第301話 農民、外のコッコと戦う
『クエスト『土木系クエスト:コッコダンシング』が変更されました』
『新しいクエストが発生します』
『クエスト『騒乱系クエスト:コッコダンシング』が発生しました』
『こちらは、混乱を解決するクエストになります』
『注意:乱戦、護衛、不殺推奨などの複数の要素を含みます』
『区画の周辺に結界が張られました。中から外へと移動する際に制限が発生します。今、中にいる方はクエストが収束するまで、外に出ることができません』
『それぞれ、思うがままの行動を取ってください』
例のぽーんという音が頭に響いたかと思うと、このクエストに関する注意点などが次々と流れてきた。
色々と言ってるけど、要はこれって、単なる踊りのイベントから、戦闘込みのイベントへと変化したってことだろ?
おかしくなってるコッコさんたちを正気に戻して。
この場の騒乱を終わらせろ、って。
戦うのは俺たち迷い人中心の集団と、『飛んできた』色とりどりのコッコさん軍団ということだろう。
一応、ケイゾウさんたちは『儀式』続行中という扱いらしいので、他の鳥モンさんたちと協力して、そっちを護りつつ、やってきたコッコたちを蹴散らせばいい、と。
そして、この『催し』を開いていた荒地の全域が『結界』で包まれたらしい。
たぶん、それをやってるのって、ラルさんだろうな。
これで町の方へは被害が広がらないようになるので、好きに暴れていい、って。
そこまで考えて、周囲へと目を遣る。
「KOKEEっ!」
名前:レッドコッコ(狂化状態)
年齢:◆◆
種族:火鶏種(モンスター)
職業:
レベル:◆◆
スキル:『体当たり』『火の玉』『登攀』『耐炎』『泳ぎ』『嘴術』『蹴り技』『火魔法』『◆◆◆◆◆◆◆』『鳥言語』
『GURUUUUっ!』
名前:コッコゴースト(狂化状態)
年齢:◆◆
種族:霊鶏種(モンスター)
職業:
レベル:◆◆
スキル:『浮遊』『念動力』『耐物理』『叫び』『闇魔法』『◆◆◆◆◆◆◆』『鳥言語』
俺たちのパーティの周りだけでも三羽のコッコがいるな、
『氷』に『火』に『幽霊』。
うん、何というか、コッコさん盛りだくさんだな。
離れたところにも、ちょっと色違いで様々な種類がいるみたいだし。
ただ、やっぱり、そのほとんどが『狂化』状態になっているらしく、見た目はコッコさんだけど目が可愛くない。
ビーナスと最初に遭遇した時みたいだよ。
というか。
「やっぱり、現れた数が多いな。こっちは三羽だけだけど、見た感じ百羽以上いるっぽいな」
「うわっ!? あちちっ!? いきなり燃えるなよなっ!?」
「マスター! こっちは『音魔法』をすり抜けちゃうわ!?」
「ぽよっ!」
『うわわっ!? 毒の息を吐いて来たわよっ!?』
『……地面に潜っちゃった』
『何で、逆さまに浮いてるのよ、こっちの真黒なコッコ!?』
『ははっ! あの、でけぇのが強そうだな!』
『これは……数もそうですが、随分と種類が多いですね……私も今まで目にしたことがない種が混じっています』
『コケッ!』
うん。
大混乱だな。
辺りから聞こえてくるのは戸惑いと悲鳴のような声ばかりだ。
うちのパーティにしたところで、同時に三羽のコッコが現れたせいで、対応が分断されてしまってるし、テツロウさんやビーナスなんかは即座に動いたみたいだけど、敵のコッコも中々の曲者だったようだ。
テツロウさんのロングソードによる斬撃を受けながらも、突然、燃え上がる『レッドコッコ』。
どうやら、羽根自体からも炎を発することができるようだ。
そのまま少し距離を取ったかと思うと、燃える羽根を飛ばしてきて、辛うじて、それをテツロウさんが盾で防いでいるし。
あれ、クレハさんが連れていたモミジに似てるか?
何にせよ、燃えているモンスターってのは厄介だよ。
ビーナスやルーガの前にいるのは死霊系のコッコのようだな。
何となく、例の『鎧』と雰囲気が似てるというか、薄く透けて見えるのはコッコの骨か?
ビーナスの『音魔法』をすり抜けたってことは、もしかして、あれ骨に憑依している霊の方が本体なのかもしれないな。
そして、俺の目の前には目の前で、全身が蒼と白の毛を生やしたクールビューティーな感じのが興奮気味で立ちはだかっているんだが。
『フロストコッコ』……氷のコッコか。
大きさは一メートルぐらいで、ケイゾウさんとか、この辺の『オレストコッコ』よりも大分大きめだな。
テツロウさんが相手をしている『レッドコッコ』やビーナスたちと戦っている『コッコゴースト』はそれよりも一回り小さいから、この氷のコッコは、コッコ種の中でも割と大きめの種なのだろう。
……遠くで地響きを立ててるやつは置いておくとして。
だって、あれ、ラースボアとどっこいどっこいだし。
あの『ブリリアントコッコ』ってのがボスか?
いよいよ、レイドバトルの様相を呈してきたし。
まあ、それよりもまずは目の前の敵だな。
確かに『フロストコッコ』は大きめのコッコではあるが。
大きいってことは的にしやすいってことでもある。
なので、相手が吐息を使って息切れしているところを狙って。
「――――『石礫』!」
「KOKEっ! っ!? KOKEEEEっ!」
「ええっ!?」
――――と。
俺が放った『石礫』の魔法に対して、まったく怯むことなく『フロストコッコ』が突っ込んできて。
そのまま、くちばしによる連打で、礫を撃ち落してしまった。
いや、ちょっと待て。
魔法ってそういう対処ができるのかよ!?
多少はノックバックのような動きもあったので、数発分は威力を殺せずに喰らっているみたいだけど、あんまりダメージがなさそうだ。
見た目はちょっとカラフルなコッコさんなのに、想像以上に強いぞ。
「効いてない――――!?」
「いや、セージュ。あれは痛みを堪えてるだけだ。クリティカルで一発入った。たぶん、打ち砕く時の当たり判定が厳しいんだな」
「え? クリティカル? 当たり判定?」
一瞬、横から飛んできたテツロウさんの言葉に戸惑う。
いや、クリティカルって。
俺の目には、普通の攻撃と比べても特に違いがわからなかったんだが。
不思議そうにしていた俺に対して、テツロウさんが笑って。
「ログだ」
「え? ログ?」
「そうだ。設定をいじれば、常時ステータス画面を展開したままでプレイすることができる。さっきのは『フロストコッコの嘴術!』『魔法相殺に失敗!』『一発クリティカル!』『フロストコッコは30のダメージを受けた』、ってメッセージから逆算しただけだ」
「えっ!? ダメージ!?」
あ! もしかして、数値化か!
設定を数値化にした場合は、その手のダメージ表記も出せるってことか?
「ああ。もちろん、『チュートリアル』とかでも説明された通り、この世界の場合、数値はあくまでも目安に過ぎないらしいけどな。だが、ダメージの値はさておき、ログに表示される周辺情報は十分に有用だってことさ――――甘いっ!」
「KOKEっ!?」
笑いながら、レッドコッコの『体当たり』を盾でいなすテツロウさん。
そのまま、俺に対する説明を続けてくれて。
「例えば、敵モンスターの名前な。俺は『鑑定眼』は後で取るつもりで、攻撃系のスキルや魔法とかを優先したんだが、これがちょっと予想外でさ」
何でもテツロウさんによると、『鑑定眼(モンスター)』を持っていないと、初見のモンスターの名前すら読み取ることができないそうだ。
いや、それ、初めて知ったぞ?
俺は最初から『鑑定眼』を持っていたから、基本、モンスターと遭遇した時は必ず使っていたので、あんまり気にしていなかったんだよな。
「だが、そのモンスターを倒せば、名前などがログに表示されるようになる。最初のうちは『◆◆』みたいな感じで伏字でログが流れるから、けっこう大変なんだよ――――『盾連打』!」
「KOKEEEEEっ!?」
いなしたレッドコッコの後ろに回ったかと思うと、盾を使ってボコボコにするテツロウさん。
そうすると、炎を受けている際の持続ダメージを盾が半減してくれるのだとか。
不意の『火魔法』対策でもあるらしい。
「で、それはそれで便利なんだが、もっとありがたいのが、パーティを組んだりしたメンバーが『鑑定』をしてくれた場合、その情報もログに表示されるってわけさ」
敵モンスターのスキル名もな、とテツロウさん。
俺が『鑑定眼』でコッコたちのステータスを読む。
それで、テツロウさんにも情報が共有されて、ログの目隠し部分が減って、情報が一気に増えて。
結果、把握できるようになった情報を元に、テツロウさんからの俺への助言につながる、と。
なるほどな。
だったら、俺もログを活用しようかな、と思ったのだが。
「『ギフト』を選ぶと、能力値はあがるがログが使えなくなる。だから、このやり方を狙うなら、分担しないとな」
残念。
そう上手い話はないってことか。
まあ、今はテツロウさんの助言を信じて。
「きゅい――――!」
「KOKEEEEっ!」
「そういうことなら――――『石礫』!」
なっちゃんの『土壁』の影から、隙を見て『石礫』を発動させる。
それも、フロストコッコの『嘴術』で撃ち落されるけど、確かに少しずつではあるけど、くちばしに傷ができてきたな。
「さっきも、くちばしの痛みで『氷の吐息』が撃てなかった時があったぞ。こいつら、攻撃手段は多彩だけど、そこまで強くはないようだな」
だから、とテツロウさんが笑う。
「早めに小さめのコッコたちは倒して、あのでっかいボスにとりかからないとな」




