第312話 農民、ブリリアントコッコに近づく
「それじゃあ、穴埋め作業をよろしくね」
「きゅいきゅいきゅい――――!」
「「「コケッ!」」」
さっきまでの手順通りに、俺となっちゃんで『サンディコッコ』たちを地上に打ち上げて、その飛ばされたコッコをルーガやテツロウさんたちが狙って、割とあっさりと残りの『サンディコッコ』も正気に戻すことができた。
さっきまでの十数羽と違って、今の三羽は無力化するのに、それなりに加減をしたせいか、割とあっさりと現場復帰してくれたのだ。
なので、なっちゃんの通訳を通して、その三羽には、穴だらけになった地面を埋めてもらうのをお願いしたのだ。
いや、穴だらけにしたのは誰だって話だけど。
ごめんなさい、俺です。
まあ、コッコさんたちを正気に戻すためだから、仕方ないよ、うん。
ちなみに、さっきまでの『サンディコッコ』がどうなったか。
結論から言うと、動けなくなったコッコさんたちのために『救護班』みたいな班が追加されたことから、お察し頂こう。
さすがに過剰すぎる集中砲火はやめましょう、というお達しも来たしなあ。
そういう意味ではさじ加減が難しいクエストだよ。
なお、その『救護班』だけど、生産職の親方さんとか、道具屋のキャサリンさんなどが中心になって動いてくれたのだ。
これも、テツロウさんが町の人たちにも声をかけてくれたからできることだよな。
ほんと、凄いよ。
「あと残ってるのは、『ブリリアントコッコ』とかですね?」
「正確にはその他に『クイックコッコ』の群れと『ナイトメアコッコ』、それに『レッドコッコ』と『コッコゴースト』もちょいちょい、な」
『フロストコッコ』は数が少なかったな、とテツロウさん。
あれ?
もしかして、ネーベの他にはやってきてないのか?
まあ、ベニマルくんもめずらしいとか言ってたから、実は氷コッコって数が少ないのかもしれないよな。
他の木属性のコッコとか、水系統のコッコは攻略済みらしい。
『サンディコッコ』も片付いているから、もう残ってるコッコの方が少ないもんな。
いや、途中から、町の住人の助っ人がどんどん増えたから、何だかんだで数で押し通した感じではあるんだけど。
何せ、余裕が少し出てきたせいか、カガチさんを始め、『商業ギルド』系の人たちを中心に、また南の方の区画で出店が再開されたしな。
……いいのかね、これ?
まだクエストの最中だけど、食べ物を売っているお店が出てるぞ?
というか、正気に戻ったコッコさんとかも石みたいなものを払って、ごはんを買ってるし。
前にベニマルくんが言ってたように、モンスターの間でもそういうのって流通してるのな? 貨幣っぽくはないけど、『商業ギルド』が受け取ってるってことは、あれも一応はお金として使えるものってことだろうし。
「良いんですかね? まだ『ブリリアントコッコ』が残ってますけど」
「悪いな、ちょっとヘルプを呼び過ぎたかも、だ。町にいる戦えそうな人がほとんど駆けつけてくれたからな」
さすがにこの状況だと人が余るからなあ、とテツロウさんが苦笑する。
どのぐらいの人が協力してくれるかわからなかったから、って。
なので、テツロウさんの知り合いに片っ端から連絡したらしい。
うん。
サティ婆さんとか、神父のタウラスさんの姿もあるもんな。
これ、明らかに過剰戦力だろ。
一応は、クエストに関しては、俺たち迷い人中心で頑張れ、って配慮はあるみたいだけどな。
だから、カガチさんたちがお店を再開したってのもあるのだろう。
時間的にはもうすっかり夜だけど、『儀式』の効果で、あちこちから発光現象が続いているので、それなりに明るいしな。
「もう、どうやって、あのコッコを倒すか、ってのに興味が移ってるみたいだぜ? ほら、見物客みたいなのが遠巻きになってるだろ?」
「あ……本当ですね」
「まあ、これも含めて『お祭り』ってことでいいんじゃね?」
テツロウさんはテツロウさんで、大分、指示をする内容が少なくなったようで、この手の会話にも余裕が出てきてるし。
とりあえず、ようやくではあるけど、『ブリリアントコッコ』の近くまでたどり着けそうだしな。
「ただ、まだ油断できないのには変わりないけどさ。あのでっかいのには攻撃が効いてないわけだし」
どうにか攻略法を見出さないとな、とテツロウさんが少し真剣な表情を浮かべる。
いっそ、集中砲火でもしてみるか、って。
うーん。
集中砲火か。
確かに、あのコッコがみかんみたいな能力持ちなら、そうでもしないと体力を削りきれないだろうしなあ。
あ、そうだ。
戦力と言えば。
「テツロウさん、クリシュナさん、ここにいます? さっきから探してるんですけど、見た感じどこにも見当たらないんですよ」
さっきの『心話』だっけ?
それで会話して以降、地上に戻った後もずっとクリシュナさんのことを探してはいたんだけど、全然見つけられないのだ。
もしかして、もう結界の外に行っちゃったのかね?
クエストの条件だと、外には出られない、って言ってたけど、何となくクリシュナさんの場合、あんまり関係ない気もするし。
普通に、ぽーんと結界をすり抜けて行けそうなんだよなあ。
「ああ、実は俺も気になってたんだよな。ログには行動が残っているんだけど、姿が見えないんだよ。コッコによる魔法攻撃とか撃ち落してくれてるみたいだから、間違いなくどこかにいるはずだけどな」
「あ、やっぱり、ログでわかるんですね?」
「と言っても、簡単な行動だけだぞ? さっき、セージュ宛てで何かやってたみたいだけど、それの時は黒塗りだったしな。ほら、写る楽さんが『死に戻っ』た時と、ほぼ同じぐらいの時な」
何やったんだ? と尋ねてくるテツロウさん。
「あの時は警告されました。どうやら地面を深く掘り過ぎるとダメみたいですね」
「あー、そっかそっか。穴掘りってまずいんだっけな」
俺の言葉にあっさり納得するテツロウさん。
それに対して、心の中でごめんなさいと謝る。
間違ってはいないけど、どうして、深く掘り過ぎるとまずいのかについては触れられないんですよ、ええ。
というか、写る楽さんが『死に戻っ』たのって、あの時か。
あれ……。
もしかして、俺に警告してて、クリシュナさんのフォローが間に合わなかったんじゃないだろうな?
……うん。
そこは考えないでおこう。
「少なくとも、この辺にいるのは間違いないんですね?」
「と思うぞ? まあ、ログが百パーセント正しいとも限らないけどさ。いない者の行動を偽る理由がわからないからな。逆ならまだしも」
まあ、確かに。
行動を隠蔽するんじゃなくて、その逆だもんな。
「確か、クリシュナさん、『認識阻害』っぽい能力も持ってましたから、そっちの影響なのかもしれませんね」
「へえっ! そうなのか!?」
「はい。背中に乗せてもらった時、町中を移動しても誰にも気づかれませんでしたし」
あの時は、一陣の風が吹き抜けたって感じだったもんな。
道を歩いている人たちの反応って。
まあ、さっきの『心話』でも、自分のことを『お目付け役』とか言ってたから、積極的に介入って感じでもないのだろう。
その辺は、後ろにいるウルルちゃんたちとおんなじだよな。
あくまでも想定外のトラブル対策とか。
ケイゾウさんたち、コッコさんを護るため、とか。
何となく、そっちにクリシュナさんが力を注いでいる感じに思えるし。
「ねえ、セージュ。そろそろ、狙える距離だよ?」
「あ、そっか。テツロウさん、試しにいいですよね?」
ルーガの弓攻撃、とテツロウさんに確認して。
「ああ、問題ない。頼むぜ、ルーガ」
「だってさ。あ、ルーガ、他の人もけっこういるから、当たらないように気を付けてな」
「うん、わかった」
攻撃が通らないってのが、どういう感じなのか。
それを確認する意味でも。
あの『ブリリアントコッコ』に向けて、ルーガに弓で狙ってもらう。
「いくよ――――!」
コッコの頭を狙う軌道で、矢が打ち出されて。
それが、あの大きなコッコとの戦闘の始まりとなった。




