第308話 農民、氷コッコと地面の中を進む
そのまま、颯爽と地面を掘り進めていく俺だったが、その直後に少しばかり予想外のことが起こってしまった。
「コケッ!」
「えっ!? お前、ついて来たのか?」
「コケッ!」
何だか、後ろからコケコケと声がすると思ったら、俺が掘った穴の中を通って、フロストコッコのネーベが後をつけて来ていたのだ。
そういえば、こいつ、『絆』を結んでから、黙って一緒に来てたんだよな。
どうやら、俺が取り立てて指示を出さなかったせいで、そのままくっ付いてきたらしい。
いや、その身体で無理やり入って来たなあ。
ネーベの体格だと、羽根を広げたりするにはちょっと穴が小さいし。
なので、少し穴の幅を広げて掘ることにする。
と、それはいいんだが。
「大丈夫か、ネーベ? 俺の場合、生き埋めになっても種族特性で呼吸できるけど、お前、そういうことできないだろ?」
だから、地上へ戻ってくれ、とそのつもりで忠告すると。
「コケッ――――!」
「えっ……? あ! 俺が掘った穴が氷漬けで補強されてるのか?」
「コケッ♪」
おおっ!
すごいな、ネーベ。
あっという間に土の壁が凍結されて、そのまま固定されてるぞ?
へえ、『氷魔法』ってこういうこともできるのか。
さっきまで、単なる穴だったのが、ちょっとしたトンネルっぽくなってるもんな。
シールド工法とまでは行かないだろうけど、ちょっと強度があがったかもなあ。
まあ、当の本人……本鳥がやる気なら止めないけどさ。
何だかんだで、ネーベの方が俺よりも身体のレベルも高いしなあ。
「じゃあ、このまま、作戦通りに行くぞ」
「コケッ!」
頷くネーベを背に、改めて、俺は前方の土壁に触れながら、周囲の状況を確認する。
今の俺のレベルだと、半径十メートルから二十メートル前後、ってとこか?
そのぐらいの範囲なら、どういうものが埋まっているのか何となくわかるのだ。
生体ソナーみたいな能力だよな、これ。
そう考えると、『土の民』って、やっぱり人間とは別の種族なんだろうな。
この範囲内だと、右前方の方になっちゃんの掘った縦穴がいくつか確認できて、その逆、左の方には大きめな生き物が地面の中を移動しているのが感じ取れた。
たぶん、この生き物が『サンディコッコ』だろうな。
大きさは俺よりも少し小さめなぐらい。
それが三つ。
左前方から左方向にかけて、感知できる範囲ぎりぎりのところを動き回っているようだ。
「あ、なっちゃんの穴に近づいてるのもいるな」
どうやら、単に逃げてるだけじゃなさそうだな。
まだ戦意は喪失していないようだ。
向こうは俺のことに気付いていないのか?
よし。
じゃあ、まずはなっちゃんに近づいているコッコから狙うか。
そのまま、穴を掘り進めて、『サンディコッコ』がなっちゃんたちと遭遇する前に回り込んで、っと!
「KOKEEEっ!?」
「うわっ!?」
「コケッ!?」
突然、硬いもの同士がぶつかりあったような衝撃を受けて、俺の身体が後ろへと押し戻された。
幸いというか、後ろにいたネーベが受け止めてくれたおかげで、それほど飛ばされなかったけど、一方で、前の繋がった穴の方に、大分跳ね飛ばされたらしき『サンディコッコ』と思しき姿が見えた。
名前:サンディコッコ(狂化状態)
年齢:◆◆
種族:土鶏種(モンスター)
職業:
レベル:42
スキル:『体当たり』『発掘』『穴掘り』『穴埋め』『土中呼吸』『嘴術』『蹴り技』『土魔法』『◆◆◆◆◆◆◆』『鳥言語』
うん。
まあ、『狂化』状態だよな。
へえ、『穴掘り』とか『穴埋め』ってスキルもあるのか。
もしかすると『土魔法』で埋めてるわけじゃないのかも知れないな。
もっとも、通った後の穴が埋まっていたおかげで、今、その土壁にめり込んでるけど。
「KOKEEEっ!」
「あー、めり込んだまま、怒ってるな」
「コケッ!」
そういえば、さっき初めて地面の中でモンスターと遭遇したけど、『土魔法』で穴を掘ってる同士が衝突すると、お互いに結構な衝撃を受けるのかもな。
『穴を掘る』術式同士がぶつかったせいかね?
何となく、魔法相殺みたいな感じだよな。
というか、そんなことを考えている間も『サンディコッコ』が俺たちの目の前で、必死にめり込みから抜け出そうとしてるし。
偶然とはいえ、こっちはネーベが受け止めてくれて助かったよ。
まあ、な。
この隙を逃すつもりも毛頭ないので。
「ネーベも一緒に攻撃頼む。いくぞ――――『石礫』!」
「コケッ――――!」
「KOKEEEっ――――!?」
俺の礫乱射攻撃に合わせて、ネーベも『氷魔法』で攻撃してくれた――――んだが。
いや、ちょっと待て。
「ネーベ、お前、そんなこともできたのかよ?」
「コケッ♪」
突然、穴の前方に現れたのは、俺の頭よりも大きな氷の塊だ。
それが勢いよく『サンディコッコ』の頭めがけて飛んで行って。
「KYU…………」
そのまま、身動きが取れない『サンディコッコ』に直撃。
あっさり一撃で倒してしまった。
というか、おい。
随分と強いな、この『氷魔法』。
そもそも、これ、さっきの戦闘中に使われてたら、俺、ネーベとの戦いに負けてたんじゃないのかね?
俺がそうぼやくと、ネーベはネーベで『ここ、狭いから、仕方なく使ったんだ』ぐらいの感じの表情を浮かべて、羽根を広げたまま肩をすくめてるし。
おい、随分と仕草が器用だな、ネーベ。
何か、なっちゃんもそうだけど、こいつ実は人間なんじゃないか? ってぐらい愛嬌があるモンスターがいるよな。
このネーベも何となくそんな感じだし。
どうも、ネーベも『狂化』が解けた後も、何というか戦うの大好きっ子って感じの雰囲気を醸し出してくるんだよなあ。
『もっと戦わせて!』ってせがんでるようにも見えるし。
「とりあえず、こいつはどうしようか?」
もうすでに気を失っている『サンディコッコ』。
仕方がないのでそのまま、縦穴を上に掘って、そのまま、地上へとぽーんと打ち上げることにした。
いや、正確には『アースバインド』をふたつ並行して使ったらどうなるかなあ、と思って試したら、穴を掘るのと打ち上げるのが同時にできてしまったというか。
あ、これ、試しにやってみたけど、良い手だよな。
『サンディコッコ』の下に回り込んで、『アースバインド』を二重で、コッコの打ち上げ花火みたいになるし。
いや、打ちあがった直後に、気絶状態の『サンディコッコ』が更にぼこぼこにされてしまったのは気の毒だったけど。
うん。
直前に『フレンド通信』を使っておけば良かったよな。
いや、今のは完全に想定外で、ありゃ、と思った時には既にコッコの身体が地上に打ちあがってしまっていたから、しょうがないんだけど。
次からは死人に鞭を打つような真似はしないように気を付けよう。
「コケッ!」
いや、ネーベは敵に容赦は不要、って感じの表情をしてるけどさ。
正気に戻った後、味方になってくれるかも知れないのに、あんまりひどいことはできないだろ。
そんなこんなで。
生産職組の容赦のない攻撃に、少しびびりつつ、次の獲物を狙う俺たちなのだった。




