥やしになってるものとかね」
「俺は奉納で、あのきれいな町長さんと親しくなれれば、それでいいぞ」
「あー、そういう条件もあるかもな」
「ふふ、いっぱい奉納すれば、この町の権力者からも覚えがめでたいかもね」
「私はスキルの使い方かなあ。けっこう、みんなが『けいじばん』とかで隠してた能力とかも見れたから、それが良かったわ」
「そうだにゃ。にゃあも、もうちょっと『絵師』のスキルを鍛えようと思ったのにゃ」
「あ! 地図を描ける能力って貴重だよな!」
「少なくとも、参加できて、この町の人達との一体感は感じたかな。普段はあんまり会わない人たちと話もできたし」
「少なくとも、その辺のNPCでも強いってのはわかったな」
「あっちこっちに実力者が隠れてる感じだぜ」
ふうん?
意外と、報酬にこだわってる人って少ないのかな?
もちろん、何人かは手持ちのお金にあんまり余裕がないので、報酬があった方が嬉しいって感じらしいけど。
ただ、これがあくまでもゲームだってことで、そこまでお金にこだわっていない人も多いようだ。
まあ、クラウドさんとかに聞いたところによると、ほとんどがVRゲーム自体が初めてだって話だから、俺とかテツロウさんとか、メイアさんとかみたいなゲーム好き以外は効率重視の考え方とは無縁なのかも知れないよな。
というか、俺もどっちかと言えば、そっち寄りだし。
ただ、それはそれとして、ベニマルくんの話だと、きちんと報酬は出るそうだ。
まあ、俺たちも少しもらえれば嬉しいかな、ぐらいに考えていたんだけど。
ベニマルくんが語った、その内容が思った以上に爆弾発言だったのだ。
『ケイゾウさんたちの報酬は、ほら、たまごっすよ』
「えっ!? たまご!?」
『そうっす。コッコ種のたまごっす。ふふ、あれ、美味しいんすよね。『森』の中でも魔晶とかと同じぐらいの価値で取引されてるっす』
通貨みたいなもんっすね、とベニマルくんは朗らかに笑う。
コッコ種ががっちり護っているから、めったに手に入らない、って。
そう、たまごだ。
当然、コッコが鶏系のモンスターということは、たまごのイメージが強くある。
それに、前にサティ婆さんからもコッコ種のたまごについては聞いていたし。
素材としても食材としても品質が高いたまご。
ただし、それを得るためにはコッコ種から認められないといけない、って。
何せ、コッコさんたちが例の『召喚術』を身につけたのだって、たまごを護るためだって説もあるぐらいだから、ある意味でよっぽどなアイテムなんだよな。
そして、この町の、特に迷い人の一部にとっては。
「たまごっ!? たまごがあるのっ!?」
「蛇のたまごでなく!?」
「新しい食材だなっ!?」
「ドランさんも言ってました。コッコのたまごを入手するのはかなり難しいそうです」
「ねえねえ! 他に甘い食材はないのっ!?」
「お菓子の可能性……」
「今、みかんみたいな果物を栽培中だって」
「あ、そう言えば、みかんって、美味しそうかも……」
「ぽよっ――――!?」
あー、みかんがビーナスの後ろに慌てて隠れちゃったぞ?
というか、想像以上に、このゲーム内での飯の問題が大きくなってるってことだろうな。
一応、ユミナさんがせっせと新メニューを作っているおかげで、いももちを始め、それなりに食べられるものも増えては来ていたけど、それはそれとして、食べられる食材の裾野を広げていくのは重要なことなのだ。
何せ、調味料は今のところ塩だけで、しょうゆや味噌は論外としても、砂糖やハチミツのたぐいですら、この町だと入手困難って話だし、元となる食材についても、かなり限定されているのが現状だったからな。
鳥モンさんを倒せれば、鶏肉って選択肢もあっただろうけど、ぶっちゃけ、今のコッコさんたちとの関係を考えると、何となく鶏肉も食べづらい状況だし。
牛は教会のホルスンがいるけど、カミュからもNGにされちゃったしな。
川魚も毒対策が必須、と。
今のところ、うさぎと蛇がこの町の主食だったんだからなあ。
そこへ来て、コッコさんたちが自ら、たまごを分けてくれるとしたら、これはちょっと大きな出来事だぞ。
「ベニっち! それ本当!?」
『そ、そうっすよ? てか、皆さん、ちゃんと戦闘中も命を護ってくれたじゃないっすか。だから、ケイゾウさんたちも、そっちの外の鳥たちから譲歩を引き出しやすかったんすよ?』
テツロウさんの剣幕に少し怯えつつも、ベニマルくんがそう答える。
あ、そういうことか。
今回の報酬のたまごって、ケイゾウさんたちだけじゃなくて、『狂化』していたコッコさんたちからも、ってことなんだな。
「コケッ♪」
ネーベの方を見ると、笑みを浮かべて頷かれた。
何となく、氷属性のコッコのたまごって、貴重な感じがするよな。
結局のところ、この町の人たちへの報酬としても、『外』のコッコ種のたまごってのは有効らしくて、そっちで帳尻を合わせる感じになるようだ。
そのまま、たまごとして使ってもよし。
売ってお金に替えるのもよし。
そういう意味では、普通の冒険者にとっても、コッコのたまごはレアアイテムになるのだとか。
『もちろん、報酬の受け渡しはクエストが終わってからっすけどね』
「ようし! そういうことなら、みんな! もう一頑張りしようぜ!」
「「「おおっ!」」」
テツロウさんの言葉に、歓声をあげつつ、みんなで盛り上がって。
もうちょっとだけ、お祭りの夜は続くのだった。




