第303話 農民、フロストコッコと戦う
「KOKEっ――――!」
「えっ?」
うわあ、うわあ。
さっきまでの調子に乗っていた自分の行動、素直に謝りたいわ。
うん。
今、目の前で起こったことを話すぜ。
『フロストコッコ』のくちばしと打ち合っていたら、鎌の刃が折れました。
いや、冷静に振り返ってる場合じゃないのはよくわかる。
「KOKEEEEっ!」
「うわっ!? やばっ!?」
一瞬だけ、にやりという笑みを浮かべながら、そのままくちばしのラッシュで猛追してくる『フロストコッコ』の攻撃を残っている柄の部分で受けながら、頭の中で必死に対応策を考える俺。
いや、客観視してる場合じゃないけど。
まあ、『鎧』との戦いできれいな丸の穴が開いてたから、そこから少しずつ劣化していたんだろうけどさ。
まさか、突然、ぽっきりと折れるとか。
こういう時って、あんまり大きな音とか出ないのな。
いきなり、振るってる武器が軽くなったので、びっくりしたっての。
というわけで、俺の手にあるのは鎌改め、ただの棒と化してしまった柄の部分だけがある。
かっこよく言えば棍という感じだろうか。
だが、これだとダメなのだ。
「やああっ――――!」
「KOKEEEEEっ!」
「――――くっ!?」
やっぱり、ダメだ。
数合ほど打ち合ったが、先程までとは違って、すべて弾かれてしまった。
その原因については何となく気付いている。
これって、基準はよくわからないけど、鎌から棒状の物体になってしまったことで、俺が持っている武器スキルの補助がなくなってしまったのだろう。
先程に比べて、なぜか持っている武器が重く感じるのだ。
これは『農具』スキル、及び『農具技』スキルで、鎌に関する補正があったと考えるのが自然だろう。
いや、おかしいとは思ってたんだよなあ。
あんな大柄な鎌、本来の俺の膂力で振り回せるわけがなかったもんな。
さすがはゲームというべきか。
知らず知らずのうちに、スキルの補助による恩恵を受けていたってことだろう。
まあ、だからこそ、今まで俺みたいな戦闘に素人でも武器を持って戦えていたってことだろうけどさ。
十兵衛さんみたいな人ならいざ知らず、補正なしの能力で武器なんか使いこなせるはずなんてないし。
思い返してみれば、最初に使っていたショートソードですら、何となく使いにくさのようなものは感じていたのに、あの鎌、いくら振り回しても全然余裕なんだものな。
あれ、『農具』スキルの効果だったのかよ。
――――さて。
とすれば、どうしよう?
このまま、この棍で棒術として戦うのは得策じゃない。
『土魔法』で対抗しようにも、あれって『石礫』以外は、どちらかと言えば、防御系の魔技ばっかりなんだよな。
あまり接近戦向きじゃないというか。
それに、今は目の前の『フロストコッコ』もこっちのノリに付き合って、打ち合いをしてくれてるけど、たぶん、こっちが魔法を使ったら、例の『氷魔法』を使うことに躊躇しなくなるだろうし。
――――よし。
思考完了。
「KOKEっ!?」
「くちばし相手なら、こっちの方がいいだろ――――二刀流だ」
リーチに関してはくちばしの方が短いしな。
となれば、手数で勝負した方がいいだろう。
俺が持っていた棍をアイテム袋に仕舞ったことで、一瞬、警戒を浮かべるようにして、『フロストコッコ』が距離を取る。
その隙に伸ばすのは爪だ。
『土の民』の種族スキルの『爪技』だ。
両手を使って、なんちゃっての『二刀流』ってな。
少なくとも、全開まで伸ばせば、相手のくちばしよりは長いぞ?
これで、もぐら対にわとりの対決になったってわけだ。
…………締まらないな。
何というか、字面を見ると、全然迫力が伝わってこない対戦カードだよなあ。
どっかの農場の片隅で行なわれているような、ほっこりした縄張り争いみたいな感じだ。
まあ、こっちは真剣そのものだけど。
何せ、相手は人と同じぐらいの大きさのお化け鶏だしな。
「いくぞ――――!」
「KOKEEEっ――――!」
戦闘再開。
そのまま、連打してくるくちばし攻撃を片方の爪で受けつつ、逆手で反撃。
『フロストコッコ』の方も、即座に一歩退いては、爪による攻撃を回避して、再度連撃によって、今度は両方の爪を撃ち落そうとしてくる。
あー、やっぱ、こいつ戦い慣れてるわ。
何となく、他のゲームとかでの対人戦を思い出す動きをしてくるし。
だったら、もっと『氷魔法』とか併用してえげつない動きをしてこいとも思うけど、その辺は変なこだわりでもあるのかな?
正々堂々真っ向勝負というか、そんな気概を感じるのだ。
うん。
『狂化』してるはずなのに、不思議なコッコだよ。
あ、待てよ?
もしかして、これ、十兵衛さんみたいに戦闘に『狂化』してないか?
それ以外の仕草では、どこか愛嬌のようなものも感じるので、何となくそんな気がするぞ?
だからこそ、俺は俺で、真っ向勝負で行ってるんだよな。
何となく、目の前のコッコのことは嫌いじゃなくなってきてるし。
こいつもビーナスとかと一緒で、自分の意志ではなく『狂って』るんじゃないかって、そう思うから。
――――と。
緊迫しつつも、どこかまた楽しくなってきていた俺に対して。
不意に横から、テツロウさんの警告が飛んできた。
「セージュ! それ、受けるな――――!」
「――――へっ!?」
「KOKEEEEEっ!」
「そいつ、武器破壊を狙ってるぞ! 『嘴術・刃折り』だと!」
何ですと?
テツロウさんの言葉に反応するのとほぼ同時に。
俺の爪攻撃を挟み込むように、くちばしでくわえて、そのまま捩じ切るように回転する動きを見せる『フロストコッコ』。
――――うわっ!?
このコッコ、そんな攻撃もできるのかよ!?
想像以上に奥が深いな『嘴術』って!
俺がそう思うのと同時に、左手の爪が折れて、そのまま捩じ切られる。
いや、まあ。
テツロウさんは、武器破壊ってことで慌てて忠告してくれたんだろうけどさ。
俺の爪って、そもそも消耗型だから、こんな感じで折られても、そこまで慌てる感じにならないんだが。
いや、目の前の『フロストコッコ』も誇らしげに、にやりとしてるけどさ。
それ、意味ないぞ?
そんな俺の想いには気付かないように、折れた爪をそのまま飲み込む『フロストコッコ』。
「って、飲み込むのかよ!?」
そっちの方がびっくりだよ。
思わず突っ込んじゃったじゃないか。
まあ、その間にも、折られた爪を伸ばして元の長さへと戻す。
――――と。
「KOKE……っ!?」
「えっ?」
戸惑ったような表情を浮かべる『フロストコッコ』。
いや、今度は何だよ?
俺がそう思っていると。
「へっ!? セージュ、『蓄毒解放』って何だ?」
「――――はい?」
横のテツロウさんから、そう驚いたような声で尋ねられたかと思うと。
「…………KOKEぇ……」
目の前の『フロストコッコ』がそのまま地面に倒れ込んでしまった。
倒れた状態のまま、痙攣している『フロストコッコ』。
えーと……。
これ、今、何が起こった?
あまりと言えば、あまりの状況に呆気にとられる俺なのだった。




