第316話 農民、狩人少女に謎スキルの使用を促す
「『石礫』――――!」
『行くっすよー! 『炎の槍』っす!』
『あれか。幻ってことは、各部位集中撃破の方がいいのか?』
『足の部分を無くさせて、こけさせるぞ――――』
『コッコだけに?』
『おい! つまらないこと言ったの誰だ? 後で罰ゲームな!』
『ははっ! 面白ぇな! 斬った感触が生々しいのに、これで偽もんか!』
『すげぇ……相変わらず、よくあれだけ至近距離で攻撃できるよな』
『おい、ペルーラ、ジェイド、まだ行けるか?』
『ああ、このぐらい余裕よ。アルミナでの修業とか、修羅場はこんなもんじゃないもの……ふふふふ……』
『――――――――』
『あ、ごめんごめん、旦那様。ちょっと思い出して、思考が飛んでたわ。でもねえ、冗談じゃなくって、アルミナの『炉』を使った作業だと、本当に不眠不休で延々と作業が続くから……まあ、この程度ならねぇ。『巨大変異種』との戦闘が長時間になるのって、割とよくあることでしょ?』
『……鍛冶馬鹿力』
『うん? 何か言った?』
『ほんと、鍛冶作業に関するドワーフって、タフだよなあ』
『……これ、鍛冶作業なの?』
状況は相変わらず。
ただ、他のところで暴れていたコッコたちは、有志のおかげで無力化できたので、後はこの『ブリリアントコッコ』をどうにかするだけでよくはなっている。
とりあえず、このクエストも大詰めだな。
で、今もなお、総攻撃は続いているんだが、魔法などによる遠距離攻撃が乱発されているおかげで、接近戦での攻撃手段しかない人たちには下がってもらっている。
というか。
そもそも、ペルーラさんとジェイドさんによる、全方位型の武器投擲が延々と続いているせいで、危なくって近づけないってのが現状なんだが。
いや、そんな中でそれらの攻撃を掻い潜って、普通に攻撃に混じっている十兵衛さんは何なんだって話でもあるんだが。
近づいたことで余計にわかるのだが、あの人って、背中に目がついてるのかね?
俺の『石礫』とかも乱射状態だと、的をしぼるのが難しいので、うっかりギリギリのところで、十兵衛さんにぶつかりそうになったんだけど、それもあっさりとかわして、『気を付けろよ』って笑ってるし。
『鎧』の時のユウや俺の回避は、ほとんど『雷レーダー』のおかげだしなあ。
もしかして、今の十兵衛さんも何か能力を使ってるのか?
案外、プレイヤースキルだけの可能性もあるけど。
「ぽよっ!」
「クエッ――――!」
「マスター、戻ったわよ。それで、こっちはどんな感じ?」
「『けいじばん』とかで流してる通りだよ……って、ビーナス、ステータス画面は開いてないのか?」
「だって、あれ、周囲を探る時に邪魔なんだもの」
他のコッコたちの討伐に動いていたビーナスたちが、こちらへと戻って来た。
とりあえず、ビーナスも、一緒に動いていたカールクン三号さんも、それほど大きな傷とかを負うこともなく、コッコたちを倒すことができたようだな。
まあ、ひとつだけ。
みかんの身体が、さっき別れた時よりもかなり大きくなってるのが気にはなったが。
「随分、大きくなったな、みかん」
「ぽよっ♪」
「『おなかいっぱい♪』ですって。まあ、『森』で最初に会った時ほどじゃないけどね」
そう言って、みかんの言葉を通訳しながら苦笑するビーナス。
まあ、あの時は本当に『お化けみかん』って感じの大きさだったからなあ。
今は精々が一メートルぐらいの大きさだよな。
うん。
冷静に考えると、これも十分お化けだよなあ。
少しずつ、こっちの世界の常識に毒されてるような気がするぞ。
さておき。
「でも、今の状況だと、全然倒せそうな感じがないわよね、マスター」
「ああ。下手をするとみかん以上にタフだぞ、あいつ」
「ぽよっ!」
「ねえ、セージュ、みかんが怒ってるよ?」
「あ、ごめんな、みかん。そうだよな、みかんの方が強いよな」
「ぽよっ♪」
何となく、その大きさでみかんが体当たりをしてきそうな雰囲気だったので、慌てて謝る。
――――と、横にいたテツロウさんが苦笑して。
「いや、セージュ、冗談やってる場合じゃないぜ? 今のままだと本気でキリがなさそうな感じだぞ?」
「そうね。周囲の『小精霊』の量も十分すぎるわね。この削り方だと、朝までどころか、いつ終わるかわからないわよ?」
テツロウさんの言葉に、フローラさんも同意する。
あ、やっぱり、そんな感じなんだ?
フローラさんたちの話だと、あれだけ『ブリリアントコッコ』が『偽体』の再生に消費しているにも関わらず、この辺りの『小精霊』の総量が減っている感じがほとんどないのだそうだ。
今のままだと、延々と回復アイテムを使われている状態と変わらない、って。
いや、でも、どうすればいいんだよ、こんな状況?
「いっそ、穴掘って埋めてみますか?」
「窒息狙いか?」
「素直に埋まってくれるなら、それも面白いけどね」
ちょっと難しいんじゃないの? とフローラさんが首を横に振る。
まあ、確かに、あの巨体で暴れられたら厳しいよな。
「ただ、俺たち、迷い人の場合、攻撃手段が限られるじゃないですか」
少なくとも、俺とかは自分でできることはやってるからなあ。
もっとも、武器は折れて、爪は近づけないからダメで、『土魔法』も頼りの『石礫』もほとんど効いてない、と。
後は『緑の手』とかそっち系だけど、そっちは効果がよくわからないし。
触れなきゃいけないとは思うけど、それも不明なんだよなあ。
「あ、そうよ。ルーガのあの光の槍は?」
「きゅい――――♪」
「あー、そういえば、ルーガ、そんなの使ってたよねー」
思い出したように言ったビーナスの言葉に、なっちゃんやウルルちゃんが頷く。
確かに、ルーガの謎攻撃って、あの『鎧』を倒したとも言えるよな。
あれがなければ、能力発動が続いたままで、俺とかも『死に戻っ』ていたはずだし。
それを聞いて、テツロウさんとかも興味深そうな顔をして。
「そうなのか? そんな攻撃手段があるのか?」
「そういえば、オットーもそんなことを言ってたわね……」
「うーん……でも、あれ、わたしもよくわからないんだよ? 前にセージュに聞かれた時にも言ったけど」
「結局、カミュが戻って来てから確認、って話になったんだよな」
ルーガが目が覚めた後、一応、『光の槍』についても聞いてはみたけど。
その辺は、カミュも言っていたように、ルーガ自身は能力について、ほとんど何もわからない、って感じだったのだ。
名称が『聖術』だか『光閃』だか。
それにしたところで、『聖術』ってルーガが唱えれば、発動できるってだけで、『聖術』ってカテゴリーの中に『光閃』って技があるのか、そもそも『聖術』=『光閃』なのかもよくわからない、と。
おまけにカミュのサポートなしだと、今のルーガの場合、あっさり気絶してしまうほどに消耗が激しい能力みたいだし。
だから、気軽に『ちょっとやってみて』って感じにもならなかったのだ。
「使った後、すっごくだるくなるの」
「結局、どういう能力なんだろうな?」
「私も見てみないとわからないけど……『光魔法』じゃないのよね? ウルルたちの話だとそれに近いってことらしいけど?」
直接見ることができれば、何かわかるかも、とはフローラさんの談だ。
あ、そうだよな。
フローラさんなら、カミュとかにも引け劣らないもんな。
もしかしたら、どういう能力か、教えてもらえるかもしれないよな。
俺の方からも、ルーガにそう言って。
「今だったら、ラルフリーダさんのフォローもあるだろうし、いきなり気絶とかにならないんじゃないか? せっかくだし、試してみたらどうだ?」
「うん……そうだね、セージュ。わかった。やってみる」
俺の言葉に頷いて、ルーガが右手を伸ばして、手のひらを広げた状態で身体の前へと構える。
そして、それを『ブリリアントコッコ』が暴れている方へと向けたかと思うと、そのルーガの右腕が光を纏って。
「いくよ――――『聖術』!」
腕に纏われた光が、突然増幅されたかと思うと、そのままルーガの手を離れて。
次の瞬間、槍状の形態と化した光は『ブリリアントコッコ』へと向けて、勢いよく放たれて。
その場にルーガが崩れ落ちるのと。
光の槍が『ブリリアントコッコ』を貫くのと。
そのふたつが同時に起こった。




