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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第8章 家を建てよう編
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第311話 農民、考える

「もしかすると、その辺が『ブリリアントコッコ』を倒す鍵になるかもな」


 そう言って、テツロウさんが俺たちを引き連れて移動を始める。

 今、一緒について来ているのは、俺とルーガ、なっちゃんにネーベ、そしてウルルちゃんたち『精霊の森』組だ。

 ビーナスはみかんを連れて、別行動。

 ベニマルくんも『レッドコッコ』狩りを任されたので、そっちを優先してもらっているので別行動だ。


 他のパーティの人たちもそれぞれ、別の動きをしているし、俺たちも頑張らないとな!

 移動しながら、残っている三羽の『サンディコッコ』を正気に戻して、そのまま、『ブリリアントコッコ』への攻撃サポートに向かう、と。


 やっぱり、あの『ブリリアントコッコ』が頭一つでかいからな。

 一応、ここ町中なんだけど。

 ちょっとした怪獣映画みたいになってるもんな。

 あんなの暴れられたら、こんな穏やかな町、あっという間に潰されてしまいそうだ。

 まあ、ラルさんの結界も大したもので、何度か『ブリリアントコッコ』もその結界に弾かれて、戻って来ているから、少なくとも、この荒れ地から出られないようではあるけど。


 ただ、やはり、十兵衛さんのヘイト稼ぎが上手い、というべきか。

 ほとんど、十兵衛さんと一緒にいるマークさんに、あのコッコの攻撃が集中してるもんな。

 残りの外への攻撃についても、冒険者ギルドのマスターのラングレーさんが『盾』で防いでいるし。

 あの巨大な、ビルの十階ぐらいには届きそうなコッコの『蹴り』攻撃を抑え込むなんて、そもそもびっくりだし。

 あの『盾』どういう能力なんだよ?

 大きさが変えられる魔道具らしいけど。


 というか。

 ゲームの中とは言え、あれだけ敵モンスターが大きいと、ちょっと怯むのが普通なのだろうな。

 他のVRゲームで、巨人と戦うゲームとかもあったけど、あれだって、ヘッドセットタイプだから、五感共有ってわけじゃなかったし、操作は手に持ったコントローラーだったからなあ。

 確かに怖いし、リアルではあるんだけど。

 実際、攻撃を受けて、飛ばされる時の視野のぐちゃぐちゃっぷりは、あれはあれでリアルだったのを覚えている。

 ただ、この『PUO』の場合、そういうのと比べても頭一つ抜きんでているんだよなあ。


 要するに、他のVRゲームではまだ再現できていない、最後の五感。

 『触覚』のリアリティ。

 他のVRゲームでも、『視覚』『聴覚』『嗅覚』はほぼ再現できているし、『味覚』についても、某料理科学の研究者が脳で感じ得る味の再現に関しては、ほぼデータ化は可能である、としているとか、そういう話もあるし。


 だが、最後に残った『触覚』。


 これだけは、再現困難である、というのが現時点でのコンシューマーゲームの限界であったはずだ。

 ゲームセンターとかの筐体で、『風の流れを作る』『水滴を垂らす』などで外部刺激を混ぜることで、よりリアルな表現へとは近づいたけど。


 それでも。


 やっぱり、この『PUO』の技術はレベルが違うのだ。

 それは、ゲームへの没入感という意味ではプラスの効果も多いのだが。

 やはり、デメリットも存在してしまう。


 『解体』の実演の時に、ファン君たちが言っていた言葉を思い出す。


『セージュさん……これってゲーム、なんですよね?』

『切ったら血が出る、それは当たり前のことだと思いますけど……』

『でも……僕はやっぱり怖いです』


 セージュさんたち、酪農をされてる人にとっては、普通のことかも知れませんが、ごめんなさい、って。

 それを聞いた時は、むしろ、その歳でそこまでの考えに至る、ファン君の方がすごいと思ったんだよな。

 普通は、もっと、単純に、さっきまで生きていたものをさばくなんて気持ち悪い、って感覚に陥ると思ったし。

 少なくとも、過去、俺の友達でもそういうやつの方が多かったしな。

 むしろ、自分が変わってるんだ、って自覚もあったし。


 ただ、同時に、あの時のファン君が怖がっていたこと。

 それが。


『でもさ、ファン君もさっき、ぷちラビットにナイフを刺してたよね? そっちも血が出たと思うんだけど、それは怖くなかったの?』

『そうですね……むしろ、今思うと怖いです』

『え……?』

『……うまくは言えませんけど、『怖くなかった』自分が怖いです』

『…………』

『ふふ、でも、これも修行だと思えば大丈夫ですよ、セージュさん。今までももっと厳しいことだってありましたしね』


 あの時は、そう言って、ファン君がにっこりと笑って、話は終わったのだ。

 結局、素材が少なくなっても、ヨシノさんの『解体』スキルを使う方が無難、という結論が出て。

 モンスターと戦うのも、『何事も経験です』というファン君の言葉に流されて、それで終わった……んだけど。


 そこでもやはり違和感は残ったのだ。


 あの後、ゴーレムと遭遇したり、ミスリルをゲットしたり。

 色々あって、つい忘れてしまっていたけど。


『何かを斬れば、血が出るのは当たり前だぜ?』


 そういう十兵衛さんの言葉も、むしろ俺にとってはそれが普通の認識だったので、気付きにくかったけど。

 さすがにゲームで再現するには、行き過ぎた表現であることは否めないよな。


 怖い。

 怖さ、恐怖感。

 そのすべては、肌感覚によるものだ。


 見えているだけ。

 聞こえているだけ。

 匂いがするだけ。


 それだけなら、やはり、そこまで怖さが伴わないのだ。


 ラースボアの巨体を間近で見たのは、倒された後だったので大きさに驚きこそすれ、そこまでの恐怖は感じなかった。

 それでも、その巨体を処理しながらも現実感に乏しいだけの存在感は感じた。

 逆に、ミスリルゴーレムは自分の大きさの倍ぐらいだったにも関わらず、その迫力に足が竦んだ。

 ゲームだって、認識を強く思うことで感覚を麻痺させた、という感じだ。


 そこにある、という感覚を肌で感じること。

 それがもし再現されてしまえば。

 例え、VRの世界のことだとしても、やはり人は本能的に恐怖を呼び起こされるのだろう。


 この場合は、『ブリリアントコッコ』の巨体、だ。

 あれが生きていて。

 自分たちも生きていること。


 そのことが嫌というほど実感させられた時、そこに『怖さ』が生まれる。


 だから、十兵衛さんが戦っている、というより。

 十兵衛さんだけが、『怖さ』以上の何かで、その『怖さ』を抑え込んでいる、と。


「……でっかいモンスターを相手取るのって、慣れるものですかね?」


 何となく。

 不意に浮かんだ疑問を口にした。


「うーん……まあ、慣れるっちゃあ慣れるんじゃね?」

『少なくとも、一度目よりも二度目の方が恐怖感は少ないだろうな』

『まあ、怖いけど、ゲームだからねえ』

『私は今もまだ怖いです』

『巨大変異種は滅多に現れるものではない……まあ、少しばかり発生が続いているがな』

『正直、接近戦は無理ね』

『あの大きな身体で俊敏に動かれると、やっぱり怖いぜ? まるで自分が小人にでもなった気分になるからな』

『うん、さっきも身体が動かなかったもの。ラングレーさんが助けてくれなかったら、って思うとぞっとするわ』

『そうだなあ……ただ、俺、何となくだけど、武器を持って、それを振るってる時って、不思議とあんまり怖くないんだよね。何でか知らんけど。俺、けっこう、スプラッタ系は苦手だったはずなのに、槍を振るってる時は意外と大丈夫なんだよなあ』

『あ、それはわかるかも』


 うん?

 俺の疑問を気にしてくれた人たちが色々と意見を返してくれたけど。

 その中で、ヤマゾエさんが発した言葉。

 それがもの凄く、腑に落ちた気がした。


 直後にメイアさんも同意してたけど。


 ――――武器を振るっている時は恐怖感が緩和する。


 これって。

 システムの補助――――か?


 ファン君の言葉をもう一度思い出す。


『……うまくは言えませんけど、『怖くなかった』自分が怖いです』


 戦っていない時の恐怖感は現実の時のそれだ。

 だが。

 戦闘中の恐怖感は、緩和されている可能性がある、か?


 その感覚には覚えがある。

 あの『鎧』と戦っていた時、恐怖よりも昂揚感があった。


 ……待て。


 ひとまず、ずれた方向へと考えるのをやめろ。

 今、重要なことは何だ?

 『狂化』コッコをすべて倒すこと、だ。


『セージュ君、色々と思うことはあるだろうけど、今はこのクエストを達成することを考えた方がいい』

「はい、そうですね、クラウドさん」


 後で相談に乗るよ、と続けるクラウドさんの言葉に頷く。

 うん。

 そうだよな。

 クラウドさんは、ゲーム業界のプロフェッショナルだもんな。

 後で、自分の考えを話してみるのもいいかもしれない。


「ありがとうございます」


 そう、クラウドさんに『通信』を返して。

 ターゲットの方へと意識を戻す。


 そもそも、まず俺が、俺たちが倒すべきは、残っている『サンディコッコ』だ。

 そう考え直して。

 今度はネーベの他になっちゃんも一緒に、地面の下へと潜る俺なのだった。

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