第307話 農民、儀式の中央区画へと移動する
「よーし! 着いたぞ! 待たせたな、リクオウのおっさん!」
「すまんな。さすがに地面の下を移動されるとな」
どうしようもない、と肩をすくめるのは格闘家のリクオウさんだ。
だが、俺たちの到着とテツロウさんの言葉に笑みを浮かべつつ。
「場所の特定さえしてもらえれば、地面ごと攻撃するし、地面の上まで出てきさえすれば、遠距離攻撃が得意な面々が何とかできる」
「そういうことだ」
リクオウさんの言葉に、側にいたヴェニスさんも頷く。
あ、ヴェニスさんもリクオウさんたちと一緒だったのか。
他にもメルクさんとかカオルさんとかもいるな。
この辺って生産職の人たちが多い場所なのかな?
ビンらしきものを持って笑ってるトーマスさんも一緒だし。
いや、単純にここって、ケイゾウさんたちの『儀式』が近い場所だから、人が大勢集まっているってのもあるかもしれないけど。
鳥モンさんなんかもいっぱいいるし、俺とかがあまり話したことないような、町の冒険者の人たちも適度な間隔で散らばっているのが見えるし。
……って、一目見て、色々と突っ込みたいことがあるんだが。
「セージュ、頼むぞ!」
「あ、はい!」
ただ、さすがにそういう空気じゃないので、即座に動く。
本当は、あのほんわか少女風味のカオルさんが、右手に大きなハサミのようなものを持っていることぐらいは、ぜひとも突っ込んでおきたかったんだが。
あれー?
カオルさんって、確か生産職で『裁縫職人』じゃなかったっけ?
おい、『裁縫職人』の得意武器って、もしかして……。
いや!
深く考えるな!
俺の役目は、地面の中を移動している『サンディコッコ』の補足だ!
その場にしゃがんで、地面に手を触れると、俺が触れている点から数メートルの範囲で地面の状況が認識できる。
「あっ!? 穴を掘って、空洞ができてるんじゃなくて、即座に『土魔法』で穴を埋めている?」
「わかるのか、セージュ?」
「はい。へえ……だから、地上から見た感じ、穴だらけになってないんだな」
「うむ、そのようだな。穴だった場所はさすがに土の色が違っているからわかるが」
「わかりました」
リクオウさんからの返事に頷きながら、俺は次の手を打つ。
「なっちゃん! こっちの方向に『土魔法』の残滓があるから、そっちに進みながら、一定間隔で『アースバインド』で縦穴を掘ってくれる!?」
「きゅい――――!」
「テツロウさん、リクオウさんでもいいですけど、一緒について行って、なっちゃんを攻撃から護ってもらえます? なっちゃん、普段だったら、防御系の『土魔法』が使えるんですけど、穴掘りに集中するとそっちがおろそかになりますから」
「了解! ってか、逃げた方向はわかるのな?」
「ああ、わかった。護るのは得意だ」
任せておけ、とばかりにテツロウさんとリクオウさんが笑みを浮かべる。
そして、リクオウさんは早速、なっちゃんが『土魔法』で人が入れるぐらいの縦穴を掘ったのを見て。
「それにしても、この小さな身体で『土魔法』が使えるのだな。大したものだ」
『魔法は身体の大きさイコール強さじゃないっすからね。もちろん、固有魔力の残量とかには影響することもあるっすけど』
リクオウさんに笑い返すのはベニマルくんだ。
っていうか、ベニマルくんはベニマルくんで、さっきの『レッドコッコ』との戦闘以降、普段とは大分違う雰囲気になってるし。
いや、何というか。
正確に言えば、さっきから燃えっぱなしなのだ。
ベニマルくんの身体を燃え盛る炎の揺らめきのようなものが包んで。
おかげで、俺たちと少し離れた、いつもしゃべりかけてくる高さよりもちょっと高い場所を飛んでいるし。
『あ、セージュさん、今、僕に近寄ったらダメっすよ』
『ちょっと、調子に乗って、食べ過ぎたっす』
『『火魔法』の障壁が大きめに発動しているんで、これ、使い切るまでちょっと待って欲しいっす』
ということらしい。
さっき、戦闘直後のベニマルくんに教えてもらったけど。
『レッドコッコ』の炎を奪って無力化するために、ベニマルくんもちょっとばかり無理をしてしまったらしい。
少なくとも、『火魔法』を飲み込んで自分に力にできるのがベニマルくんの能力ってことだよな。
いや、それもすごいけど。
さすがは『グリーンリーフ』で名前を与えられている鳥モンさんだけはある。
さておき。
「セージュ、わたしは?」
「ルーガは、『もぐら叩き』の準備だな。ひょっこり顔出したり、下から飛び出してきたやつを弓で狙えるようにしてくれ」
振り返りながら、ルーガたち遠距離できる人たちにやってもらいたいことを伝える。
この中だと、ヴェニスさんやメルクさんなんかがそっち系らしい。
『商人』のヴェニスさんが『投擲』ってスキルを持っていて、メルクさんが『弓』系統が得意、と。
「セージュさん、私もお裁縫道具を投げられますよ?」
「あ、はい、お願いします、カオルさん」
にっこり笑うカオルさんに慌てて頷き返す俺。
何だろう。
中身がほんわかお婆ちゃんな人が、大きめのハサミをにこにこしながら胸元に抱えている図って、すごく怖いぞ?
いや、剣やら槍やらを振り回して、みんなが戦っている戦場なので、ある意味ではそれも普通なのかも知れないけどさ。
何で、日常品が武器化するとこんなに怖いんだろ?
肉切り包丁、とか。
これ、俺だけの感覚なのか?
まあ、いいや。
深く考えていると、闇の方に引っ張られる気がするし。
トーマスさんの『火炎放射』とか『火炎瓶』とか、もう突っ込まないからな!
いや、お酒プラス『火魔法』でそういうこと思いつくとは思ったけどさ。
もう、手投げ爆弾みたいなのを作ってる人がいたとはなあ。
うーん……。
生産職って、戦闘系の職より穏やかな人が多いんじゃないのか?
何か、戦える生産職って、思いもよらない発想が詰まってそうでやばめなんだけど。
「セージュはどうするの?」
「俺はなっちゃんの進行方向とは別の角度で回り込んで、追い詰める役だ。穴掘って、地面の中を行く」
前に地下通路を進んだ時もそうだったんだけど、俺の場合、地中のほうが『土の民』の種族特性が鋭くなってくるんだよなあ。
上から手をかざして調べるよりも、中に潜った方が効率がいいというか。
『サンディコッコ』たちがどの辺にいるのか、正確に測るには、そっちの方が都合がいいのだ。
今でも、移動した方向とかは何となく察知できるけど、潜ってしまえば、そういうのとは感覚のレベルが違うというか。
「おっ! そういえば、セージュのそれ見るのって初めてだな」
「あれ……? ということは……?」
「ねえねえ、セージュ君も潜るってことは、『もぐら叩き』の的の当たりはずれに注意しろってことだよね?」
「当たってしまったら、ごめんなさい、ということかしらね?」
「いやいや! その発想はまずいから! カオルさん!」
「うむ、十分に注意する必要があるということだな」
「そういえば、この場合もPKになるのかな?」
「悪意というか、狙う意図はないから、どうなのだろうな?」
えーと……。
うん。
俺もフレンドリーファイアに気を付けよう。
というか、あのでかいハサミでぐさりは嫌だぞ、俺も。
「……こっちも避けますけど、気を付けてくださいね」
コッコを地面の上へと叩き出すまで潜ったままでいれば大丈夫だよな。
そんなことを考えつつ。
そのまま、作戦へと移る俺なのだった。
年内の投稿はこれが最後になります。
今年一年ありがとうございました。
皆様、良いお年を。
(明日は元旦ですので、投稿時間は不定orお休みでもご勘弁ください)




