第302話 農民、乱戦下で氷コッコと打ち合う
「早めに小さめのコッコは倒して、あのでっかいボスにとりかからないとな」
言いながら、ステータス画面と周囲の状況に目を走らせながら、テツロウさんがあちこちへと指示を飛ばす。
「みんな、情報共有行くぞ。『フレンド通信』だと情報流れるから、『けいじばん』の方にも並行して吹き込んでおくからな。余裕がある人、協力よろ」
「じゃあ、まず俺な」
「こちら、テツロウ。周辺にいるのは『レッドコッコ』『フロストコッコ』『コッコゴースト』の三羽。それぞれ、『火』『氷』『闇&死霊』」
『はーい、こちら、不眠猫。こっちは『ポイゾネコッコ』『コッコゴースト』の二羽。属性は『毒?』と『闇&死霊』ね。てか、ゴーストの方、物理攻撃が全然効かないんですけど! 誰か、対処法お願いー!』
『リクオウだ。こちらは『レッドコッコ』が二羽、『サンディコッコ』が二羽、『ナイトメアコッコ』が一羽だ。それぞれ、『火』『土』『闇』だな。『サンディコッコ』は攻撃しようとすると、土の中に潜って逃げてしまうので対処が難しいな』
『あー、あー、応答願います、応答願います。こちらヤマゾエ。こっちは『ウッドコッコ』と『クイックコッコ』ってやつ。『木』と『無?』かな? 『クイックコッコ』の方は、ちょっと属性がよくわからない。木の方は『樹化』すると、武器とかだと歯が立たなくなるな。魔法部隊で『火魔法』使える人、こっち手伝いに来てくれるとうれしいかな』
『魔法部隊のメイアよ。今、ちょっと十兵衛さんが『ブリリアントコッコ』……そうそう、あの大きいののタゲ取りやってくれてるから、そっちをサポートしてたわ。どうやら、『ブリリアントコッコ』の周囲には、他のコッコは近づかないみたいね』
おー、なるほど。
戦いながら、どんどん情報を増やしていくってわけか。
テツロウさんによると、これでログに表示される情報が増えて行くそうだ。
というか、テツロウさんもよくやるなあ。
目の前の『レッドコッコ』の攻撃をいなしつつ、同時に『けいじばん』とログ対応もしてるみたいだし。
「あ! ゾエさんとこやばいな。コッコが『結界』破りを狙ってるな。『火魔法』使える人、すぐ行ける?」
『魔法部隊のダークネルです。わたし、『火魔法』使えるから、ヤマゾエさんのところに向かいます』
「了解。あ、よし! 間に合ったようだな! さっきから冒険者ギルドの方とも話をつけてたんだが、手伝ってくれる人を派遣してくれたみたいだ」
『遅くなってすまない、ラングレーだ』
「まだ知らない人もいるかもしれないけど、冒険者ギルドのギルマスのラングレーさんね」
『フレンド通信』を通じて、テツロウさんがラングレーさんの紹介をする。
当のラングレーさんは、複数の冒険者さんを引き連れて、畑の南側の端までやってきたそうだ。
結界の中に入るのは自由らしいな。
「思った以上に数が多いので応援も呼んでる。だから、たぶん、今が一番苦しい時間帯だと思うから、ここを頑張って凌ごうぜ」
「ラングレーさん、薄いとこにサポートお願いします。場所については……『けいじばん』って見れます?」
『ああ、大丈夫だ』
「ではそちらで頼みます。とりあえず、外周の『結界破壊』対策と、バードマンさんたち妖精組の方のフォローが優先ですね。それ以外で余力があれば、戦力の振り分けはギルマスさんにお任せします」
『わかった』
テツロウさんとラングレーさんのやり取りを経て。
新しく現れた町の冒険者さんたちも、それぞれのパーティへと組み込まれていく。
その様子を黙ってみる暇もなく。
俺も、『フレンド通信』の会話を聞き流しながら、『フロストコッコ』に向けて、鎌を振り回す。
「おりゃああっ!」
「KOKEEEEっ!」
キィーンという金属同士が打ち合うような音が生じて。
俺の鎌と『フロストコッコ』のくちばしが衝撃と共に弾かれ合う。
やばい。
目の前のコッコさんも強いんだが。
それ以上に、何かこの感覚が楽しくなって来た。
見ると、『フロストコッコ』の方もニヤッと笑ったような気がしたし。
おい。
狂ってるんじゃないのかよ?
武器とくちばしによる打ち合いになった途端に、氷による攻撃も少なくなって来たし。
実は、こいつの本性って、戦うの好きじゃね?
「セージュごめん! そっちに攻撃行った!」
「――――っ!」
ルーガの謝る声がして。
俺の立っているところまで、何かが勢いよく飛んでくるのに気付いて、慌てて回避する。
何だよ、折角の好敵手との勝負を邪魔しやがって。
……じゃなくて。
今は乱戦中なんだから、こういうのも当然だよな。
いや、俺だけじゃなくて、目の前の『フロストコッコ』も少し嫌な顔してるけど。
……本当に、こいつ、『狂化』から立ち直ってないか?
あー、でもまだ、ステータスには『狂化』が残ってるな。
ちなみに、ルーガたちの方から飛んできたのは。
「……骨?」
地面に突き刺さっているのは白くて細長い物体だった。
「ごめんね、セージュ! こっちのコッコさん、あっちこっちに骨を飛ばしてくるの!」
「どうせ、最後の悪あがきよ! マスターの方にも飛んでくから油断しないで! でも、こっちは大丈夫。わたしたちの攻撃はさっぱりだけど、みかんの攻撃は通ったわ!」
「ぽよっ!」
みかんって、『死霊系』には強いわねっ! とビーナスの嬉しそうな声が届いた。
どうやら、『コッコゴースト』はもうちょっとで無力化できるようだ。
動きが大分鈍って来た、ってルーガからも報告があった。
うん。
みかんの『小精霊を食べちゃうぞ』攻撃はすごいな。
ほんと、非実体系にとっては天敵みたいな存在になってるもんな。
なので、こっちも『フロストコッコ』と相対した状態で、そのことについて『フレンド通信』と『けいじばん』に情報を伝えておく。
『あー、それ、助かる! セージュ君、そっち終わったら、こっちも手伝ってって、みかんちゃんに伝えてー』
『つまり、『コッコゴースト』は、その『小精霊』というものが憑りついて動いているということか?』
『すごいねー。ただの空飛ぶ果物じゃなかったんだ?』
あ、不眠猫さんとこから救援要請が来た。
あっちも『コッコゴースト』が複数いるみたいだな。
なので、こっちを無力化したら、みかんを中心に派遣だな。
「KOKEっ――――!」
「わかってるって! お前の相手は俺だって!」
「きゅい――――!」
『何か、ノリノリっすね、セージュさん』
「ごめんね、ベニマルくん。なんか、楽しくなってきちゃってさ」
『別にいいっすけどね。じゃあ、僕は氷系が来た時のフォローだけでいいっすね? だったら、あっちの同属のやつの攻撃封じに動くっす』
あいつ、ケイゾウさんたちの方も狙ってたっす、とベニマルくんが少し怒って。
炎で包まれた羽根を周囲にまき散らしている『レッドコッコ』を睨みつけた。
『炎系だか何だか知らないっすけど、『火喰い』の前で好き勝手されると、ちょっとカチンと来るんすよねえ。ヒナコさんを狙った報いは受けてもらうっす』
「うん、じゃあ、そっちは任せるよ」
そもそも、ベニマルくんは完全な部下じゃないし。
あくまでも俺たちの協力者だからな。
少なくとも、今まで会って以来、一番、ベニマルくんが怒ってるのはわかった。
それだけ、ケイゾウさんとヒナコさんを狙われたのが許せなかったんだろうけど。
『火喰い』ってのは、ベニマルくんの種族のことかな?
真っ赤な羽根を持っていて綺麗だとは思ったけど。
まあ、結果的に、テツロウさんのフォローにもなるからいいよな。
あっちはあっちで、ウルルちゃんとかが『水』を使って、火消しに動いてくれてはいたんだけど、それで敵さんも攻撃が無差別になったみたいだしなあ。
――――まあ、こっちは。
「そらっ――――!」
「KOKEEEEっ――――!」
いい機会だから、『農具技』でどこまでやれるか試してやるさっ!
引き続き、一対一で『フロストコッコ』と打ち合いながら。
こうやって、殴り合っているうちに、番長まんがみたいに打ち解けないかな、とか思いつつ。
目の前の『フロストコッコ』の無力化を目指す俺なのだった。




